第10章 第4話
長い金髪にスラリしなやかな手脚。
濃紺のシンプルな水着に身を包んだナナが黒服の拳を片手で受け止めていた。
「ナナ、どうして?」
「ごめんなさい陽太さん。あのフリフリ衣裳を脱ぐのに時間掛かってしまいました。派手なイブニングドレスじゃ思うように動けないもので。でも下にスク水を着てて良かったです!」
「って、今疑問なのはそのスク水の事じゃなくって!」
「ほらっ、ちゃんとゼッケンに『ナナ』って名前も書いておきました!」
「いやそういう事じゃなくって!」
そうこの空間、時間が止まったこの空間でどうしてナナが動いているのだ?
「ナナねえどうして動いてるの?」
「あっ、それはね月子ちゃん。陽太さんとわたしはもう一心同体になっちゃったってことかな」
「おいこらナナ、何言いだすんだ」
「だって陽太さんとは熱く体液の交換をしたじゃないですか…… ぽっ!」
「ぽっ、じゃねえよっ! 紛らわしい事言うな!」
体液の交換って……
あの時の、ナナの甘く柔らかい感触が蘇る。なんだか顔が熱くなる。
「おいゴラ、いつまでもイチャついてんじゃねえ!」
気が付くと黒服の手には銀色のレーザー銃。
そしてその銃口がナナへと向けられて。
「バーナードのナナ姫さまですね。申し訳ないけどちょっと黙って貰いますよ」
男は銃をナナの足へと向けると引き金を……
「銃口は人に向けちゃいけませんっ!」
ビバシッ!
「あぎゃっ!」
一瞬のことだった。
銃が宙に高々と舞い、乾いた音とともに僕の元へ転がってくる。
真っ直ぐに振り上げられたナナの長い脚がゆっくりと降ろされて。
「どう月子ちゃん」
「凄いよナナねえ! もう月子が教えることは何もないよ!」
振り向いたナナにサムズアップする月子。
「ぐぐぐ…… ふざけやがって~っ」
「ナナ危ないっ!」
ぶんぶん ぶるん!
男は力任せに拳を振るう。
だが、しかし。
「はあはあ…… 当たらない、どうして当たらない?!」
ひらりひらりと身を躱すナナからは余裕さえ感じられて。
「見ててね。月子ちゃんに教えて貰ったワザを試してみるねっ!」
襲いかかる男の拳を片手で受け止めたナナはその太い腕を後ろ手に捻り上げた。
「いぎゃあでででっ!いだいいだいいだいい~っ!」
「この腕、どうして欲しい? 次の3つの中から選ばせてあげますね。いち、このまま腕をへし折られる。に、このまま右手をわたしの怪力でギュッと搾られてジュースにされる。さん、ごめんなさいする」
「うぎゃあご、ご、ごめ、ごめんなさいします~っ!」
血の気も失せ真っ青な顔で叫んだ黒服は手を開放されるやヘナヘナとその場にへたれ込んで動かなくなってしまった。腰が抜けちゃったみたいだ。かく言う僕もちょっとびっくり。いや、彼女の運動神経が尋常じゃないことは知っていたけど……
「陽太さん、お怪我はありませんか?」
「あ、ああ大丈夫。ただちょっと足が……」
「わあっ、すごい腫れてるじゃないですか! えっと、確かあれがあったはず……」
ナナはポケットから湿布のようなものを取り出しキックで真っ赤に腫れた箇所に貼り付けてくれる…… って、どうしてスク水にポケットが付いてるんだ?
「この湿布は宇宙一効くと評判のビンテリン120%湿布です。速効性なのですぐに痛みが引きますよ」
「あ、あれっホントだ。立てる、立てるよ」
さすが宇宙の湿布薬は凄かった。
「お兄ちゃん!」
「月子は大丈夫か?」
「うん平気だよ。月子、受け身だって得意だもん」
さっきまで怯えていた月子も元気いっぱい復活していた。
「じゃあ続きをしようよ。ダークのスマホを探そうよ」
そう言うが早いか月子はダーク社長の金ピカ衣裳のポケットに手を突っ込む。そしてこれまた金色に光り輝くスマホを取り出した。恐ろしく趣味の悪いデコだった。美少女キャラシールバリバリの痛スマホの方がよっぽどマシに思えた。
「見つけたよっ」
「メールアプリはこれかな?」
「それで間違いありませんよ、陽太さん」
僕はダークのスマホを受け取るとメールを起動する。果たしてそこにはたくさんの未読メールが。
宇宙船事業部: 売り上げ達成報告
住宅事業部 : 新製品売り上げはご指示の2倍で推移
密輸事業部 : 例の品が手に入りました。クックック……
出版事業部 : 社長の本がミリオンセラーに!
業務ソフト事業部: 新ソフトのバグは当然0件です!
いい報告しかなかった。
きっと帝国コンツェルンの業績はすごぶる好調なのだろう。
そんなことを思いながらスクロールする。
地球侵攻事業部: 新店舗開店、売り上げも順調
「これってデザートパーラー・ケンタウスルの報告じゃないか?」
「そうみたいですね」