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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第二章 大胆不敵な水の舞姫
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第三十三話 追い詰められて

 銀月と明硝子のぶつかる音が屋敷に響き渡る。

 柚月が刀を振れば、成徳も必死になって食い止める。柚月の攻撃が止まることはない。九十九が影付きの相手をしているため、成徳だけに集中できるということもあるからだろう。

 それに、綾姫が結界を張り、夏乃が朧と綾姫を守ってくれている。これで、影付きが綾姫達の影に潜むことは決してない。

 柚月は、次第に成徳を追い詰める。

 柚月の銀月が成徳の腕をかすめた。


「ひっ!」


 成徳はおびえたような目つきで、食い下がる。

 柚月は、容赦なく構える。成徳を追い詰めるために。

 柚月の鋭い目つきが成徳の怯えた目をとらえた。


「これで終わりだ。成徳!」


 柚月が銀月を振りおろすが、キンと言う音が鳴り響く。

 成徳の前に、硝子の盾が出現し、柚月の行く手を阻んだのであった。


「!」


「ははは!僕を仕留められるとでも思ったのかい?僕の明硝子はね、最強の盾を作ることができるんだ!君には、この盾は壊せないさ」


 驚愕する柚月に対して、成徳は勝ち誇ったかのように高笑いをし、明硝子を柚月に見せつける。

 成徳が発動した技は、結界・硝子の盾(がらすのたて)。硝子の盾を生み出し、攻撃を防ぐ、防御に特化した技だ。

 成徳はすぐさま構え、次なる技を発動しようとした。


「僕の勝ちだ!柚月!」


 成徳は、結界・硝子の刃を発動する。

 硝子の刃が柚月に迫る。だが、柚月は動こうとしない。彼は、冷静だ。

 柚月は、一瞬にして光の刃を身にまとい、手で振り払って、硝子の刃を打ち砕いた。

 柚月は異能・光刀を発動して、成徳の攻撃を防いだのであった。


「!」


 成徳は目を見開いて驚愕する。

 自分は完全に柚月に勝ったとでも思ったのだろう。硝子の盾があれば、自分は攻撃に専念できると……。今度こそ、柚月を抹殺できると……。

 だが、柚月は、光刀の力でいとも簡単に硝子を打ち砕いた。

 成徳は忘れていたのだ。柚月が最も得意とする力を……。

 勝利と言う言葉におぼれて、おごっていたのだ。


「見誤ったな。盾を作れば勝ったと思ったのか?うぬぼれるなと言ったはずだ」


 柚月は、構える。銀月が光を身にまとい始めた。


「ぎ、銀月!?」


「そうだ。銀月なら、その盾を打ち破ることができるはずだ」


「き、貴様こそ、うぬぼれるな!聖印能力と明硝子の力を組み合わせたこの盾が宝刀ごときに破壊されるはずがない!君は聖印能力と宝刀の力を組み合わせられないんだからね!」


 聖印一族は自分が持つ聖印能力と宝刀や宝器の技を組み合わせて発動することが多い。

 妖を仕留めるには十分な効果だ。

 ほとんどの人間がそれを習得しているが、柚月は習得できずにいた。光刀と銀月と言う高い能力が強みではあるが、組み合わせることができないことが柚月の弱みでもあった。

 それでも、柚月は己の実力でここまで上り詰めてきたのだ。妖を殺すために……。

 成徳は彼の弱みを握ったかのように叫ぶが、柚月はいたって冷静だった。


「……そうか。お前はまだ知らないんだったな」


「な、何がだ!」


「最近になって、聖印能力と銀月の力を組み合わせることが可能になったんだ」


 柚月は、笑みを浮かべる。

 すると、光刀が、銀月と同調し始めた。銀月は満月のように一層まばゆく輝いていた。


「銀月と光刀は高い性能を持っている。それゆえに、組み合わせることは容易ではなかった。けど、やっとできるようになったんだ。試したことはなかったんだがな」


「ば、馬鹿な!」


 成徳は動揺する。知らなかった。柚月が自分と同じように、聖印能力と宝刀を組み合わせることができるなどと……。それゆえ、硝子の盾は、柚月に勝てる唯一の手段だと思っていた。柚月では壊せるはずがないと。

