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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第12章 才色兼備のナナ姫は、恋の作法を気にしない!
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第12章 第2話

 エメラルドグリーンの海を飛び、緑豊かなサモスランカ島へと舞い降りる。

 着陸したのは街はずれの小さな広場だった。


「南国って眩しいねっ!」

「だけど風があって気持ちいいわ」


 真夏の日差しに思わず頭上に手をかざす。


「綺麗なところだね!」


 月子は少し走って振り返る。


「お兄ちゃん、こっちだよ。大統領府はこっちだよ!」

「待てよ。その前にこの国の繁華街を見てみよう」

「そうね。どうせ小さな街でしょうけどね」


 僕らはビルが見える中心街へと向かった。

 オリエが言う通り人口9万人の国、サモスランカの中心街は実にのんびりとしていた。背が高い建物は数える程度。多くは明るい色に塗られた2階建の建屋にお店が入っている。通りは広く豊かな緑を湛えた街路樹に覆われ、その木陰には木製のベンチが幾つも置かれている。そこにはクレープやジェラートを手に思い思いに寛ぐ老若男女。


「観光客かな」

「だろうね。平日のこんな時間にアロハシャツ着てお買い物なんてさ」


 お店はカフェやレストランの他、土産物屋も多そうだ。看板を見上げる。こっちにはブックストアにファーマシー、あっちにはレンタサイクルにシューズショップ。大きくはないけど活気があって、でも時間はゆっくり流れている感じ。どこかバーナーナの街に似ている。


「あっ、日本のアニメショップだわ」


 オリエが指差す先、『アニメフレンズ』なる看板が。

 早速店に駆け込むオリエ。


「凄いわね、こっちの言葉に翻訳された『僕は男子寮のメイドさん』があるわ」

「オリエねえ、欲しがってた限定フィギュアが残ってるよ!」

「ホントだわっ! 買わなくちゃ!」


 盛り上がるオリエと月子。

 ここサモスランカは昔、欧州列強の植民地だった。その所為か共通語はフランス語。とは言え英語でも何不自由なく旅行できるという。独立国家としてはとてもとても小さな国だけど恵まれた水産資源や農作物、そして素晴らしい自然を売りにした観光は人々の生活を豊かにしているとか。そうは言ってもGDPは日本よりかなり低い。だからあのふたりは丸田の工場に大きな期待をしていたわけで。


「結構賑わってますね」

「そうだな。売り場も広くて品揃えも多そうだね」


 オリエが心ゆくまで買い物を済ませると店を出る。


「どうすんだ、両手のその大きな袋」

「空間圧縮機で圧縮してポケットに入れれば……」

「人前ですんなよ!」

「分かってるわよ」


「ハロー!」


 突然の声に振り返ると赤い野球帽を被った初老の紳士が立っていた。


「荷物大きいデスネ。この先 手荷物預かり場所ありマスヨ」


 彼は笑顔でそう言うと僕らを手招きする。


「コノ赤い帽子、安心できるボランティアのマークデスヨ」


 なかなか上手に日本語を話す彼、聞けば観光案内ボランティアの人だという。


「ワタシ去年マデ国会議員デシタ。年金もアルシ、こうやって観光客案内、楽しいデス」


 ふと周りを見る。赤い野球帽を被ったボランティアは通りのいたるところに目に付いた。老後に観光ボランティアになる、と言うのはこの国では当たり前のことらしい。彼らは道案内や観光案内、店舗案内や通訳の代わりなど、それぞれ得意なことをするのだとか。


「無料奉仕なのに大変ですね」

「ハハハハハ。デモこの国の紹介するの楽しいデスヨ。ソレニ一緒に食事をシタラおごってクレル人もイマスヨ」


 余計な事を聞いてしまった。こりゃ何か奢らなきゃいけないのかな。

 ま、せっかくだし丸田の工場を知っているかどうか聞いてみた。


「ところで、最近閉鎖した食品加工工場って知ってますか?」

「モチロンです。ご案内シマショウ。こっちデス!」


 いきなり連れて行かれた。

 市街地からバスに乗って10分ほど、海が見える丘の上に2階建ての広大な建屋があった。真っ白いその工場は出来てまだ日も浅いのだろう、ピカピカの光彩を放っている。

 広い敷地への入り口の、鉄の門は開放されたまま。


「入っちゃいけないんですよね」

「ダイジョウブ」


 赤い野球帽のボランティアおじいさんは躊躇なくどしどし入っていく。

 いいのか? よそ様の敷地じゃないのか?

 ……とか思いながら僕らも後に続く。


 敷地内右手には白線で区分けされた広い駐車場。

 黒い車がぽつんと1台止まっているだけだ。

 左側に建つ白い工場は近くに寄るほど圧倒されそうな大きさだった。入り口には大きなガラスの自動ドアがあってさすがにそこは閉まっていた。


「ワタシも近くには初めて来マシタ。大きいデスネ~」


 赤い帽子のおじいさんは建物を見上げ大きく息を飲む。


「なあナナ、デザートパーラー・ケンタウルスって世界でもせいぜい20店舗だったんだよな。それにしては巨大な工場だな」

「そうですね。きっとこれから違法輸出を拡大しまくるつもりだったのでしょうね」

「つわものどもが夢のあと、だねっ!」


 自慢げな月子の頭を撫でながら。


「確かに人のいない工場ってびしいな……」

「アレッ! ニホンの人じゃないデスカ!」


 突然、背後から声を掛けられビクリとする。


「あっ、ルーバックさんだっ!」

「覚えていてくれマシタカ! 先日はお世話になりマシタ」


 ロン毛のイケメンお兄さんはサングラスを外すと腰を屈めて月子に挨拶をした。

 そしてゆっくり立ち上がると僕らにも軽く手を上げて。


「工場を見に来てくれたんデスカ。もしかしてアナタが天川サン?」

「いや、そうじゃないですが。ちょうど良かった。実は……」



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