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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第三章 四天王の思惑
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第四十七話 たった一人で……

 四天王が朧を外へおびき寄せ、連れ去る少し前の事だった。

 九十九は、聖印京周辺をうろついていた。

 移動しては立ち止まり、移動しては立ち止まりの繰り返しだった。


――奴らの妖気を感じられねぇ。隠れてやがるのか?


 九十九は、四天王を探しているようだ。

 雪代の様子からして、彼らが動き始めることは感づいていた。そのため、九十九は、四天王が動く前に、全員殺すつもりだった。

 しかし、靜美塔はもぬけの殻だった。塔には誰一人いない状態だ。

 もう彼らは動き始めていた。九十九は、焦りを感じて靜美山を降り、聖印京周辺を探っていたのだ。

 だが、どこを探しても四天王の妖気を感じることができない。

 焦りだけが募っていく九十九。聖印京に戻るべきかとも考えていた。

 その時だった。四つの強力な妖気が一気に膨れ上がるように満ちていくのを感じた。

 その妖気は間違いなく四天王の妖気だった。


――奴らの妖気だ!しかも、聖印京の近くか!?


 四天王の妖気を感じたのは聖印京のすぐ近く。

 しかも、鳳城家の離れ付近だ。

 四つの妖気は次第に激しさを増すかのように強くなった。


「あいつら、まさか、朧を!」


 九十九は気付いてしまう。四天王が狙っていたのは、自分ではなかった。

 狙われていたのは朧だ。おそらく、自分をおびき寄せるために、朧を利用するつもりなのだと九十九は推測した。

 この時、九十九は激しく後悔した。九十九は、自分が狙われていると感づき、さらに、柚月がこれ以上苦しまないようにと考え、自ら聖印京を去ったのだ。誰も巻き込ませないために。

 だが、結果は、朧を巻き込む形となってしまった。

 自分のしてきたことは全て無駄だったのだと、思い知らされた。

 九十九は、急いで朧のところへ向かう。四天王から朧を救うために。

 そんな九十九の前に大量の妖が、現れ、九十九の行く手を阻んだ。


「邪魔すんじゃねぇ!」


 九十九は吼えるように叫び、明枇を抜く。

 大量の妖の中へと突っ込むように突進していった。



 朧がさらわれてすぐのことだった。

 六鏖の猛毒に侵された柚月は意識を失った。

 意識のない中でも猛毒が柚月を蝕んでいく。

 柚月は大量の汗を流し、苦しそうに呼吸を繰り返し、再び血を吐いた。

 綾姫が水札で治癒術を、景時が医療の知識を駆使して、柚月の治療に取り掛かった。


「まずい状況だね」


「ええ。でも、助けるわ」


 綾姫達は懸命に治療を続ける。

 夏乃は、屋根の上に上った。


「綾姫様!私は、四天王を追います」


「お願いね」


 夏乃がうなずくと、透馬も陰陽術を駆使して、屋根の上に上った。


「俺も行くぜ。一人じゃ危ないだろ?」


「ありがとうございます。透馬」


 透馬もうなずくと二人は、綾姫と景時を見るように見下ろした。


「柚月の事、頼むな」


「うん、任せて」


「気をつけて」


 綾姫と景時に見送られ、二人はすぐに、朧を救いに出立した。

 夏乃は、素早く屋根の上を駆け巡り、透馬は陰陽術を駆使して、屋根の上を渡り歩く。

 目指す場所はただ一つ。朧がさらわれたと思われる靜美塔だ。

 二人は、朧の身を案じて、靜美塔へと向かった。


「毒の方は抜けそう?」


「何とかね」


 景時は、慎重に柚月を犯し続けている毒を抜く。

 一歩間違えば、命の危険性があるため、景時は今まで以上に真剣だ。

 集中力を切らさないように、そして、柚月を一刻も早く救うために、素早く毒を抜いた。

 綾姫も流れ続ける血を止血するために、治癒術を発動し続ける。

 だが、柚月の意識が戻らず、呼吸が乱れた。

 心臓の音が弱まりそうだ。時間は待ってくれない。

 