 だが、今は、破壊すらも可能にしてしまう力を手に持っている。

 成徳の体は震えた。今までのような狂気で震えたわけではなく、恐怖で怯えているのだ。成徳は確信していた。硝子の盾は破壊されてしまうと……。

 怯える成徳に対して、柚月は容赦なく、銀月を振り上げた。


「実戦で使うのは初めてだ。その盾が壊せるか試させてもらおう!」


 柚月は、力任せに銀月を振りおろす。

 銀月が、硝子の盾にぶつかるが、今の銀月は光の刃を二重にまとっている状態だ。切れ味は抜群と言っていいだろう。

 その名は、銀月天浄・光刀ぎんづきてんじょう・こうとう

 刃が硝子の盾に食い込む。硝子の盾は次第に、ひびが入り、完全に砕かれてしまった。


「ひいいっ!」


 硝子の盾を完全に砕かれ、成徳は体制を崩されたかのように尻餅をつく。

 柚月は、成徳に刀をつきつけた。


「お前の負けだ、成徳」


「ま、まだだ!僕には影付きがいる!影付きさえここにこれば、僕はお前達に勝つことができる!」


「無理だ。あの影付きが九十九に勝てるとは思えない」


 往生際の悪い成徳に対して、柚月は冷静に答える。

 まるで九十九を信頼しているかのようだ。

 実際、九十九の力は信用しているのだろう。九十九自身は信頼できるかは不明だが……。

 柚月はただ、九十九の勝利を静かに待った。



 柚月と成徳との戦いが続いている頃、九十九も影付きと戦いを繰り広げていた。

 影付きは、再び、どこかの影に隠れたようだ。妖気を隠したまま。

 その状態では九十九ですら探すことは困難だ。九十九は、影付きを探しまわっていたが、見つけられずにいた。


「ち、また隠れがやったのかよ」


 九十九は周辺を見回すが、影付きの姿は見当たらない。

 すると、九十九にある岩が動き始めた。影付きは岩の影に隠れていたのだ。

 影付きはいとも簡単に動かせるはずのない岩を九十九にめがけて、投げつけるように突進させる。

 だが、九十九は影付きの気配を感じたかのように、跳躍した。

 岩は九十九の肩に直撃させ、九十九は一瞬だけ、苦悶の表情を浮かべるが、影に向かって明枇を突き刺す。

 岩は一瞬にして、ごとりと地面に落ち、動かなくなった。


「逃がしたか……」


 九十九は明枇を抜き取る。

 すると、今度は、木が揺れ始めた。風で揺れたのではない。影付きは、木の影に隠れたのであった。

 影付きは、無数の葉を刃のように変え、背を向けた九十九に向かって放つ。

 九十九は再び、気配を感じ、明枇を振るう。

 無数の葉を一瞬にして切り裂いたかのように見えたが、切り裂けなかった葉もあり、九十九の体を切り刻んだ。

 九十九は、苦悶の表情を浮かべ、後退した。


「こそこそと逃げやがって隠れてねぇで出てきやがれ!」


 九十九は吼えるように叫ぶ。だが、影付きが姿を現すことはない。九十九は、あたりを見回すが、柚月達が操られた様子はなかった。


――分身、したわけねぇよな。分身は夏乃がとらえた。もう、分身することはできねぇはずだ。


 分身は夏乃の淡雪に閉じ込められた。綾姫の分身も夏乃が先ほどとらえ、凍らせたため、影付きの力は半減している。これ以上の分身は、影付きにとっては危険だ。分身することは不可能であろう。

