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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第10章 おいしい美味しい舞踏会
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第10章 第5話

 丸田・ザ・ジャイアントの報告と思われるメール。

 僕がそれをタップするとそこには……


 社長のご指示「天川の店を潰すこと」

 → 一切のトラブルなく予定通り進行中です。丸田


「なあ、一切のトラブルがないってどう言うことだ? 月子たちの抗議デモもあったしケンタウルスの発注はメチャクチャで臨時休業しているのに」


 僕の疑問にナナが即答する。


「悪い報告は出来ないんでしょ。帝国コンツェルンの社長は絶対だから意にそぐわない報告をしたら即左遷だって聞いたことがあるわ」


 ちらり黒服を見る。


「どうしよう、社長にバレたらどうしよう、バレたら左遷だ。ガクガクブルブル……」


 青ざめた顔でひとりブツブツ呟いていた。


「ダークの存在は絶対なんだな」

「そうよ。バーナーナのエコノミストによると、彼の会社には粉飾決算の疑いがあるらしいの。理由はダークがいい報告しか認めないからだとか」


 僕も何かの本で読んだことがある。トップにいい情報しか入らないようになると会社は危ないんだとか。帝国コンツェルンもそうなのだろうか。


「ともかく計画通りにダーク名で丸田に指示を出そう」




 地球侵攻事業部・丸田へ

 今すぐ天川の店から手を引くこと。

 果物の密輸による地球マーケットへの侵攻も中止する。

 即刻全ての店の権利を天川に譲り本社へ還れ。

 尚、この指示は絶対であり一切の質問は受け付けない。

 ダーク




「これでよし」


 僕は予め考えておいた内容をスマホに打ち込んだ。

 勿論、文体はダークの送信メールを見て真似ている。

 後は送信するだけ……


「へ、へんなマネは、や、や、やめろ……」


 腰を抜かした黒服が最後の抵抗を試みるべく、必死に立ち上がろうとしていた。

 しかし。


「さっきごめんなさいするって言ったでしょ? ウソつきは許しませんよ」

「は、へ、はははは……」


 ナナににらまれただけで男はまたヘナヘナとへたり込んでしまった。

 彼女の怪力はそんなに痛かったのだろうか。


「大丈夫ですよ。あなたのことは黙っておきますから。あなたも何もなかったことにすればいいんです」

「ナナ姫さま……」

「もしも、もしも帝国コンツェルンをクビになったらバーナーナへいらっしゃい。宮廷職員として厚遇で採用しますよ」

「えっ」


 驚いたように男はナナを見上げる。そこにはもう彼女に抗う意思は見えなかった。


「じゃあ陽太さん、メールを送っちゃいましょう!」

「そうだね。送信、っと」


 なりすましのメールを送ると予定は完了だ。

 僕は悪趣味な金ピカスマホをダークのポケットに戻す。


「これでいいかな」

「ねえお兄ちゃん、イグールは?」


 広間の真ん中で踊るイグールとカエラの元へと走る月子。

 イグールと手を取り踊るカエラ嬢は心底嬉しそうな顔をしていた。


「金目当ての割には嬉しそうだな」

「金目当て? ダーク社長はそうかも、ですけど」


 ナナもふたりの方へとゆっくり歩きながら。


「カエラさんはホントにイグール王子が好きなのだと思いますよ。贅沢な暮らしが出来る、それもイグール王子が持つ魅力に違いないのですから」

「いや、それを金目当て、って言わないか?」

「いいえ。彼女は情に厚いですから。もしイグールが貧乏になっても見捨てないと思います。彼女とは中学の時クラスメイトだったんですけど、決して悪い子じゃないんです。イグールはとんでもない奴ですけどね」

「そうなんだ~」


 ナナの話を聞いていた月子はイグールの腰にぶら下がっている黒いポシェットを開けると中からガラスの小瓶を取りだした。


「おい月子、それは」

「そうだよ、イグール名物ラブポーションだよ! これを一粒取り出してっと……」

「月子ちゃん何するの?」

「飲ませるんだよ、イグールにかぷっと」

「待て月子!」

「ん? どうしたのお兄ちゃん」


 時既に遅し、月子は手に持った一錠をイグールの口に放り込んでしまった。


「ああっ、どうしてそんなことを」

「どうしてってさ、このお姉ちゃんイグールが好きなんでしょ。だから」

「だからって」


 僕の抗議に月子は悪びれる様子もなく。


「このお姉ちゃん、あたいに牛肉のお寿司が美味しいって教えてくれたんだよ。他にも串焼きもお勧めだとかマンゴムースがバカうまだとか、美味しいものいっぱい教えてくれたんだよ」

「食い物ばっかりかいっ!」

「そうだよ。食いしん坊でぽっちゃりだけど優しいお姉ちゃんだよ。だからイグールが好きなのなら叶えてあげるんだ」


 今の話だとカエラ嬢は決して悪い女じゃなさそうだ。だけど彼女とイグールが結ばれたらそれはダークの思うツボ。帝国コンツェルンが今よりもっと力を持って更にやりたい放題になってしまう……


「ナナはどう思う?」

「そうですね。わたしもカエラさんの願いを叶えてあげたいですね。月子ちゃんの意見に賛成です」


 にこり笑顔を見せるナナ。


「おい、そんなことになったらダークの思うツボじゃないのか? 帝国コンツェルンが更に増長するんじゃないのか?」

「きっとそうなるでしょうね。だけどいいじゃないですか、帝国コンツェルンがアルタイルと一体化して更に事業を発展させても」

「娘が結婚すればナナへの嫌がらせはなくなるんだろうけど、それ以外の悪事はエスカレートするんじゃないのか?」


 しかし、僕の心配をナナは否定した。


「そこは逆だと思うんです。自分の娘が王妃になったらダーク社長はもう悪事に手を染めることは出来ないはずです。もしそれが発覚したら今度は帝国社だけの問題では済みませんからね。彼はおとなしくするしかないはずです」

「そうなのか」


 僕はもう一度広間を見回した。

 超絶強力な媚薬びやくを飲み込んだイグール王子はカエラ嬢の手を取りワルツの最中。時間が戻れば最初に彼が見る相手はカエラ嬢に違いあるまい。媚薬の効果は12時間。その短時間で結婚と言うゴールに大きく前進することもあるだろう。なにせカエラ嬢の方はその気満々、やる気も満々、やられる気も満々なのだ。


 とすれば、準備は整ったと言える。

 あとは唯一の目撃者であるサングラスの黒服をどうするかだ。

 散々僕を痛めつけてくれやがって。

 記憶を消すとか出来ないのだろうか……

 と、そんなことを考えていると。


「さあ、あなたもお立ちなさい。もう大丈夫でしょ?」


 ナナはサングラスの男に手を差し伸べた。


「あ、どうも……」


 立ち上がりながら男はバツが悪そうに僕をちらりと見る。


「いいわね、ここで見たことは全て忘れるのよ」

「はい」

「約束よ」


 笑顔でさとすナナに首肯した男を見て、まあこれでいいかな、と思った。


「じゃあ時間を戻すよ。みんな元の場所に戻ってくれ」



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