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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第2章 織姫さまにご用心
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第2章 第3話

 オリエの声に上空のスクリーンが砂の嵐に変わる。


「見なさい、このベガのシリアスな惨状を!」


 彼女は手元のリモコンを操作する。

 と!

 陽気な音楽が流れ始めるや、老若男女、パパママ・じじばば・子供たちが派手な格好でスクリーン狭しと踊り始めた。



  みんなで行こう~ ベガの街

  最新ファッション 高級ブランド

  貴女も貴男もお子さまたちも~

  みんな楽しくショッピング~

  お腹が空いたら美味しいグルメ

  甘~いケーキもヨダレをそそる~

  


「あっ、間違えた。これはベガの観光PVだったわ。ごめんあそばせ、てへぺろっ!」

「てへぺろ、じゃねえっ!」

「仕方ないわね、さっきのトリプルコーンはダブルで許してやるわ!」


 オリエは恩着せがましく僕を見下ろすと、またリモコンを操作する。

 次に映し出されたのは「ベガ貿易白書」とタイトルされた画面だった。


「オッホン。このプレゼン資料をご覧なさい。この折れ線グラフは近年の貿易推移よ。我がベガの先進衣料や最新デザイングッズの輸出が激減しているでしょ、そしてこの赤い線が帝国コンツェルン社ファッショナブル事業部の売り上げ推移……」

「見事に帝国社に喰われてるな」

「そうなのよ! よく気が付いたわね、陽太。さすがはナナが目を付けた男だわ」

「そこにちゃんと書いてるじゃねえかっ!」


 その折れ線グラフのタイトルは「帝国社に奪われたベガの輸出量」だった。

 しかも日本語。

 これで分からないヤツは即刻眼科に行くべきレベルだった。

 しかし僕の突っ込みを華麗にスルーする銀髪ツインテの美少女。


「昨年の我が星の経済成長率は何とマイナス10%。街はニートで溢れヒマを持て余した自宅警備員たちは地球から密輸された娯楽アニメやゲームに興じているわ」

「いいじゃないか、毎日アニメやゲーム三昧ざんまい……」

「よくないわっ! その密輸している元凶も帝国コンツェルン社の密輸事業部なのよっ!」

「密輸事業部、って。そんなあからさまな部署名付けて当局に睨まれないのか?」

「ええ、当局の上層部に賄賂わいろを贈りまくってるらしいから……」

「賄賂贈ったら堂々とできるんだ、宇宙って……」

「ともかくっ!」


 どこから取り出したのか、オリエはムチで地面をピシャリと叩きつけ絶叫する。


「このままでは我がベガのお先は真っ暗なのよ!」


 要は、ベガの産業は帝国コンツェルン社に負けた、と言うことか。

 バーナーナと同じなんだ……


「だけどさ、どうしてベガのファッショングッズは帝国社の商品に押されてるんだ?」

「あいつらがブラックだからよ! 労働者を死ぬほどこき使って安い商品を大量に売りさばくからよ。いいこと、よくお聞きなさい。帝国コンツェルン社の勤務は月曜から木曜まで4日間、みっちり朝9時から夕方5時までなのよ!」

「週休3日か、いい待遇だな」

「バカを言わないでっ! 私たちベガの標準労働協約では労働は週3日、一日6時間と決められているのよ! 週4日、しかも8時間も働かせるなんてブラックよ、許せない暴挙よ!」

「だったら週5日、毎日8時間働いて残業も休出もやっちゃう僕ら日本人はどうなるんだ?」

「野蛮人」


 野蛮人と社畜しゃちくは違うと思うのだが。


「まああれだ、ベガの人達がなまけてる間に生産競争で負けたって訳だ」

「陽太は何にも分かっちゃいないわっ!」


 またもやピシャリとムチを地面に叩きつけ、オリエは僕をめつける。


「わたしたちも昔はあなたたち日本人と同じように長時間、汗水流して働いていたわ。だけどみんなで頑張って努力して、改善をして生産性を上げて、少しずつ労働条件をよくしてきたの。先人せんじんたちが力を合わせ、英知を積み重ねでやっと今の生活レベルを獲得してきたのよ。だからこのピンチも何とか知恵と工夫で乗り越えなくっちゃいけないの。昔に逆戻りは出来ないのよっ!」


