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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第一章 宝刀使いと妖狐の再会
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第十四話 目的はただ一つ

 天鬼を殺す。何とも傍若無人な発言をした九十九に対して、柚月と月読はあきれ返り、朧は驚いた。


「……九十九、天鬼は妖の頂点に立つ者。妖王(ようおう)と呼ばれているらしいな。その者を殺すことができると思っているのか?」


 天鬼は、500年前に前妖王を殺し、頂点に立った。鬼の一族は、妖の中でも最強の力を持っており、その中でも天鬼は、最悪と言っていいほどの力を持っている。一族にとって倒さなければならない相手であるが、圧倒的な脅威を前に、一族はなすすべもなく殺された過去を持つ。

 そんな相手をいとも簡単に殺すというのだから、月読は九十九に問いかけたのであった。


「思ってるんじゃねぇ、やるしかねぇんだよ。奴を殺せば、お前らも少しは楽になるんじゃねぇか?」


「他の妖が妖王になるだろう。戦いは繰り返されるはずだ」


「どうかな。鬼は操る力を持ってる。前妖王も鬼だ。あいつも他の妖を操ったあかもしれねぇ。鬼の一族は、天鬼とその息子、あと妹だけだ。息子と妹は、天鬼ほどじゃねぇ。なら、天鬼を殺せば聖印一族にとっては好都合だ。どうだ?月読」


 九十九は、月読に問いかける。確かに、九十九の言っていることは正論だ。鬼の一族は、妖をしたがえて、人々を襲ってきた。勝吏達も、天鬼さえ倒すことができれば、平穏がもたらされると推測してきたが、そう簡単なことじゃない。

 この無謀とも言える提案に月読はどう答えるのか、柚月と朧は返答を待った。


「確かに、天鬼さえ倒すことができれば、こちらとしては好都合だ。だが、どうやって倒すつもりだ?天鬼の他にも強敵がいるはずだが?」


「ああ、四天王のことな。あいつらも厄介だ。だから、ここに残ったんだろ?」


「どういうことだ?」


 柚月は九十九に尋ねる。都に残った理由と天鬼や四天王を倒す方法は一致していないように思えた。

 柚月の疑問に九十九は笑みを浮かべて答えた。


「俺の九尾の炎、それとてめぇらの聖印能力を合わせれば、勝つ見込みはある。四天王も天鬼もぶっ殺せるってわけだ。協力するって言ってんだよ」


 九十九は自信に満ち溢れた目をしている。柚月達の能力を信頼しているようだ。月読も同じことを考えていた。九十九と自分たちが協力すれば、妖に打ち勝つことができるだろうと。

 九十九の提案は、無謀とも言えるが、不可能ではない。見えないはずの終わりが見えてきたように月読は思えて仕方なかった。


「そうか、心強いな。お前に任せよう」


「よし、じゃ、今から乗り込みに行こうぜ!」


「は?」


 いきなり乗り込みに行くといい始めた九十九に対し、柚月達はきょとんとした目で九十九を眺めた。柚月達の異変に気付いた九十九は、きょろきょろとあたりを見回した。


「どうした?」


「……今から行くのか?」


「おう、今のうちに倒したほうがいいだろ?」


「……簡単ではないと思うぞ?」


「え?」


 月読の質問に対して、九十九はきょとんとした顔を見せた。

 確かに、協力すれば倒せるとは九十九も月読も考えていた。だが、九十九の発言は、突発的過ぎて柚月達はついていけなかった。


「いや、倒せるだろ?聖印の力は強いし、俺の力も強い。奴らの居城も知ってるから今からでも……」


「俺も簡単なことじゃないと思うが……」


「え?でもさ、天鬼は片腕燃やしてやったから、今のうちじゃねぇのか?」


「四天王はどうするの?」


「あ……」


 朧の問いかけに九十九はやっとのことで気付いたようであった。片腕をなくした天鬼なら倒せると考え乗り込むと発言したのだろう。確かに、天鬼だけならいいだろうが、天鬼はすでに居城に戻っているだろう。天鬼の前に、四天王も倒さなければならない。他の妖だっているはずだ。