 だが、本体も成徳と同様往生際が悪いようだ。影に隠れて、九十九を殺そうとしている。

 九十九は、影付きを探ろうとするが、その時だった。


「!」


 九十九は体が震え始める。なんと、影付きは九十九の影に潜んだようだ。

 九十九は必死に影付きから逃れようと抵抗を試みるが、影付きも、力任せに九十九を操る。

 九十九は、震えながらも、明枇を自分の胸に近づけた。

 明枇が、九十九の胸にふれ、胸から血が流れた。


「ちっ。そう来たか。だが、残念だったな」


 九十九は妖気を放ち、一瞬にして自分を取り戻す。

 そして、今度こそ逃がさないと言わんばかりに、自分の影に明枇を突き刺した。


「お前の妖気は俺のより弱い。そんな俺を操れると……。思ってんのかよ!」


 妖の強さは妖気で決まる。九十九の妖気は天鬼より比べると弱いが、他の妖よりは強力だ。分身がとらえられ、妖気までもが半減された影付きに操れるはずがなかった。

 影付きは、逃げようと抵抗を試みるが、九十九は明枇を容赦なく押し込む。

 影付きが逃げる術は、もうどこにもなかった。


「とらえたぜ。もう逃げられねぇからな」


 九十九は、ぐっと、明枇を握りしめる。明枇から妖気があふれ始めた。


「喰らい尽くせ、明枇!」


 九十九が叫ぶと、明枇から妖気があふれ、一瞬にして、影付きを吸い取った。まるで、魂を吸い取るかのように。

 影付きの妖気は明枇から九十九へと流れていき、九十九は明枇を抜き取った。


「いただいたぜ、てめぇの妖気をな」


 九十九は明枇を鞘に納めて告げた。

 これで、影付きは、九十九によって討伐されたのであった。



 成徳はなすすべもなく柚月に追い詰められ、影付きも九十九によって討伐されたことにより、成徳の敗北は確定した。


「そ、そんな……」


 成徳は絶望した。自身の最大の強みである影付きが、討伐され、勝つために主眼が消え失せたからだ。

 九十九も綾姫達も成徳を取り囲むように、集まる。成徳を逃がさないために。

 柚月は、成徳に同情することなく告げた。


「もう、認めろ。お前の負けだ」


「くっ」


 成徳は歯を食いしばる。負けを認めたくないのだろう。だが、負けは負けだ。

 どうにかして、成徳はこの敗北という文字を打ち消したかった。

 そんな中、多数の足音が聞こえてくる。それも、こちらに近づいているようだ。


「誰かが近づいてくる……。九十九!」


「ちっ」


 何者かがこちらに来ると察した柚月は九十九に命じる。

 九十九も舌打ちして、小狐へと変化した。

 その瞬間、成徳の顔つきは変わる。また、勝ち誇ったような醜悪な顔だった。


「無駄だよ、すぐ暴いてやるから!」


 往生際が悪い成徳は、柚月達が、九十九と結託したことを暴くつもりなのだろう。

 そこへ密偵隊が現れ、柚月達を取り囲んだ。


「遅いんだよ、くず共!おかげで殺されるところだったじゃないか!」


 成徳は、まだ言うかと言わんばかりに罵声を密偵隊に浴びせる。

 柚月は怒りを通り越して、殺意が湧きそうだった。だが、ここで斬り捨てるわけにもいかない。

 そうなれば、確実に密偵隊は柚月をとらえるだろう。

 成徳は話を続けた。


「さあ、こいつらをひっとらえろ!この狐もだ!こいつは、妖狐だ!こいつらは、妖狐と結託してたんだ!これは重罪だ!」


「くっ!」


 成徳は九十九に対して指をさす。

 九十九の正体も成徳に知られてしまい、万事休すの柚月達は歯を食いしばるしかなかった。

 追い詰められたのは自分たちの方だと思い知らされた。


「ははは!ざまあみろ!僕の権限で貴様ら全員処刑にしてやる。即刻な!」


 成徳は立ち上がって、高笑いをし始める。まるで勝ったと宣言したかのように。

 だが、密偵隊の人間は、柚月達をすり抜け、成徳を取り囲むようにして集まった。

 成徳をとらえるかのように……。


「なっ!」


 これは、成徳も驚いたようだ。だが、柚月達も驚いている。綾姫を除いて……。

 密偵隊の人間は、成徳に対して、武器をつきつける。成徳を逃がさないようにとらえるつもりなのであろう。


「無駄な抵抗はするな。千城成徳!貴様を捕獲する!一緒に来てもらおうか!」


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