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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第11章 サモスランカの青い風
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第11章 第2話

 翌日は土曜日。

 朝から朝食を作りに押しかけてきたナナはフレンチトーストにバナナの輪切りをしこたま散りばめ、自作だという特製シロップを掛ける。


「はいどうぞ」

「ありがとう」


 どんなトラップが仕掛けられているのか?

 恐る恐るひとくち食べて……

 ふたくち食べて……

 念のためもうひとくち……


「美味しい、じゃん」

「良かったですっ!」


 シロップは爽やかな柑橘系かんきつけいの風味がして、甘過ぎずしつこくなくて、何よりヘンなものが混ざっていない。

 見ると母さんも月子も、そしてオリエもみな旨そうに食べている。


「今日は僕のもみんなと同じなんだな」

「もう陽太さんったら、そんなわけないでしょ! そのシロップは陽太さんだけ特製ですよ。ちょっとチャレンジ精神が足りませんけど」

「何にチャレンジするんだ! そんな精神いらんわ!」

「そう、ですよね……」


 ナナはあっさり折れると僕を見ながら真っ白いエプロンを外す。


「どうした? 顔に何か付いてるか?」

「いいえ、ただ陽太さんがわたしの料理を美味しそうに食べてくれたの初めてかなって」

「そうかな?」

「ええ、そうです」


 彼女は小さく吐息を漏らすと笑顔を作って。


「今日はこれからバイトなので」

「ナナは食べないのか?」

「わたしは来る前にちゃんと食べましたから。ではまた……」

「えっ、ナナねえもう行くの?」

「ごめんね月子ちゃん、もう時間なのよ」

「ねえ、どうしたの? 最近のナナねえって元気ないよね」

「そんなことないわよ、ほらっ」


 ナナはその場で軽く宙返りを決める。

 スカートを手で押さえたまま跳んで回って着地するとか、どんだけ器用なんだ!


「ねっ、元気でしょ! じゃあね月子ちゃん」


 そして手を振ると玄関へと消えた。


「ねえお兄ちゃん、ナナねえ少しヘンだったよね」

「そうかな……」

「あの子は真面目だから」


 と、三枚目のフレンチトーストを食べていたオリエが顔を上げる。


「どうしたらいいか悩んでるのでしょうね」

「自分の星のこと、か?」

「そうでしょう。他に何があるの」

「自分の星のことって、何?」

「月子は気にするな、何でもないし。そうだ、このあと駅前に行こうか」

「お兄ちゃん誤魔化したな。けどまあいいや。パフェ大盛りで誤魔化されてあげるよ」


 朝食を終え、少し寛いでから家を出た。

 僕と月子、ふたりでマンションを出ると駅の方へと歩く。


「オリエねえは?」

「今日発売の新刊を買いに行くって先に出たよ」

「あ、『僕は男子寮のメイドさん』かな? オリエねえ楽しみにしてたし」


 何その薔薇の園のような予感しかしないタイトルは。


「あとで読ませて貰おうっと!」

「それ、R18じゃないだろうな、まったく……」

「小学生は最高だぜ」

「意味わかんねえ!」


 心配だ。先にオリエに借りて検閲しておかなきゃ。

 と、そんなたわいもない話をしつつ、気が付くと駅はもうすぐ。

 目の前にはガラス張りの綺麗なビルが見える。デザートパーラー・ケンタウルスが入っていたところだ。

 結局ケンタウルスは先週の騒動以来、一度も店を再開することなく閉店した。

 その空きテナントはどうなっているのだろうか? 僕がビルを覗いていると月子が手を引っ張る。


「気になるんでしょ。あたいも気になるよ。次は何が出来るかなっ!」


 そのまま手を引っ張られビルの自動ドアを抜ける。入ってすぐ右手、元・ケンタウスル入り口の自動ドアには貼り紙があった。



  デザートパーラー・ケンタウスルは閉店致しました。



 シンプル極まりない貼り紙。

 理由も、ご愛顧へのお礼の言葉も、連絡先も何もない。


「店の中はそのままみたいだね。次は何が出来るんだろ?」

「さあね。まだ閉店して一週間も経たないしな」

「アノ……」


 ふと背後から声を掛けられた。

 振り向くとそこには顔立ちハッキリで浅黒い肌の男がふたり。

 ひとりはがっしり大柄で青いアロハシャツを着た紳士、もうひとりは茶色のロン毛にグレーのスーツを着こなしたちょっとイケメン野郎。どう見ても外国の人だ。


「あのう、この店の人デスカ」

「いえ、違いますけど」

「じゃあ、この店の電話とかコンタクト方法とかワカリマセンカ……」


 若いロン毛のお兄さんがなかなかに上手な日本語で聞いてくる。


「ごめんなさい、分からないですけど、この店に何か用が?」

「はい、チョットアリマス」

「丸田さんなら帰っちゃったよ」

「ミスター丸田を知っているのデスカ?」


 月子の言葉にお兄さんが食いついた。


「あ、少しだけ、だよ。でも連絡先は知らないんだ」

「ソウデスカ……」


 ふたりは何やら外国の言葉で話をすると僕にぺこり頭を下げて。


「ども、アリガトウ」


 そうして店の前に立つとじっとガラス越しに店内を観察し始める。


「お兄ちゃん、この人たち丸田さんを探してるって、どんな用事なのかな」

「ああ、ちょっと気になるな」


 外国人ふたり組は何やら話をしていたが、やがて大柄なアロハの紳士が盛大に溜息をつく。


「あのう、もし良かったらどうして連絡を取りたいのか教えて貰えませんか」

「あ、はい。実はデスネ、ワタシたちはサモスランカから来たのデス」


 ロン毛のイケメンが答える。


「サモスランカって、このデザートパーラー・ケンタウスルの本拠地の?」

「その通りデス。丸田さんはサモスランカに大きなスイーツの加工工場を作ってくれマシタ。丸田さんのカイシャの人いっぱい来て、サモスランカの人もいっぱい働いてマシタ。でも丸田さんのカイシャの人、みんな突然いなくなったんデスヨ。工場ストップって連絡あってそれっきりデ……」


 要するに、残された工場の件で話がしたいのだという。勿論働いていた人をどうするんだと言うこともあるはずだけど、そのことは語らなかった。

 しかし、「彼は宇宙人でプロキシマ星に帰って二度と戻ってきません。だから連絡は無理です」なんて言えるはずもなく。


「パリの本店にもロンドンのお店にもフランクフルトのお店にも行きマシタ。昨日はトウキョウにも行きマシタ。でも全然情報アリマセン……」


 罪の意識にさいなまれる。

 彼を地球から追い返したのは僕たちだ。

 でもそれは仕方がないこと。彼らの行為は許されないことだったんだ。


 とは言っても。

 そんなこと言えないし、言っても信じて貰えるはずもない。

 申し訳ないけどこのまま立ち去るか……


  グウ~ッ


 さっきから盛大な溜息ばかりつく大柄な紳士は、激しく腹の虫まで鳴らす。


「おじさんお腹空いたの? パフェが美味しいお店があるよ」

「アー セミニョン!」

「チェマンジュフリヤンディーズ」


 何語だ?

 何となくフランス語っぽいけど全く意味わかんねえ。


「そのお店、教えてくれマスカ」

「うんいいよ。今から行くから一緒にいこうよ!」



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