第10章 第6話
舞踏会も終了し、僕らは彦太の案内で宇宙船に乗り込む。
「今日はとんだ失態をお見せして本当に申し訳ございません。これに懲りずに是非またいらしてください」
「しかし彦太さんもお役目大変ですね」
「はあ、全くその通りで……」
あの後。
時間が動き出した瞬間、大広間に響いた大声はダークのものだった。
「カエラ~!」
王子さまと踊るぽっちゃり愛娘に手を振りエールを贈るダーク。
しかし、その大声に反応し彼に振り向いたのはイグールだった……
「イグール王子がダーク社長のくちびるを奪ったときはどうなることかと思いましたよ」
「ははは、面目ない」
媚薬を飲み込んだイグールはダークを抱きしめキスの嵐。そんな二人の痴態にカエラ嬢の強烈な右アッパーがお父さんに向かって炸裂。するとカエラ嬢に本気で怒ったイグール王子が彼女に殴りかかって、止めに入った彦太さんまで派手に巻き添えを喰ったのだった。ア~メン。
「おじさん、イグール王子に殴られて痛かったでしょ」
「ははは、お嬢さんにも心配掛けて申し訳ない」
いやごめん、本当は全ての元凶は、この月子なんだけど。
しかし、痛々しい頭のたんこぶを擦りながらも彦太は笑みを浮かべる。
「本当に大丈夫?」
責任を感じているのか、月子もやたら心配そうだ。
「大丈夫ですよ、お嬢さん。舞踏会は楽しかったですか?」
「はい、お料理がすっごく美味しかったですっ」
「そりゃあよかった。それでは皆さま、お気を付けて」
敬礼をする彦太に見送られて4人を乗せた小型宇宙船はゆっくりと上昇を始める。そうして急に高度を上げるとあっと言う間に周囲は真っ暗になった。
「心配だからこのままショッピングモールへ向かってもいいですか?」
「勿論。僕らの作戦が成功したか確かめないとな」
「ではモールのピロティに着陸しますね、陽太さん。うふっ!」
「さっきから凄く浮かれてるわねナナ。何があったの?」
ジト目で聞いてくるオリエ。
任務遂行後にイグールがダーク社長に求愛するという思いも寄らぬ一騒動はあったもののナナは終始ニヤニヤと嬉しそうだった。
「何でもないですよ。ねえ陽太さんっ。ぽっ!」
「ぽっ、じゃねえよ!」
しかし、そう言う僕も顔が熱くなる。
多分、ナナも僕と同じ事を考えてるいだろうと思うと……
舞踏会に出向く直前、僕はシリウスにいる父に電話をかけた。
どうしても知っておきたいことがあったからだ。
それは帝国コンツェルンの所為で不況に喘ぐバーナーナの農産業を復活させるにはどうしたらいいかという疑問。宇宙貿易連合の中で働く父ならいいアイディアがあるかもと思ったのだ。
僕はここ数日の話も織り交ぜ、バーナーナの窮地を訴えた。
しかし、父は簡単な解決法は見当たらないという。
僕が考えていた解決策もダメを出された。
代わりに父が教えてくれたのは宇宙の星々に伝わると言う伝説だった。
遠い遠い未来のこと。
平和だった星に破滅神が現れて人々が忘れていた飢えと絶望、裏切りと悲しみを呼び覚ます。アマツヒメと言う美しい星の皇女は闇に染まっていく世界を悲しく想い、人々を救うべく闇を切り裂く力を持つという大蛇に助けを求めた。生け贄を要求する大蛇に自ら身を捧げるアマツヒメ。しかし、生け贄の儀式の最中に時間を操る青年が現れ彼女を助け出し星の闇を切り裂いて大蛇を地底深くに閉じ込める…… と言う物語。
なぜ父がこの物語を語ったのか僕には分からないけど。
「さあ着きました」
亜次元空間を纏った宇宙船はショッピングモールのピロティに着陸する。
そうして宇宙船を降りるとショッピングモールの人はもうまばらだった。もうすぐ夜8時、フルーツパーラー・シャングリラの閉店時間だ。
「あれ、何ですか?」
ナナが指差す先、モールの広い通路に総勢100人を超える背広姿のおっさんたちがキチンと4列に整列していた。小さく前に倣えをしている。小学生か!
