第2章 第5話
元気に手を振る月子と分かれて、ナナとふたり高校へと向かう。
「陽太さん、ごめんなさい!」
「何度も言うなよ、助けて貰ったのはこっちだし。だけどナナって運動神経抜群なんだな」
「必死だっただけですよ。それよりわたしの所為であんな事になって、本当にごめんなさい」
ナナは僕の制服の砂埃を何度も何度も払いながら。
「オリエたちにも寛大な対応をしてくれて、やっぱり陽太さんはステキですっ、大好きです、愛してます~っ!」
「だから、それはもういいって……」
オリエの襲撃から20分後、僕らは校門をくぐる。
「ところでさ、ベガへはどれくらい掛かるんだ?」
「あのロケットだとあっと言う間ですよ、5分もかからないかな?」
「すごく速いんだな!」
「ベガは近いですし、あのロケットは最新型ですし。でも燃料費とかすごく掛かるんですよ、バナナ何千本分も」
「お前の価値の単位、バナナなんだな」
教室へ入ると高鍋が僕を見て。
「どうした日向、制服が汚れてるぞ」
「ああ、朝から色々あってな」
「陽太さんごめんなさい、やっぱり叩いても取れませんね。今晩わたしが川で洗濯して来ますから」
「川で洗濯ってギャグだよね、大葉さんって面白いんだね」
「あれっ? ええっ? 確か地球じゃ洗濯は川で……」
いつの時代の情報仕入れてんだ、こいつ。
「大丈夫だよ、ちゃんと家の洗濯機で洗うからさ」
「えっ、大きな桃がどんぶらこって……」
ガラガラガラガラ……
時間前なのにドアが開く。
今日の一時間目は英語のはずなのだが、入ってきたのは担任の小田先生だった。
「お~いみんな、席に着け~っ。今日も転校生がきたぞ~っ!」
彼はドアの方を振り向くと手招きをする。
「なあナナ、すごくイヤな予感がするんだが」
「そうですね、陽太さん……」
カツカツカツ……
ドアから入ってきたのは長身に銀髪ツインテールの美少女。
彼女はその碧眼でぐるり教室を見回すと僕らを見つけてニコリと笑った。
「はあ~い! 私の名は琴乃織絵。気軽にオリエって呼んでもよろしくってよ!」
昨日に続きクラスが騒然となる。
二日連続だし、オリエもやっぱり美人だし……
「って、どうして戻ってきたんだよっ!」
僕の叫びにオリエは僕を睨みつける。
「あなたの所為でしょ、これを見なさいっ! こんなもの描かれて人前に出れると思ってるの? 私はファッションモデルもしていて、有名水着メーカーとの専属契約も結んでるのにどうしてくれるのよっ!」
彼女はセーラー服をめくるとそのくびれたお腹を見せつける。
「「「「「うおおお~っ!」」」」」
そこには本物と見紛うほどリアルなバナナが描かれていて。
「こんな恥ずかしいもの描かれて故郷の星に帰れるわけないじゃない! 陽太、責任は取って貰うわよっ!」
そう言う彼女の背中には子供の字で
「バナナ大好き(はあと)」
と書いてあった。
「泣かないでよオリエ、はいこれ!」
オリエの横に歩み寄ったナナはポケットからバナナを一本取り出して。
「オリエもバナナが好きなのね。いっぱい食べていいわよ!」
「何言ってるのよっ、バナナなんか大嫌いよお~っ!」
彼女の叫びは教室の窓を抜けて、6月の青い空へと虚しく溶けていった。
第二章 完
【あとがき】
こんにちは。日向月子ですっ!
あたいとお兄ちゃんと、そしてナナねえのお話、読んでくれてありがとうですっ!
お兄ちゃんはずっと年上だけど、面白くってお勉強も教えてくれて月子は大好きなんだよ。だけど女っ気ゼロでいつも男の友達ばかりでアニメとかばかり見てるし、将来は月子がお嫁さんになってあげなきゃ、って思ってたんだけど、金髪のすっごい綺麗な人を見つけて来ちゃってさ、少し見直しちゃった。ちょっとだけ寂しいけど、ナナねえならまあいいかな。
さて、今日は朝からすっごい大事件が起きてビックリしちゃったけど、本当は昨日、お父さんが宇宙人って言われたときもすっごくビックリしたんだ。だから今日は結構冷静だったのかな。
今思ったら時間を止めるって凄い事だなって思うよね。どんな原理なのかなって、どうしてお兄ちゃんとあたいだけは時間が動くのかなって、何故ロケットの自動航行設定システムだけは応答したのかなって。
その辺のところ作者に突撃インタビューを試みたんだけど、作者のひと、寝たふりを決め込んで目を開けてくれなかったんだよ。だから顔にマジックでお花畑を描いてやった。みっちりとねっ(るんるん)。
今頃鏡見て慌ててるんじゃないかなっ?
月子、お絵かきは得意なんだから!
と言うわけで、次章の予告だよ。
ナナと同じく地球に居残ったオリエ。
彼女もまた愛する自分の星を救うべく無い知恵を働かせる。
そうして導き出された結論は何と、オタクへの道だった……
次章「オタクロード一直線(仮)」もぜひお楽しみにっ!
みんなの可愛い妹、月子でしたっ!