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聖印×妖の共闘戦記―妖王乃書―  作者: 愛崎 四葉
第一章 宝刀使いと妖狐の再会
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第十一話 再会

 柚月達の前に現れた九十九は、あの真っ暗な世界で妖と戦いを繰り広げていた妖狐であった。


「あの妖は……」


 小狐の九十九が妖狐に変化したことに対して柚月は、愕然としている。九十九に守られた朧も同様に愕然としていた。

 天鬼は、突然姿を現した九十九を食い入るように見ていた。目の前に九十九がいることが信じられないようだ。それに対し、九十九は、平然として天鬼に視線を向けていた。

 だが、その瞳には激しい憎悪を宿していた。


「やっと姿を現したか。会いたかったぞ、九十九」


「ああ、俺もだぜ。天鬼」


「ふ、ははははは!」


 突然、天鬼は、狂ったように高笑いをし、九十九から距離を取るように後退した。

 その笑いは喜びが混ざっているようだ。

 天鬼の異変を察し、九十九は立ち上がり、朧を守るようにして構えた。

 天鬼の様子を見た朧は、恐怖で身をこわばらせた。


「やっとだ!この日を待ちわびていた!これで、お前と殺し合いができる!」


 天鬼は、柚月に突き刺していた血霞を無理やり抜いた。柚月の体から血しぶきが飛び始めた。


「ぐっ!」


 血霞が抜かれ、激しい痛みに襲われた柚月は、手で抑えてうずくまり、苦悶の表情を浮かべた。


「兄さん!」


「朧!」


 柚月の元へ駆け付けようとした朧であったが、九十九に止められてしまう。

 朧も思わず立ち止まってしまった。


「その社の封印を解いてくれ。俺の大事な物が入ってるからな」


「でも、兄さんが……」


「頼む。お前しかいないんだ。それに、今あいつのところに行けば、天鬼はお前を殺す。俺が時間を稼ぐ。だから、その隙に……。」


「わかった」


 朧は苦渋の決断をし、うなずく。本当は兄の元へ今すぐ駆け付けたいだろう。九十九もできれば、そうさせてやりたい。だが、今行けば、確実に天鬼は、九十九との戦いを邪魔されたと、朧に殺意を向け、殺しにかかるだろう。

 朧を守るには、一刻も早く社の封印を解いてもらうしか方法がなかった。

 朧も九十九の想いをくみ取り、社の封印を解くため、後ろを振り向いた。


 天鬼は、すぐさま九十九に斬りかかる。先ほど、柚月との戦いと違って、天鬼の顔はまさに狂った鬼のようであった。

 九十九は、天鬼の斬撃をかろうじてかわすが、天鬼は続けざまに、九十九に斬りかかる。

 九十九は、天鬼の連続の斬撃を、見事にかわし、体制を整えた。

 九十九の動作はまるで野生の獣のようだった。


 朧は、九十九を助ける為に、術を発動しなおそうとするが、あることに気付く。社の戸に張られていた札が、剥がれ落ちていた。あの時、術は完全に解くことができたようだ。

 朧は社の戸を開けると、そこには妖刀が封印されていた。


「これが、九十九の……」


 朧は、がむしゃらに妖刀に手を伸ばす。妖気に覆われた手は痛みを覚えるが、朧はそれすらも耐え抜き、社から妖刀を取り出した。


 九十九は、天鬼と戦いを繰り広げているが、武器がない分苦戦している。

 かすり傷を幾つも負っていた。


「どうした?もう終わりか?」


「誰が終わるかよ」


 九十九は、肩で息をしながら、構える。

 だが、天鬼は容赦なく九十九に襲い掛かるように迫ってきていた。


「九十九!」


 朧に呼ばれて九十九は振り向く。朧は、妖刀を九十九に向けて投げ渡した。

 見事につかんだ九十九は、鞘から妖刀を引き抜き、天鬼の血霞をギリギリのところで受け止め、はじく。

 天鬼は吹き飛ばされてしまうが、すぐさま体制を整える。

 九十九は天鬼に切っ先を向けた。

 九十九の妖刀もまた血霞のようにまがまがしい妖気を放っていた。


「妖刀・明枇(めいび)か。久しいな、その妖刀を目にするのも」


「そうだな。待たせたな、天鬼。ここからが本番だ!」


 九十九は、明枇を薙ぎ払うようにして振り下ろす。まるで感覚を取り戻すかのように。

 柚月は、痛みに耐えつつ九十九が持つ妖刀を見て呆然としていた。


「あの妖刀、間違いない。あの妖狐は、あの時の……。だが、なぜ……」


 柚月の体が震え始める。痛みすら忘れるほどに九十九に対して怒りを燃やしていた。

 九十九は、再び天鬼と死闘を始める。妖刀を手にした九十九は、まるで猛獣のようだ。天鬼と互角の戦いを繰り広げている。二人は、狂喜の表情を浮かべる。この死闘を楽しんでいるかのように。二人の妖気が激しくぶつかり合い、柚月と朧は動こうにも動けない状態であった。