少し離れたところから彼らを観察する。
整列したおっさんたちの前に立つのはケンタウルスの店長・丸田・ザ・ジャイアント。
彼は背広姿のおっさんたちひとりひとりに紙袋を手渡していた。
やがて。
「今回の業務はこれで終了。皆さんの契約も解除です。明日以降の予定も全てキャンセルになりますがその分日当は上積みします。本当にお疲れさま。バーナード経由プロキシマ行きの宇宙船は30分後に出発するので乗り遅れないように。では解散」
一糸の乱れなく整列していたおっさんたちは四方八方に散っていく。
「地球土産でも買うに行くのかしら」
「きっとそうでしょうね。地球はそう簡単には来れない星だものね」
ふたりの王女の会話に月子が割って入る。
「ねえ、地球土産って何が有名なの?」
「やっぱりアニメグッズかしら」
「木彫りの熊も有名よ」
「ホントか?」
思わず突っ込む僕だが月子は木彫りの熊を知らないらしい。
「木彫りの熊ってテディベアだよね」
「月子、恥ずかし事言うな。あとでちゃんと教えてやるから」
「これだよ、お嬢さん」
低い声に顔を上げるとジャイアントな男が立っていた。
その手には黒い木彫りの熊を手にして。
「お前は丸田・ザ・ジャイアント!」
「はは、そんなに警戒しなくてもいいぜ。俺も星に帰るから」
「それはどう言うこと……」
勿論何が起きたか推測は付くけど、敢えてしらばっくれる。
「実は突然、社の方針が変わったんだ。地球からは撤退。天野の店にちょっかい出すのも中止だ。ホントに突然で理由すらよく分からないんだが命令は絶対だからな。そういう訳で満席殺しもお終いだ。せっかくバーナードのこんにちワークで優秀なバイトをたくさん集めたのに」
「バーナーナで?」
「そうだ。今バーナードは大不況だからな。バーナードの職業安定所「こんにちワーク」に行くと優秀な人材が簡単に集められるんだ」
「……」
どうやら作戦は成功したらしい。
しかし、ちらり振り向くとナナは悔しそうに歯噛みしている。
「じゃあ、俺も2階のアニメショップでグッズを買って帰るとするか。じゃあな」
道半ばでの帰還を命じられたからか、彼もまた悔しそうに去っていく。
「良かったなナナ、作戦は大成功だな」
「そうですね、だけどあの人たちがバーナーナの人だったなんて……」
「ナナねえ大丈夫? 顔色悪いよ?」
「あっ、ごめんね月子ちゃん。大丈夫よ、お店の方に行きましょうか」
「うん!」
みんながゆっくり歩き始めるが早いか、手を振り駆けてくる水色の髪をした男性の姿。
「あっ、店長!」
彼は僕らひとりひとりに握手を求めると何度も何度も頭を下げる。
「ありがとう。君たちが何か手を打ってくれたんだよね。お陰で丸田はこの店からも、そして地球からも撤退するよ。本当にありがとう。さ、せっかくだから甘いものでも食べていきなよ」
「でももう閉店時間じゃ」
「いいって。ほら、黒江さんも待ってるからさ」
満面の笑顔で僕らの背中を押す天川店長の言葉に甘え、みんなはシャングリラのドアをくぐった。
第十章 完
【あとがき】
いつもご愛読ありがとうございます。黒江麗華ですわ。
気高く清く美しく『桐星の華』と呼ばれるこのわたくしの座を脅かす転校生、大葉ナナさん。彼女は確かに綺麗ですけど、毎日ポケットからバナナを取り出してはクラスメイトに配って歩く風変わりな人。もうひとりの転校生、琴乃織絵さんも高校生離れしたスタイルの持ち主でいつの間にか男子生徒の人気はふたりに集中。正直面白くないわ。しかも、その二人が揃いも揃って日向くんとベタベタしちゃって。
日向くん。
彼は取り立ててイケメンってわけでもなくスポーツ万能ってこともなく。優しい感じはするけれど、どっちかと言うと地味な男の子。だけど彼氏にするなら日向くんみたいなタイプがいいのかなって。あ、わたし別にそんなつもりで言ったんじゃないんだからねっ!
そんな日向くんと大葉さん、琴乃さん、そして日向くんの妹さんがわたしのバイト先によく来るようになって2週間。この四人、なんだか怪しい…… と言うか変なのよね。いつもすぐに宇宙がどうしたとか、星がなんだとか言い始めるし。挙げ句に店で変な事件が勃発するし。何なのでしょうね、あの4人組。
え、次回予告?
なんですかそれ? って、この原稿を読めばいいって?
はいはい、わかりました。
丸田が去って一件落着めでたしめでたし、のはずだったナナと陽太。
しかし、丸田が残した意外な置き土産が明らかになる。
そしてナナの心境にも大きな変化が……
次章『サモスランカの青い風』もお楽しみに。
多分、この物語で唯一の普通人、黒江麗華でした。




