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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第2章 織姫さまにご用心
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第2章 第2話

「お兄ちゃんったら! 歩きながら何ボーッとしてるの?」


 昨晩の回想から我に返ると月子が僕を見上げていた。


「あっ、何でもない」

「変なお兄ちゃん。学校までナナねえ頼んだよ、女を泣かせちゃダメだよ、このこのっ!」


 また僕を肘で小突く月子。

 いや、泣きたいのは僕の方だけど……


「じゃあねナナねえ! 小学校はこっちなんだ!」


 通学路、月子とは児童公園の角で二手に分かれる。

 後ろ向きに手を振りながら公園を横切る月子にナナも大きく手を上げ応えて。


 と、その時だった。

 晴れた空が一瞬眩く輝いたかと思うと、銀色の光が僕らを包み込んだ……


「な…… なんだこりゃ?」

「陽太さん危ない~っ!」


 目も眩むような光のシャワーが収まると僕は周りを見渡す……


 ……

 って、体が動かない。


 僕の両手両足は銀色の鎖で縛られ、背中には十字架のようなものを背負わされていた。そしてその十字架は公園の地面に深く深く突き刺さっていて。


「陽太さん、陽太さ~ん!」


 声の方に目を向ける。

 金髪の美少女は鉄棒の前で屈強なふたりの男に左右から捕らえられていた。


「ナナ~っ! おいお前ら、ナナを放せ~っ!」

「陽太さんっ! そんなとらわれのお姿でもナナのことを心配してくださるなんて、ナナはとても幸せですっ! 陽太さん大好きですっ! 愛してますっ!」

「おいナナ、今はそんなこと言ってる場合じゃ……」


 と言う僕も、こんな状況なのに顔がぼうっと熱くなる。


「いい加減になさい、このバカップル!」


 それは公園の真ん中、着陸した巨大なロケットのようなものの前に立つ銀髪ツインテール女の声だった。

 銀色の超ミニスカートにおへそ丸出しの黒いトップス、奇抜な前衛ファッションに身を包む碧眼へきがんの美少女はナナの方へゆっくり歩いていく。十数人の屈強そうなボディーガードを引き連れて……


「オリエ! オリエじゃないのっ! どうしてこんな事を! 陽太さんを放してっ!」


 しかしそのオリエと呼ばれた少女は冷めた笑みを浮かべて。


「久しぶりね、ナナ。さすがのバーナード第二皇女おうじょもこうなったら手も足も触手も出ないでしょ?」


 触手とかあるのか?

 ま、宇宙人だからあっても不思議じゃないけど……


 と、今はそんなこと気にしてる場合じゃない、叫ばなきゃ。


「誰か、誰かあっ!」

「無駄よ陽太とやら。この児童公園は亜次元空間にシフトしている。日本風に言うと便利な結界というヤツだ。だから我々に気付く地球人はいない。泣けど叫べどアニソン歌えど誰も来ないわ」


 本当に便利だな、その亜次元とか言う設定……

 って感心している場合じゃない!

 くそっ、こうなったらまた時間を止めてあいつらを……


 って、あれっ?


「無駄よ、時間を操る少年」


 彼女は僕の方を振り向くと手脚に絡まる太い鎖を確かめるように見て。


わたくしの名はオリエ・フランシス・ド・ベガ。ベガ星の第三王女おうじょ様よ。宇宙神話に現れる伝説、青き星と黄色き星が産みたもう時間を操る守護神が本当に存在したとは驚いたけど、身動きが出来なければ時間も操れないはず。諦めて私と共に来てもらいましょう」

「オリエ、放しなさいっ! 陽太さんをどうするつもりなのよっ!」

「この少年には私の星のため死ぬまで働いて貰います」

「何? どう言うことだ? この能力を何に使うと言うんだ!」


 手脚を動かそうと必死にもがいても頑強な鎖はぴくりとも動かない。


「ふっ、そなたの時間を操る能力が欲しい訳じゃない。私たちが欲しいのはそなたの知恵。陽太はナナの星のために力添えをするつもりでしょう? その力を我がベガのために使って貰います」

「力添えって言っても、具体的には何にも約束してないけど」

「ウソを仰いっ! 私たちはちゃんと見てたのよ。録画もしたわ、昨晩のあなたたちの行動を!」

「と、言うと?」


 彼女が指を鳴らすと公園の上空に巨大なスクリーンが現れる。

 そして、そこに昨晩の、僕とナナのやりとりがデカデカと映し出された。




 僕を見上げる金髪の美少女が、その長くしなやかな肢体を翻す。


「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」




 昨日の別れ際のシーンじゃないか。

 恥ずい!

 どこから盗撮してたんだ。

 男たちに捕らえられたナナも顔を真っ赤にして見ている。




「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」




 ……今度は顔アップで同じシーンが繰り返される。


「どうだ、恥ずかしいだろう?」

「いちいち編集すんな!」




「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」




 しかし僕の抗議も虚しく、同じシーンがリピートされる。




「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」

「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」

「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」




「もういいだろっ、止めてくれ!」

「ああっ、恥ずかしいわっ! でも、陽太さん大好き~っ!」


 この状況で何言ってんだ、あのバナナ姫!


「ええいっ、もっと見せてあげるっ! 恥ずかしさで悶え死ぬがいい!」




「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」

「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」

「わたしは陽太さんが大好きですっ!」

「ナナ……」




 これは拷問だ!


「頼む! あとでアイス奢るから、先に進めてくれ~っ!」

「分かったわ、約束よ。トリプルのコーンよ!」


 オリエの声にビデオのリピートが解除された。

 安堵あんどつかの間、カメラは互いに向かい合うナナと僕を捕らえる。




「嬉しいです、陽太さんっ! 陽太さんが一緒だったらバーナーナ星はもう安泰です!」




「ここよっ!」


 オリエの声にビデオ映像がストップモーションになる。

 ご丁寧に、画面の下にはナナの台詞せりふが日本語字幕で書かれていて。


「陽太さんが一緒だったらバーナーナ星は安泰って、一体何を画策しているの?」

「だから具体的には何にもないんだって」

「ウソを仰い!」


 ナナのセリフ、「陽太さんが一緒だったらバーナーナ星はもう安泰」って部分の字幕が赤字でハイライトされる。


「細かい編集すんなっ!」

「うるさい男ね。まあいいわ。あなたには我が星に来てもらってからゆっくりとお話を伺いましょう」

「どうして! どうしてオリエがそんなことをするの。陽太さんは帝国コンツェルン社に苦められているわたしたちバーナーナの救世主なのよ!」

「だからよ、バーナーナを救えるその力を我がベガに使って貰うのよ」

「ベガは先進文化星、そんな必要ないじゃないっ!」

「何を言っているの! ナナは知らないの? 私たちが今どんな苦境に立たされているのかを!」


 オリエの声は絶叫に近かった。


「教えてあげるわ、これが今のベガの姿よ!」


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