 その事に関しては九十九は何も考えていなかったようだった。


「えっと……俺と月読と……柚月で……」


「私の能力が四天王に対抗できるかどうかわからないのだが?そこら辺は考えているのか?」


「俺はお前に協力する気はない。確かに、天鬼は倒すべき相手だが、無計画で進めば、俺達は確実に殺されるぞ」


「うっ……」


 柚月の言っていることは正論だ。もちろん、九十九に協力するつもりはないだろうが、どちらかと言うと無計画な九十九に協力はできないと言った様子であった。

 九十九も、返す言葉もないと言った様子で黙っていた。


「で、できるだろ!野生の勘でいけば倒せるんだよ!」


 考えた末に九十九は勢いに任せて発言した。もはや、開き直った様子だ。これほどまでに馬鹿だったとは月読も思わなかったようであきれている。

 九十九もある意味追い詰められたようだ。

 そんな九十九に対して、朧は手で九十九の肩にポンと置いた。


「あのね、九十九。普通、野生の勘では倒せないよ?倒せたら、天鬼もとっくに倒してると思うし……」


 朧の優しさがにじみ出た言い方ではあるが、内容は結構えぐい。朧に諭された九十九はもはや何も言えなかった。

 柚月は九十九がこの時ばかりは哀れに見えた。


「……わかった。今日のところはあきらめるぜ。確かに準備も何もしてないもんな」


 当たり前だろ、と言いたかった柚月であったが、心の中にとどめておいた。

 月読もため息をつき、あきれていた。

 この時、柚月は一つの不安が浮かび上がった。それは、九十九のことがばれないかだ。

 今まではうまくやってこれたが、それも九十九が小狐に変化していたからであった。だが、今後は九十九の存在に気付くものもいる可能性があった。変化で身を隠すこともできるだろうが、そう簡単に隠すことができるかどうか心配であった。


「それで、母上。今後、この妖狐はどうなさるおつもりですか?小狐に変化できるとはいえ、もしものことがあったら……朧も……」


 柚月は、不安に駆られていた。もし、九十九の存在が知られてしまえば、朧も重罪人となってしまうのではないかと。

 そうなったからでは遅い。

 だが、月読はそのことについても、考えを持っているようであった。


「そのことについてだが、問題ない。朧と九十九には、この離れに住んでもらう。そして、柚月、お前もだ」


「お、俺もですか!?」


 柚月は目を丸くして月読に尋ねた。この離れでしかも三人で住むとは思いもよらなかったようだ。

 だが、驚いていたのは柚月だけではない。朧も九十九も同じように驚いていた。


「あ、あの母さん、兄さんはこれまで通りで母屋で暮らしてもらっていいと思いますが……」


「お前は黙っていなさい。柚月は離れで住んでもらう理由がある」


「はい、すみません……」


 月読に冷たく言い放たれ、朧は落ち込む。

 朧が傷つけられ、柚月は、反論した。


「そんな言い方をしなくてもいいでしょう。朧は俺のことを思って……」


「柚月、お前は朧と九十九の監視をしろ。それが、今後の任務だ」


 柚月は月読を責めるが、月読は柚月の話を遮り、強引に話を進めた。

 しかも、朧を監視しろと言うのだ。九十九の監視ならわかる。だが、弟の監視をなぜしなければならないのか。しかも監視をする必要などないはずだ。朧は何もしていないのだから。

 柚月は怒りを抑えるために、拳を握った。


「……母上、俺は朧を監視するつもりなどありません。朧からこの妖狐を守るという任務なら引き受けます。いいえ、守らせてください」


 柚月は、月読に提案した。自分も離れで住むということは朧を守ることができると考えたからだ。大事な朧を妖狐なんかに奪わせるつもりはないと。

 柚月の提案を月読はため息をつきながら、受け入れた。


「……勝手になさい」


「そうさせていただきます。ですが、母上、今後の隊についてはいかがいたしましょう?朧を連れていくのはいいですが、妖狐まで連れていくわけには……」


「そのことだが、お前は隊長を降りろ」


「は!?」


 月読の唐突な命令に柚月は口をぽかんと開けた。まだ、就任したばかりの隊長を降りろと言うのだ。

 そんな無茶苦茶なことがあってたまるか!と言いたいくらいだ。柚月は全く話についていけなかった。


「た、隊長を降りるんですか?」


「そうだ。今後は、九十九と共に妖を殲滅しろ。いいな?」


「お待ちください!妖狐と妖を倒せとおっしゃるのですか!?」


「そう言ったつもりだが?何か問題があるのか?」


 月読は柚月に問うが、柚月は納得できなかった。九十九が都に残ることまでは耐えられるが、共に妖と戦うことなどできるはずがない。

 月読も柚月の気持ちを理解しているはずだ。だが、そんな気持ちのことなど月読にとってはどうでもいいことなのだろう。妖さえ殲滅できれば、月読はどんな人間でも利用する。それが、家族でもあっても……。


「問題大ありです!俺はこの妖狐と共に戦いたくありません!」


「俺は別にいいぜ。それで天鬼が殺せるんならなんだってな」


「お前は黙っていろ!話がややこしくなる!母上、どうか、もう一度考え直して……」


「これも勝吏様が決めたことだ。それでもまだ、お前は反対するのか?」


 月読は再び勝吏の名を使用する。勝吏の名が出てくると柚月は何も言い返せなかった。もはや柚月に与えられた選択肢は一つしかなかった。


「……わかりました。隊長は、降ります。妖狐と戦い、妖を殲滅します」


「勝吏様には私から報告しておこう。頼んだぞ、柚月、九十九」


「おう」


「……はい」


 柚月は、従うしかなかった。こうして、柚月と朧は妖狐・九十九との共闘と奇妙な共同生活が本格的に始まろうとしていた。


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