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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第11章 サモスランカの青い風
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第11章 第1話

 第十一章 サモスランカの青い風



 その夜、二週間ぶりに父が帰ってきた。

 チャイムの音に月子も部屋から飛び出して来て大歓迎モードだ。


「お父さん、お帰りなさいっ」

「おっ月子、いい子にしてたか?」

「勿論だよ。お勉強はバッチリだしお料理だって勉強中だし、お兄ちゃんと一緒に悪者退治だってしたんだよ!」

「そうか。そりゃ偉いな」

「あなた、すぐにお茶を煎れますね!」


 母さんも嬉しそうに父を居間に案内する。


「ほら、約束のお土産だぞ」

「わあ~っ、かすてらだあ!」


 草書体で「青いシリウスかすてーら」と書かれた包み紙を丁寧に開ける月子。いつも思うのだがどうして日本語なのだろう。何かのサービスか?

 箱の中から現れたのは、形はごく普通のカステラ。

 だけど色が真っ青だ。


「ねえ、どうして青いの? シリウスの鶏の卵は青いの? それとも小麦が青いの?」


 月子の疑問に父は苦笑しながら。


「単なる着色料だ、青色二号ちゃんだ」

「ええっ、それってすごくがっかりだよ」

「そう言うなよ月子、きっと土産物屋さんも色々苦労してるんだから」

「そっか。じゃあ仕方ないね」


 あっさり納得するところ、月子はいい子だなって思う。単なるアホかも知れないが。


「じゃあ月子が切ってあげるね」


 そう言うなり台所へ駆ける月子。


「ところで陽太、こんな事件知ってるか?」


 父は黒いカバンから一冊の週刊誌を取り出した。「週刊コスモス」。パッと見た目はおっさんが読む時事からエロまで何でもあるような週刊誌みたいだった。

 父が広げたそのページから大きな見出しが目に飛び込む。


『帝国コンツェルン社に粉飾ふんしょく疑惑! トップ指示か?!』


 慌てて雑誌を手に取ると記事を目で追った。




 惑星開発からお茶づけ海苔のりまで、何でも手がける超巨大企業、帝国コンツェルン社に長年の巨額粉飾疑惑が浮上した。疑惑は宇宙船事業部門、住宅事業部門、出版事業部門、業務ソフト事業部門など帝国社の主要な事業にまたがっておりそのやみの深さは窺い知れない。今週にも宇宙取引監視委員会の特捜部が強制捜査に乗り出すとの情報も。週刊コスモス取材部は幹部たちの証言を追った……




「摘発の発端はダーク社長がアルタイルで何者かに自分のメールをハッキングされた事に始まるらしいな。そのハッキング捜査を行っていたアルタイル警察が社長や幹部のメールに多くの違法な指示を発見し発覚したとか」


 青い羽根を折り畳みながら父が解説する。


「って、それバカだよね。自分のメール見せたらまずいって気がつくよね普通」

「いや、ダーク社長は気付かなかったらしいぞ。自分の会社が粉飾してることに気付いていないからそんなことをしたって噂だ」

「そんな間抜けな社長っているの?」


 自社の決算が粉飾か否か、そんな重要なことを知らない経営者がいるわけない、と思うのだが。


「宇宙は広いからな。帝国社に勤める父さんの友達によると多分本当に気付いてなかったんだろうって話だ」

「そんなものなのかな……」


 記事はトップの責任についても語っていたが、帝国コンツェルンという会社の経営はビクともしないとも結んでいた。僕は何気に次のページ、次のページとめくっていく。そこには僕の知らないたくさんの宇宙の話。