「柚月……」


 綾姫達は柚月の治療を続け、柚月が助かることを願うばかりであった。



「おらあっ!」


 九十九は、明枇を振り回し、妖達を斬り込んでいく。

 たとえ、妖にかみつかれても、体を斬られてもひるむことはしない。

 ただ、明枇を振り、妖を殺していくだけであった。

 全ての妖を殺し、九十九の息は上がる。

 ようやく、前に進める。朧を助けに行ける。

 そう思った矢先であった。

 上空から四つの妖気が迫りくる。四天王の妖気だ。

 四天王が近くにいることに気付いた九十九は上を見上げる。

 すると、一瞬だけ、四天王が朧を連れ去っていく姿が目に映った。


「朧!」


 九十九は朧を元へと向かう。

 だが、大量の妖達が再び現れ、九十九の行く手を遮った。


「まだ、出てきやがるのか……。だったら、俺の炎で灰にしてやる!」


 九十九は九尾の炎を発動し始める。

 その炎は妖達を燃やし尽くそうとしていた。

 だが、その時だった。

 大量の脇差が妖に向かって降り注ぎ、切り刻まれたかと思えば、一瞬にして妖達は氷漬けにされ、消滅した。

 こんなことができる奴らを九十九は知っている。かつて共に戦った仲間達だ。

 彼らの存在に気付いた九十九は上を見上げると夏乃と透馬が、九十九の眼の前に着地するように現れた。


「お前ら!」


「九十九!無事か?」


「お、おう」


 九十九は戸惑いながらもうなずくが、二人は暗い顔をしている。

 なぜ、そのような顔をしているのか、九十九はすぐに気付いた。


「朧様が四天王に連れ去られました……」


「ああ、今、俺もみた。靜美塔に向かってるはずだ」


「助けに行くんだな」


「当たり前だ。朧は、俺の親友だからな」


 九十九は笑みを浮かべてうなずく。

 朧にとって九十九が親友であるのと同じように九十九にとって朧は親友だ。何があっても、必ず助けに行くと九十九は決意した。


「私たちも行きます」


「力、貸すぜ」


「……ありがとな」


 九十九は素直にお礼を言う。だが、どこか複雑そうな表情を浮かべている。

 彼らを自分のことで巻き込んでしまったことを悔やむかのように……。


 

 九十九達は、四天王が待ち受ける靜美塔へ向かっていた。

 九十九は移動中、柚月が朧を守るために四天王と戦い、重傷を負ったことを聞かされた。


「柚月が重傷!?」


「はい、六鏖の毒にやられたようです。今、綾姫様と景時が治療を施しています」


「ま、綾姫は治癒術は得意だし、景時は医者だからな。大丈夫だと思うが……」


「そうか……」


 九十九は黙ってしまった。柚月が怪我を負ってしまったのは自分のせいだ。

 九十九は柚月の無事を願うしかなかった。

 そんな彼の様子を見た透馬は、ため息をついた。


「お前、もしかして、自分の責任だと思ってんのか?」


「は?」


「自分が聖印京を出たから、巻き込んだとか思ってんだろ?」


「……」


 透馬の問いに九十九は黙ってしまう。図星だ。九十九は全て、自分のせいだと悔やみ、自分を責めた。

 だが、夏乃も透馬も九十九が何を考えているのか気付いていた。

 一緒に暮らし始めて一か月しかたっていないが、九十九が聖印京を出たことで、九十九の事がわかるようになった。九十九が真実をひた隠しにしていること、自分たちを大事にしてくれていることを……。

