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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第三章 四天王の思惑
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第四十八話 それぞれの覚悟

「てめぇら……」


 九十九は六鏖達をにらむ。

 六鏖達は、余裕の笑みを九十九に見せる。特に緋零は計画通りだと感じているのだろう。彼の笑みは、喜びを含んでいるようだ。

 彼らの奥には縄で縛られた朧が壁にもたれ、気を失っているのが見えた。


「朧を返せ」


「断る。あれは、お前を殺すために必要な道具だ。奴らもな」


「あいつらは、道具じゃねぇ!」


 九十九は感情任せに叫ぶ。

 大事な親友である朧を道具呼ばわりされたことが耐えられなかったのだろう。

 朧だけではない。柚月、綾姫、夏乃、景時、透馬は九十九の大事な仲間だ。決して道具などではない。

 だからこそ、六鏖の言葉を九十九は否定した。

 九十九の言葉を聞いた緋零は、九十九を見下したようにあざ笑う。

 九十九はそれが気に食わなかった。


「何がおかしい。緋零」


「別に。今の君は、まるで人間みたいだなって」


 緋零は思ってもみなかったのだろう。九十九が六鏖の言葉を本気で否定するなど。

 昔の九十九なら、絶対あり得ないことだ。昔の九十九は、残忍で、冷酷。血に染まっても何も感じなかった。まさに妖そのものだ。孤高の妖だった彼は、天鬼のように多くの妖に恐れられていた。

 だが、目の前にいるのは、人間のような感情を持つ九十九だ。

 仲間を巻き込ませないように一人で乗り込むような男ではなかった。

 雪代は、がっかりした様子で九十九を憐れむように見つめた。


「人間側に長く居すぎたせいね」


「ツクモハ……ニンゲンニ……ナリサガッタ」


「だったらなんだ?てめぇらと同類になるくらいなら、人間になり下がってやるさ」


 六鏖達に何を言われても九十九は、動じることはない。

 人間になり下がってもいい。朧を救えるなら、人間になってやると九十九は決意したのだ。

 朧を返す気のない六鏖達に対して、九十九な構えた。


「……どうしても、返さねぇって言うんなら、てめぇらを殺すだけだ」


「お前一人で勝てると思ってるのか?」


 六鏖達も構える。

 彼らは九十九を殺すつもりだ。

 それでも、九十九は引くことはない。


「てめぇらこそ、俺に勝てると思ってんのか?」


「みくびるな」


 九十九と六鏖達は、にらみ合う。

 そして、ついに、九十九は六鏖達と戦いを繰り広げ始めた。



 妖気がぶつかり合うのを感じた夏乃と透馬。

 あれから、二人も九十九を助けに向かおうとするが、罠が二人を遮り、昇ることすら不可能であった。

 二人は、何もできないことを悔やみ、塔を見上げた。


「始まったか。あいつ、本当に一人で四天王と……」


「……透馬、私に術をかけてもらえませんか?そうすれば、術で罠を少しでも遮ることができるはずです」


「……やれるとは思えないんだけど」


「やらなければなりません。九十九を助けなければ」


「……わかった」

 

 夏乃は、覚悟を決めたようだ。罠で多少の傷を負ったとしても、九十九を助けに行かなければならないと。

 夏乃の覚悟を受け取った透馬は、承諾し、術をかけようとした。

 だが、そんな二人を取り囲むように大量の妖が現れる。

 二人を塔へ入らせないように、そして、逃がさないように。


「まずいですね……」


「四天王の奴ら、俺達を中に入れさせるつもりはないみたいだな」


 妖は、夏乃と透馬に迫っている。

 このままでは逃げることすらできなくなってしまうだろう。

 透馬は覚悟を決めたように前を見据えた。


「夏乃、頼みがある。俺がこいつらを食い止めるから、夏乃は、月読様にこの事を報告してほしいんだ」


「ちょっと待ってください!あなた一人を残すことはできません!」


 夏乃は、透馬の提案に反対する。

 当然であろう。この大群の妖を透馬一人で戦わせれば、無事ではすまない。九十九も透馬も失ってしまう可能性だってある。

 だが、透馬にはある考えがあり、それを夏乃に告げたのであった。


「月読様なら、俺達が塔に入れるよう、道具を提供してくれるかもしれない」


「ですが……」


「もう、それしかないんだよ!朧と九十九を助けるためには!」


 透馬は叫ぶ。彼も覚悟を決めたのであろう。二人を助けるためなら、命がけで戦うしかないことに。そして、柚月達を信じて託すことに。

 その叫びと覚悟が夏乃に伝わってくる。とても強く痛いほどに……。

 夏乃は一瞬辛そうな顔をするが、透馬の覚悟を受け止めた。


「……わかりました」


 夏乃と透馬が構える。

 妖達は二人に襲い掛かるが、透馬が、岩玄雨を降り注がせる。

 岩玄が、妖を突き刺し、ひるんだ隙を狙って夏乃が跳躍し、妖から逃れ、聖印京へと急いで戻り始めた。

 妖達は、夏乃に襲い掛かろうとするが、透馬が妖達の前に出た。

 