 何となくだけど、言ってることはまともな気がした。

 だけど……


「おい、そんな綺麗事を言うベガ星人が有無を言わさず僕を誘拐するってのはどう言うことだ!」

「誘拐じゃなくってスカウトよ、ちょっと強引な」

「ふざけるなっ!」


 だけどオリエは涼しい顔で僕の言葉を受け流す。


「さあ分かったかしら。分かったらおとなしくベガへ誘拐されなさい」

「誘拐って認めてるじゃねえかっ!」


 さっきから僕ばっかり喋っているけど、ナナはチラチラと滑り台の方を見ている。この公園名物の幅広はばひろ滑り台がどうかしたのだろうか……


「さあお前たち、この少年を連れて行くわよ!」


 その声にサングラスの男が大きな掃除機にアンテナが付いたような機械を運んでくる。


「教えてあげるわ、これは亜次元あじげん空間発生装置。陽太だけを亜次元空間で包んで運ぶのよ。そうすれば時間を止めても無駄だからね。他の空間には影響しないから」

「オリエ、ちょっと待ってよ! どうしてこんな酷いことをするの? 中学時代わたしたちは仲がいい友達同士だったじゃない!」


 それまで沈黙していたナナが男たちに両腕を捕らえられたまま声を上げた。 


「仲がいいですって? 何をほざいているの? あなたとは皇学院こうがくいん中学でいつも火花を散らすライバル同士だったでしょ?」

「ライバルだなんて、何を言っているの! お勉強はいつもわたしが1番であなたは5番前後、バレー大会でもわたしはエースアタッカーであなたは控え、音楽会の時もわたしは指揮者兼ソリストであなたは照明係だったじゃない! だから普通に仲良しのお友達で……」


「だまらっしゃいっ! まだ分からないの! そこがムカつくのよ、腹が立つのよ! 私だって普通に優等生だったし、モデルにだってスカウトされてチヤホヤされて取り巻きだってたくさんいたのに。なのに一番は全部あなた。綺麗で優しくて何でも出来るって学校中の注目を独り占め。そのくせいい子ぶって彼氏とか取り巻きとか作らないし。私はそんなナナが大嫌いなのよっ!」


 どっちもどっちだな、こいつら。


「うそっ! いつもオリエと一緒にお弁当食べてたじゃない、バナナも一緒に食べたじゃない、リンゴジュースだって美味しい美味しいって飲んでくれたじゃない!」

「毎日毎日バナナバナナって飽きるのよっ!」


 またムチで地面を叩くオリエ。


「さあ、亜次元空間を発生させなさい。ふふっ、苦節三年。今日こそは、今回こそは私の勝ちよナナ! あなたの大切な、この少年はこの私がいただいていくわっ! ほ~っほっほっほ!」

「ダメよ…… 陽太さんは絶対に渡さない……」


 と。


 オリエを睨みつけていたナナの周りを淡く黄色い光が包み込む。


「ふう~っ、はいっ!」


 一瞬の出来事だった。

 ナナを捕らえていたふたりの男たちが互いに頭をぶつけられ前のめりに倒れ込む。

 その上を軽やかに飛び越えたナナは僕の方へと一直線に駆けだした。


「この怪力女! みんな、やっておしまいっ!」


 屈強な男たちが前後左右から一斉にナナに襲いかかる、しかし彼女はひらりひらりと身を翻して僕の元へと飛び込んでくる。


「さあ今ですっ、時間を止めてっ!」


 彼女はその華奢きゃしゃな体で突き刺さった十字架を僕ごと引き抜くと、砂場の方へと放り投げた。


 ざざささっ!


 僕の体が砂場へ軟着陸すると周りの景色は静止した。


 さっきまでの緊張がウソのように静寂に包まれた児童公園。

 十字架にしばり付けられたまま砂場に倒れ込んだ僕はナナの方に目を向ける。僕を放り投げた彼女は男たちに襲われる直前の姿で止まっている。間一髪だ。公園の中央に視線を移すと奇抜なヘソ出しルックのまま叫んでいるオリエが立っていて、その周りにも5人ほどの筋肉ムキムキな男たちが立っている。


 しかし。

 これ、どうするんだ?


 強固な鎖で縛り付けられた僕の手脚はぴくりとも動かず、十字架を背負った状態で立ち上がることすら出来ない。これでは時間を止めても何の解決にもならない。


「んんっ、ぐぐぐっ!!」


 どんなに力を入れても、どんなに頑張っても鎖はビクともしない。


 ナナのヤツ、鎖も解かず時間を止めて一体どうするつもりだったんだ。このままじゃいつまでもこの状態のまま。いや、多分僕の力が尽きると同時に時間が戻る。そうしたらやっぱり僕たちの敗北……


「ナナ、どうしろって言うんだよ! この鎖どうしたら解けるんだ! なあ、止まってないで何とか言えよ、ナナ、ナナあ~っ!」


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