 何も言わない九十九に対して、夏乃と透馬はあきれたような顔つきを見せた。


「やっぱ、こいつ馬鹿だな」


「同感ですね」


「なんでだよ!」


 馬鹿と言われ思わず突っ込む九十九。

 夏乃と透馬は笑みを浮かべて九十九を諭した。


「こんなことになったのは、お前だけのせいじゃないってことだ」


「そういうことです。私達は、柚月様が四天王と遭遇していることなど気付きませんでした。少しでも早く気付いていれば、柚月様がお怪我をすることはなかったはずです」


「ま、もともと、柚月の事も気付けなかったしな。しかも、お前が聖印京を出るなんて思ってもみなかったしな」


「そこを見抜けなかったことも、私たちの責務です」


「……」


 朧がさらわれたのは九十九のせいではない。

 夏乃も透馬も、気付けなかった自分たちを責めていたのだ。

 九十九は何も言えなくなってしまうが、透馬は笑って答えを出した。


「要するに俺達も同罪だってことだ」


「そうです。ですから、自分の責任だなんて思わないでくださいね。九十九」


「……馬鹿はどっちだ」


 九十九は二人には聞こえないように呟く。

 彼らの優しさは痛いほど伝わってくる。人間というものはこんなにも温かいのかと思うほどに。

 そして、九十九は、もう一度思い返していた。優しく暖かく接してくれた女性の事を……。九十九の心を癒してくれた愛しい女性の事を……。



 とうとう九十九達は靜美塔にたどり着いた。

 

「ここが、靜美塔ってやつか?」


「おう。そうだ」


 靜美塔は五重塔だ。幾重にも連なる青い屋根と純白の壁で作られた塔は美しくそびえたってはいるが、その美しさを覆い尽くし、消すかのように妖気が周辺に立ち込めている。

 今にも汚れてしまいそうなほどだ。妖や四天王の妖気が塔を覆い尽くしているのだろう。


「九十九、入口はどこですか?見当たらないようですが……」


 夏乃は入口を探すが、どこを探しても見当たらない。

 あるはずの入り口はどこも……。

 その答えを九十九は知っていた。


「入口なんてねぇよ」


「え?」


 夏乃と透馬は、驚く。入口がないというのはどういうことなのだろうか……。


「奴らは、入口をふさいだからな。お前ら人間に見つかっても殺されねぇように」


「んじゃ、どうやって入るんだよ!」


「あの最上階からだ」


 九十九達は上を見上げる。

 最上階に一つだけ戸がある。その戸は開いていた。

 九十九達は、そこから妖気があふれだしていることに気付いた。


「冗談だろ?あんなところ登れるわけがない!」


「私は、何とか登れそうですね」


「無理だ。罠が仕掛けてあるからな」


 天鬼達は塔の外部に様々な罠を張り巡らせていた。 

 陰陽師や忍びが登ってきても、その罠で殺せるように。

 夏乃達にとって最上階のまで上がるには困難のように思え、絶望的な状況に至った。


「じゃあ、どうすんだよ!」


「……俺一人で十分だ!」


「九十九!」


 九十九は軽々と跳躍する。

 仕掛けられた罠が発動し、妖気でできた矢が九十九に迫るが、九十九は明枇を抜いて、切り裂く。

 妖気が九十九をとらえようとするが、それすらも切り裂き、九十九はさらに上を目指した。


「あいつ……俺達を巻き込ませないようにするために……」


「本当に馬鹿ですね!九十九は!」


 夏乃と透馬は遠ざかっていく九十九を見上げるしかなかった。



 九十九はさらに上へ上へと跳躍する。襲い掛かる罠を切り裂きながら……。


――わりぃな。お前らを巻き込みたくねぇんだよ。四天王の狙いは俺だ。だったら、俺一人で戦えばいい。俺が、朧を助ける!



 全ての罠を切り刻みながら、九十九は最上階へたどり着き、中へ侵入した。


「やはり、来たか。待っていたぞ。九十九」


 九十九の前にいたのは、四天王、そして、捕らえられ、気を失った朧の姿であった。


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