「頼んだぜ、夏乃」


 一人、残された透馬は、妖達をにらむ。

 妖達は、今度は、逃がさんと言うかのように、透馬の周りを取り囲み始めた。これで、透馬は逃げ道を失ったが、絶望はしていなかった。

 なぜなら、柚月達はここに来ると信じていたからだ。

 それまで自分がやるべきことは、この大量の妖達と戦い生き延びることだ。


「いっちょ、暴れてやるぜ!」


 妖達は一斉に透馬に襲い掛かった。



「これで、傷口はふさがったわ」


「こっちも、毒は抜いたよ。あとは回復を待つだけだけど……」


 ようやく、柚月の治療を終えた綾姫達。

 だが、回復には時間がかかりそうだ。

 柚月の事も気になるが、夏乃と透馬は無事にたどり着いたのだろうか。

 九十九は今の現状を知っているのだろうか……。

 綾姫と景時は彼らの身を案じるしかなかった。

 その時だった。


「うっ……」


 ついに柚月は意識を取り戻した。

 だが、柚月の眼はもうろうとしている。それだけ、猛毒に侵されてしまったのであろう。

 息をするだけで精一杯のようだ。


「柚月!」


「綾姫……景時……朧……が……」


 柚月は起き上がろうとするが、激痛に耐えられず、起き上がれない。

 彼の身を案じるように景時が柚月を制止させた。


「動かないで。まだ、回復しないから」


「だが……」


「今、夏乃と透馬が四天王を追ってるわ。朧君を助けに行ったの」


「だったら、なおさら……」


 状況を聞いた柚月は激痛を押し殺して、起き上がる。

 傷がふさがったばかりの脇腹を押さえ、額から流れる汗をぬぐい、銀月を手にした。


「柚月!」


「行かせてくれ!俺は、朧を……助けたいんだ!」


 綾姫は柚月を止める。このままでは柚月が死んでしまうことを恐れたからだ。

 だが、柚月は、綾姫の腕をがっしりとつかんでいる。痛いほどに……。

 それほど、柚月の決意は固いのだろう。

 柚月の想いを察した景時は、綾姫の肩に優しく触れ、首を横に振った。


「止めても無駄だよ、綾姫君。柚月君は、何が何でも、朧君を助けに行くつもりなんだ」


「……わかったわ」


 綾姫は、切なそうにうなずく。本当は柚月を行かせたくなかった。

 当然だ。今、柚月を六鏖達の元へ行かせれば、どうなるか目に見えている。無事では済まないだろう。

 だが、柚月の想いを止めることはできない。綾姫でさえも。

 柚月は、椿が亡くなってから、自分が朧を守ると誓った。

 そのために、強くなり妖と戦い続けた。

 綾姫は、そのことを知っている。止めることはもうできなかった。

 だが、綾姫は心の中で誓った。柚月を死なせないと。自分の持てる力全て使ってでも、柚月を守ることを……。

 柚月達は、立ち上がった。朧を助けに行くために。


「柚月君、ちょっと待っててね。天次君を呼ぶから」


 景時は、石を放り投げる。

 すると、石から天狗の天次が現れた。



 天次は、天狗嵐を発動させ、風を巻き起こす。

 だが、その風は柚月達を切り刻む風ではない。その風は柚月達を乗せ、進み始めた。


「すごいな。こんなこともできるのか」


「天次君は、風を操れるからね」


 天次は、柚月達を風に乗せて進む。

 柚月達は、鳳城家の敷地内から出て、南堂にたどり着こうとしていた。

 だが、綾姫は何かに気付いたように目を見開いた。


「あれは……景時、降りて!」


 綾姫に頼まれた景時は天次に命じて、下降する。

 綾姫が目にしたのは、夏乃だ。

 それも、腕から血を流している。擦り傷も所々にできているようだ。

 透馬のおかげで、妖から逃れられたとはいえ、追手は夏乃を殺すため、追ったのであろう。夏乃は聖印京へ戻りながらも、妖と戦い続けたに違いない。

 夏乃は腕を抑え、痛みをこらえて、南堂へ向かっていた。

 柚月達は、風から降り、夏乃と合流した。


「夏乃!」


「綾姫様……」


「あなた、怪我を……」


「私は、大丈夫です。それより、月読様のところに行かなければ……」


「何かあったんだね」


「はい……」


 夏乃は、うなずき、歩きながら説明をし始めた。

 綾姫は、夏乃の怪我を治しながら歩く。

 柚月は、景時の肩を借りて、歩いていた。


「九十九が!?」


「はい。一人で入ってしまったんです。私と透馬は登ることすらできませんでした」


「入口がない上に、罠が仕掛けられてるなんて、厄介だね」


 夏乃から話を聞いた柚月達は、途方に暮れる。

 今の状態では自分たちでは塔にたどり着いても、入ることは不可能のように思えたからだ。

 だが、夏乃は、話を続けた。


「はい。ですが、透馬は、月読様なら、塔に入れるよう道具を提供してくださると……。そのために、私を逃がしてくださったんです」


 夏乃は、悔しそうに語る。

 本当は透馬を一人、残したくなかった。だが、月読に頼るほかすべはない。

 そうでもしなければ、九十九と朧は救えないと感じたからだ。


「……母上のところに、行くしかないな」


 柚月は決意する。月読に頼るしかない。たとえ、月読が許可を出す気などなくても、説得するしかない。残された道などないのだから。

 柚月達は、南堂へ向かう。

 月読の力を借りるために。

 


 柚月達は、南堂へたどり着く。

 柚月は、戸を開けると月読が眠りについていた。

 月読はほとんど、南堂で就寝し夜を明かす。それほど、多忙なのであろう。

 夏乃は月読が南堂にいると予測していたが、その読みは当たったようだ。

 足音が聞こえたからなのか、月の光がさし込んだからなのか、月読は目を開け、起き上がる。

 だが、月読が目にしたのは怪我を負った夏乃と大量の汗をかき、激痛に耐える柚月の姿であった。


「……お前達、何があった!?」


 柚月達の状況を察した月読は驚くように目を見開く。

 柚月は、月読の前に膝を立てて、頭を下げた。


「母上……。どうか、お力をお貸しください。九十九達を……助けに行きたいのです!」


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