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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第2章 織姫さまにご用心
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第2章 第4話

 僕がどんなに叫んでも、ナナに何を叫んでも、公園は静かに止まったまま。

 どんなに必死にもがいても強固な鎖はビクともしないし、背中の十字架が邪魔で体の向きすら自由にならない。


 一体この状態をどうしろと。

 万事休す、なのか……


 ん?



  ざざっ!



 あれっ、音がする。

 何だろう、この全てが静止した空間で……

 首を動かし音の方を見る。


 そこには名物の滑り台があって、その陰からひょっこり現れたのは見慣れた赤毛のショートボブ。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 心配そうな声を上げ妹が駆けてくる。


「月子こそ大丈夫か?」

「隠れてたから全然平気だよっ! 今鎖を外してあげるねっ! よいしょ、よいしょっ!」


 ランドセルや手荷物を砂場の縁に置いた彼女は太い鎖と格闘を始めた。

 でも、何故月子は静止しないんだろう?


「なあ、月子も時間を操れるのか?」

「出来ないよ、でも将来はできるだろう、ってお父さんが言ってた」


 そう言えば「あの父」は僕の能力を覚醒させるとき、月子にも能力はあると言った。但し覚醒はずっと先だと。もしかして、僕と同じ血を引く月子はこの止まった空間を共有し動くことが出来る唯一の人間、と言うことなのだろうか?


「ふう~っ…… はいっ、これで動けるよお兄ちゃん!」

「ありがとう」


 両手で体を起こし立ち上がると、月子の頭をでてやる。

 そうして体に付いた砂を払い落としながらナナの元へと駆け寄った。


「大丈夫か、ナナ!」


 勿論、声を掛けても彼女は微動だにしない。

 僕はナナに襲いかかろうとしている男たちをひとりひとり持ち上げると宇宙船へと放り込む。不思議なことにこの空間ではまるで重力がないかのように軽々と彼らを動かせた。


「この女が悪いんだよねっ! 月子が許さないんだからっ!」


 月子は布袋を手に持つとオリエの前に歩み寄る。


「なあ月子、いくらこの人が悪いからって乱暴しちゃダメだぞ。ナナ姉ちゃんのお友達みたいだからな」

「分かってるよ! 月子も全部見てたもん!」


 ツンとお澄ましして僕を見た彼女は、やおら悪戯っぽい笑みを浮かべ絵の具と筆を取り出しだ。そうしてオリエのお腹に何やら落書きを始める。


 ま、いいか。落書きなら。


 僕はムキムキな男たちを片っ端から宇宙船に放り込むと、もう一度ナナの元へと歩み寄る。必死の表情で僕を投げ飛ばした姿のままのナナ。その体勢を少し変えようかと思ったけれど、紺のセーラー服にその身を包んだ彼女はどこに触れることも躊躇ためらわれて……


「ありがとう、ナナ」


 最後に僕はオリエの元へと歩み寄る。


「どう、出来たよお兄ちゃん!」


 満足げな笑顔でオリエの細いウエストを指差すマイリトルシスター。

 そこにはヘソ出しルックの彼女のお腹をキャンバスにドカンと一本の黄色いバナナが描かれていた。


「この絵の具はね、絶対落ちないって言う最新の塗料なんだよっ! ホントはおでこにお月さん描こうと思ったけど届かなかったからおへそに描いてみたっ!」


 パンツのふちから上に向けて生えたバナナはなかなかリアルに描かれていて。


「絵、上手いな月子」

「へへへっ!」


 彼女が描いたその絵に僕はあるよこしまな感想を持ったけれど、純真無垢な女子小学生相手にそんな話をする訳にもいかず……


 僕は月子と一緒にオリエを持ち上げるとロケットに乗り込んだ。

 そうして最前列にある運転席に彼女を座らせる。


「凄い機械だな……」


 運転席の前にはディスプレイやダイヤル、ボタンやスイッチが目白押しに並んでいた。

 こんなの見るの初めてだ。


「お兄ちゃん、ほらこれ、初心者向け取扱説明書だって!」

「ホントだ、マンガでよく分かる図解入り、って」


 しかも日本語で書いてある。

 懇切丁寧にもほどがあった。

 僕はそのロケットを遙か25光年先、「ベガ」と書かれたポイントへ行くよう設定し、発射までゼロ秒にダイヤルを合わせる。


「じゃあ月子、降りようか」

「ちょっと待って!」


 月子はランドセルから筆を取り出すとオリエの背中にも何やら書き込んで。


「これでいいよ、二度とこの女がナナねえと喧嘩しないおまじないだよ」


 途中、屈強な男たちのおでこに片っ端からデコピンをしながらロケットを降りてきた月子。

僕は彼女と手を繋ぐと「元いた場所」へと向かう。


「不思議な風景だね」


 月子は改めて児童公園を見回した。

 見慣れたはずの公園には銀のロケットがそびえ立ち、しかし全てが黙り込んでいる。


「助かったよ。ありがとうな、月子」

「どういたしまして。でもさ、お兄ちゃんカッコよかったよ!」

「そうか? 月子こそ頼りになるな」

「えへへっ、照れるな、照り焼きになっちゃうな」

「じゃあ、時間を元に戻すよ。いいか?」

「うん」


 僕はナナが立つその先、十字架が突き刺さった跡が残るその地点を両足で踏みしめる。


 と。



  ブオオオオオ~ッ!!



 眩い銀色の光にくるまれてロケットが目の前から消えるように空へと飛び去っていく。


「じゃあな~ もう戻ってくるなよ~!」

「あっかんべ~、っだ!」


 やがて、公園に朝の爽やかな光と風が戻ってくる。


「陽太さんっ、月子ちゃん!」

「ナナねえ~っ!」

「ナナ~っ!」


 ……よかった。

 これで全て解決だ。


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