「死ね!」


「っ!」


 天鬼は、妖気で九十九を吹き飛ばし、九十九はかろうじて足に力を入れ、体制を整えた。

 しかし、天鬼は、九十九の心臓めがけて、狂気に満ちた顔で突きを放った。


「九十九!」


 朧は、九十九の危機を察知し、叫ぶが、九十九は寸前のところで血霞をつかむ。

 九十九の手から血が流れていた。


「!」


 血霞をつかまれた天鬼は、驚愕し、慌てて九十九から引き抜こうとするが、九十九は頑として血霞を離さなかった。

 九十九は強引に天鬼を自分の元へ引き寄せて、天鬼の右腕をつかんだ。


「しまった!」


「これで終わりだな、天鬼」


 九十九は、天鬼の耳元で言葉を吐き捨てる。まるで勝ち誇ったかのように。そして、九十九の手から白銀の炎が現れた。


「灰になりやがれ!」


 九十九は、白銀の炎を放つ。白銀の炎は、血霞と天鬼の腕を焼き尽くし始めた。


「ぎゃあああああっ!」


 天鬼は、右腕を抑え、狂ったように絶叫を上げる。九十九は冷酷なまなざしで天鬼の腕が焼かれるのを見ていた。


「くそがあああっ!」


 天鬼は、手刀で自らの右腕を斬り落とした。右腕と血霞は、白銀の炎の中で灰となった。

 天鬼の右腕からは大量の血が流れているが、天鬼は、痛みよりも憎悪が勝っているようで、荒れ狂ったような目で九十九をにらみつけていた。


「懐かしいな、白銀の炎か。そういえば、私をもいとも簡単に灰にしてしまうほどの威力を持っていたな。再生が難しく厄介なことよ」


 天鬼は自分の右腕を見つめる。右腕は前のようにすぐに再生されず、血が無残にも流れ続けていた。

 再生がすぐできないことを確認した天鬼は九十九に視線を向けた。


「だが、その白銀の炎をためらいもなく使うとはな」


「……てめぇさえ、殺せるならなんだってやるさ。この炎で灰にしてやる。安心しろよ、一緒に俺も灰になってやるからよ」


 九十九は不敵な笑みを浮かべる。まるでその表情は狂気をはらんだ鬼のようだ。

 天鬼もまた九十九に対して不敵な笑みを浮かべた。


「面白い。だが、ここで灰になるわけにはいかぬ。今日のところは引き揚げてやろう。それと、貴様」


 天鬼は、柚月に対して見下ろすように眉をひそめる。

 柚月も、歯を食いしばり、天鬼を見上げた。

 妖気を当てられ、痛みが増す。柚月は、ただ天鬼を見上げるしかできなかった。


「いい腕をしている。気に入った。貴様の名を聞いてやろう」


「……柚月、鳳城柚月だ」


「……鳳城柚月か。覚えておこう。さらばだ、九十九、柚月。次に会った時は、屍すら残らぬほど切り刻んでやろう」


 天鬼は、激しい妖気を身にまとわせ、一瞬のうちに、姿を消した。

 天鬼が去った後、都に結界が張られた。


「ちっ。逃げられたか」


 九十九は明枇を鞘に収める。そんな九十九に対して柚月は、沈黙していた。

 柚月の瞳には過去の光景が浮かび上がっていた。

 あの五年前、全てが真っ赤に染まったような景色を、姉が妖狐に殺された時のことを……。


「……」


 柚月は、立ち上がろうとするが、激痛のせいでふらついてしまう。

 朧は、柚月の元へ駆け付け、柚月を支えた。


「兄さん、早く手当てを!」


「必要ない」


 柚月は、ふらりと歩きだす。柚月の異変に気付いた朧は、柚月を止めようとするが、柚月は朧すらもはねのけた。もはや、朧が側にいたことに気付いていないようだ。

 柚月の目に見えているのは、九十九だけなのだろう。

 朧は、柚月の裾をつかんで止めようとするが、朧の手からすり抜けてしまう。

 柚月は、落ちている銀月を拾い上げ、九十九に向けた。


「なんだ?」


 九十九は柚月に問いかける。だが、柚月は返事をしない。銀月がカタカタと震え始め、柚月の眼は九十九に対して殺意を向けていた。


「なぜ、貴様が生きている……。貴様は、五年前……俺が殺したはずだ!」


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