第11章 第3話
明るく広く、清潔感のあるお店、フルーツパーラー・シャングリラ。
土曜日だけど時間も早いから結構空いている。
「ここですよ。メニューになくても頼めば大盛りにしてくれますよ」
僕らはふたりを店まで案内すると各々別の席に座った。
閉店したケンタウルスからここまでは5分程度だからあまり詳しくは聞けなかったけど、驚いたことにあの大柄な紳士はサモスランカの大統領なのだという。
「サモスランカは人口9万の小さな国デス、大統領と言ってもたいしたことはないデス。いつも付き人はワタシだけで通訳もボディガードも荷物持ちも全部兼任なのデスヨ」
そう語ったイケメンの若い男はルーバックと名乗った。
彼は美少女アニメステッカーが堂々と貼られた青いスーツケースを引っ張りながら自分の国を紹介してくれた。
100を超える島々を持ち漁業やココナツなどの農業、そして素晴らしい自然を売りにした観光が主要な産業だという南海の楽園サモスランカ。インド洋のエメラルドと称される綺麗な海が何よりの自慢なのだとか。
温暖で食べ物も豊富でのんびりとしたお国柄、経済的にはそこそこ豊からしいけど発展性に乏しく現状維持ではいけないと言う。だから国に新たな産業をと丸田の工場には大きな期待をしていたのだとか。正直、すごく複雑な気分だ。
「お兄ちゃん、早く注文決めなよ」
そんなこんなを思い返していると月子がメニューを差し出してくる。
「いらっしゃいませ、陽太さん」
お冷やを持ってナナもやってくる。
「あっ、え~っと……」
「またあとで来ますから、ゆっくり選んでくださいね」
「そうだナナねえ、今日はお仕事2時までなんでしょ? そのあと一緒に遊ぼうよ」
戻りかけたナナは笑顔で振り返り。
「ありがとう月子ちゃん。だけど今日はちょっと用事があるの」
「用事? お兄ちゃんも一緒なの?」
「それは、えっと…… ううん、わたしひとりで」
ぺこり頭を下げてナナは戻っていく。
「お兄ちゃん、ナナねえどこに行くか知ってる?」
「知らないけど」
「ナナねえがお兄ちゃんにも言わないなんて怪しいな。浮気かな」
「ははっ。ナナだって色々忙しいんだろ」
僕はメニューを広げる。
フルーツパフェにチョコレートパフェ、バナナパフェに苺のパフェ。綺麗な写真たちがどれも「わたしを食べて!」と主張する。メニューのページをペラリめくっていく。朝のセットに各種パンケーキ、そしてドリンクメニュー。和風にぜんざいやみつまめもある。今日は期間限定のクリーム抹茶みつまめにしようか……
「あのう、陽太さん……」
悩んでいるとナナの声がした。
まだ呼んでいないのに……
「ごめん、まだ決めてなくて……」
「あちらのお客さまが陽太さんと月子ちゃんにフルーツパフェをと」
横に立ったナナが手を向けた先には僕らに手を振る陽気な二人組。
「と言うわけです。新しいお友達ですか?」
「あ、さっきそこで知り合ったんだ。アロハ着てる年配の人はサモスランカの大統領だって」
「ええっ! それって凄いじゃないですか!」
ナナは大きな目を丸くする。
「丸田の連絡先を知りたがってたんだけどね。宇宙に帰ったとか言えないし……」
ナナに事情を説明すると僕らは席を立ち彼らに頭を下げる。
やがて、彼らが奢ってくれたパフェを食べていると天川店長がサモスランカの大統領とルーバックさんに挨拶をしていた。きっとナナが店長に報告したのだろう。
ガシャン!
「あっ、すいません!」
見るとナナが運んでいたグラスを落としていた。
慌てて掃除用具を持ってくるナナ。この店で彼女の失態を初めて見た気がする。
「月子手伝ってくる」
「あっ、ダメだよ月子…… って」
僕の制止も聞かず月子はナナの元へと駆けた。返って邪魔になるだろうに。その様子を見ていると天川店長が声を掛けてきた。
「サモスランカの人には悪いことをしましたね」
「あ、彼らから聞いたんですか。そうですね。でも仕方ないですよね」
「そうかもです。ところで……」
グラスの後片付けをするナナを見ながら店長は少し声を潜め。
「ナナさん、何かあったのですか?」
「何か、って?」
「彼女はここ数日ずっとあんな感じなんですよ。いや、グラスが減るのは構わないんですが、、体調が悪いとかだったらいけないなと」
「学校ではいつも通りでしたよ、体育も普通にやってたし……」
「そうなんですか……」
そういや月子も最近のナナは元気がないと言っていた。
学校での彼女はいつもより更にはっちゃけていたけど、やはり悩んでるのかな、自分の星の深刻な不況を。オリエもそう言っていたし。
「ねえねえお兄ちゃん、今日2時になったらナナねえと遊ぼうよ」
いつの間にか月子が戻ってきていた。
「え? ナナは用事があるって言ってなかったか?」
「だから一緒について行くんだよ。2時になったら店の前に集合だよ」