「陽太、面白いか? 俺はもう読んだからその雑誌はあげるぞ」

「ほんと! じゃあ後でじっくり読むよ」

「カステラだよ、お父さん、お父さんのは凄く大きめだよ!」


 青いカステラを切り分けた月子が笑顔でやってくる。


「さあ、みんなで食べようよ!」


          ◆ ◆ ◆


 その夜、父は疲れていたらしく早々に寝室へと入った。

 僕も自分の部屋で父に貰った宇宙週刊誌に目を通す。

 いま、宇宙では既存の農業が大ピンチなのだそうだ。

 そう言えばナナが地球に来たのもバナナの売り込みのため。


 古い農業が追い詰められている理由には、帝国コンツェルンに代表される大規模農園の開発による価格下落があげられるが、理由は他にもあるという。記事によると、実はその最大の理由は既得権益を背景とした複雑な流通経路が問題だとか。だから帝国社のような新参者にも付け入る隙があるという。そう言えばいつかイグールがバーナーナとのバナナの取引量を拡大する契約を結んだ際、バーナーナの一次輸出先はアルタイル政府になっていた。政府が買い上げ商社に回すらしい。しかもそれは形だけの話、要は中間搾取がやたら多いと言うのだ。更にそこには談合や賄賂わいろと言う黒い噂が絶えないと記事は言う。


「お兄ちゃん何してるの?」


 ドアを少し開け月子が顔を覗かせていた。


「ああ、父さんの雑誌を読んでた」

「どれどれ…… このカラーのページとかエッチっぽいね。宇宙の女優の人だって…… ふ~ん、でも露出度イマイチだし、ナナねえやオリエねえの方が断然綺麗じゃん……」


 月子は帝国社の粉飾スキャンダル記事を見つけて大喜び。これで悪いダークも終わりだとはしゃぐ。だけど愛娘カエラはどうなるだろうと言うと腕を組んで考え込む。


「あのお姉ちゃんは優しかったよ、月子に美味しいものいっぱい分けてくれたよ。ちょっとデブだったけどね。イグールもあのお姉ちゃんと一緒になったらいいのに。そしたらナナねえに付き纏うこともなくなるしさ……」

「ん? どうした月子、急にこっち見て」

「そういやナナねえ、最近ぜんぜん元気ないよね。どうしちゃったのかな?」

「そうだな。やっと自分が作る料理の不味まずさに気が付いたとか?」

「何言ってるの、ナナねえの料理はすっごく進歩してるんだよ。進歩を超えて突然変異だよ。カンブリア紀の大爆発だよ」

「それって手当たり次第作ってるだけじゃねえのか?」

「はは、そうだね。ナナねえは何にでもバナナを絡めてくるのが玉に瑕、なんだよね……」


 ナナがどんな料理にもバナナを合わせてくる理由、それはバナナの新しい用途を開拓して売り上げを伸ばすためだ。僕は宇宙雑誌を手に取るともう一度宇宙農業事情の記事に目を落とす。そこにはバーナード星の事情も載っていた。




 例えば典型的な農業星バーナード。皇室外交のファインプレーにより対アルタイルのバナナ輸出が増加したニュースは記憶に新しいが、それでも全体を見れば焼け石に水。他の作物は沈んだままでバーナードの主要産業、フルーツ輸出の苦境は一向に回復の兆しを見ない。これも輸出を取り巻く宇宙の取引環境が主原因でバーナードだけの努力では如何ともしがたく…………




 さっきから僕はこの記事を何度も何度も読み直した。

 ナナが背負っているもの、その大きさに気が遠くなるようだ。

 そう言えば、帝国コンツェルンの丸田・ザ・ジャイアントが地球を去った日、彼が雇ったバイトのおっさんがみんなバーナード職安の紹介だったと聞いたナナの落ち込みようは見ていて気の毒なくらいだった。


「……お兄ちゃん! 聞いてるの? ねえお兄ちゃんってばっ!」

「あっ、ごめん月子。考え事をしてて……」

「お兄ちゃんもナナねえも、この前の日曜からちょっとヘンだよ。何かまた新しい問題でも起きたの? 月子に何か隠してない?」

「いや何もないよ」

「怪しいよ。明日ナナねえに聞いちゃうからね!



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