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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第10章 おいしい美味しい舞踏会
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第10章 第1話

 第十章 おいしい美味しい舞踏会



 アルタイル第三惑星。

 それは宇宙で一番恵まれた星。

 貴金属やレアアース、ダイヤモンドにダイナモンドと言った貴重な資源を豊富に抱え、温暖な大地は年中豊かな実りを生む。


「陸地が不思議な模様をしてるんだね」


 雲の層を抜けると緑の大地と青い海が眼前に広がる。


「そうよ月子ちゃん。この星の海は巨大な湖がたくさん繋がったような形をしているの。実は地下にも大量の水があるのよ」


 僕らを乗せて晩餐会会場へと向かう小さな円盤は地球から16.7光年の距離をたったの7分で飛び越えた。

 そうして白い巨塔が建ち並ぶ大都会の中心部にある登機場へと降り立つ。


「お待ちしておりましたナナ姫さま、そしてオリエさま」


 円盤を降りると白いローブのようなものを纏った男たちに恭しく迎えられ、黒く大きなリムジンに乗り換える。


「なあナナ、入星手続きとかはないのか?」


 超ご立派なリムジンの窓からは入星審査場と書かれた案内版が見えたが。


「そんなものはないわよ。わたしもオリエも皇族だし、それに陽太さんも月子ちゃんも宇宙パスポート持たないでしょ」

「あ、うん。持たないね、そんなの」

「だから、その辺はちゃんと裏から手を回しておいたから」


 やりたい放題だった。それでいいのか宇宙の入星管理局。


「いいのよ。危険分子は大気圏に突入した時点で自動チェックしてるから」

「そうなのかオリエ…… って、人の心を読むなよ!」


 僕らを乗せたリムジンはふわりと宙を舞う。そしてずんずん高度を上げると白い街並みが眼下に広がる。


「お兄ちゃん凄いよ、遊園地があるよ!」

「月子ちゃん、あれは宮廷の遊園地なのよ」


 リムジンはあっと言う間にその遊園地の上空を通過する。


「じゃあ、あの広い芝生とか花壇とか噴水とかは?」

「宮廷のお庭。イグールの宮廷は宇宙一広く豪華で何でもありと言われているのよ。屋敷の中には狩猟のための森まであって敷地面積はバーナーナ宮殿のなんと二百倍なのよ」

「すごーいっ! ナナねえのお城もすっごく大きかったのに!」


 僕らを乗せたリムジンはその広い敷地の中でも一際ひときわ立派な白い塔の横に舞い降りる。

 四十階建てビルくらいの高さがあるだろうか。巨大なビルだが塔の形をしている。


「「「「「お待ちしておりました!」」」」


 ドアが外から開けられると真っ赤な絨毯じゅうたん、その両横にメイドや執事がずらり並ぶ。

 華やかな黄色のドレスを纏ったナナは燕尾服の紳士に手を取られ優美に下車する。


「さあ、陽太さんも月子ちゃんもいらっしゃい」


 ピンクの可愛い子供ドレス姿の月子を先に降ろすと、僕も後に続いた。


「さっきお話しした通り堅苦しいことは何もありません。美味しい料理をがつがつと楽しんでくださいね」


 勿論この星で僕らの企みを口にすることは出来ない。しかし彼女はせっかくだから楽しめるものは楽しもうと勧めてくれた。特に贅を尽くした料理の数々は宇宙一だと言う。

 左右に並ぶ人達にぺこぺこ頭を下げながら歩く月子。そう言う僕も宙を歩いているようで何とも落ち着かない。


 しかし。


「月子ちゃんいらっしゃい。手を繋ぎましょ」


 振り向いたナナが手を伸ばすと月子の表情が一気に緩んだ。


「はい、おねえさま!」


 いつナナは月子のお姉さんになったんだ……

 そんな事を考えているうちに白い巨塔の前に立った。目の前には10段ほどの階段があってその先に大きな広間が見える。バリアフリーになってねえな、この宮殿!


 オリエとナナはドレスの裾を持って階段を昇る。月子もそれを真似て昇っていく。

 大広間にはたくさんの人達が集まっていた。やはり若い女性が多くてみな一様に豪華なドレスを競っている。男性は老齢の紳士がちらほらと目に付く程度。僕みたいな若い野郎はほとんどいない。


「なあナナ、僕だけ場違いじゃないのか?」

「大丈夫ですよ。彼のお友達も来ると思いますし。ただこの場に来たからには色んな女の人と踊ったりお話ししたりしないといけませんけどね……」


 そう言うとナナはにこりと笑みを浮かべ。


「たくさん仲良しを作ってくださいね。だけど一番は……ですよ」


 また、あの時のナナの柔らかで甘い感触が蘇る。

 と。


「これはバーナードのナナ姫さま。お待ちしておりました」


 出迎えに現れたのはイグールの付き人、彦太。

 ビシッと七三分けして正装を決めた40過ぎの真面目そうな彼はナナに大きな丸いテーブルへ向かうよう促して。


「殿下も大変お喜びです。今日の会はナナ姫さまのためのもの。殿下をよろしくお願いします」


 慇懃いんぎんに頭を下げると今度は僕の方に向き直り。


「陽太さま、少し宜しいでしょうか……」


 何だろう?

 ちらりナナを見る、何故か彼女は目を伏せた。


「いいですよ」


 彼に従い広間の隅へと歩く。

 給仕がオレンジ色の液体で満たされたシャンパングラスを持って来る。


「今日はありがとうございます。陽太さまにはご存分にお楽しみいただけるよう手筈を整えておりますゆえ……」


 その言葉に合わせるように着飾った若い女たちが笑顔を向けてやってくる。

 紅いロングヘアにブロンドのツインテ、ショートボブの女の子もいるし眼鏡が知性的なお姉さまも居る。いずれも凄い美形揃いだ。香港映画のヒロイン勢揃と言っても過言じゃない。


「お好みの女性がいければ遠慮なくお申し付け下さい。ではごゆっくり」

「えっ、あの……」


 僕の考えがまとまらない内に去っていく彦太。彼を追う僕の視線を遮るように紅髪あかがみの美女が手を差し出してくる。


「エミリアです」

「はあ、日向陽太です」

「わたしはユングフラウ」

「アグネスよ」

「メリルです」


 一気には覚えきれないってば!


「オレンジジュースはお嫌いですか? 他のお飲み物をお持ちしましょうか?」

「あ、いただくよ」


 手に持っていたシャンパングラスを傾ける。中の液体はオレンジジュースだった。とても味が濃いのに酸味が爽やかで驚くくらい甘い、一言で言うとバカうまだった。うまっ! と思わず声が出る旨さ。


「凍りかけの厳選完熟みかんのみを圧搾したジュースなんですよ」


 笑顔で教えてくれたのは黒いショートボブの女の子、メリル、だったっけ……


「手間掛かってるんだね。美味しいよ」

「オードブルもお持ちしますね」

「あっ、気にしないでいいよ。僕はここでゆっくり見物でも……」

「そんなこと仰らずに。ちょっと待ってくださいね」


 メリルが去っていくと金髪ツインテの子が僕にジュースのお代わりを差し出す。


「ホントに気にしないでくれ」

「そう仰らずに。全身全霊を尽くしお持てなしさせていただきますので」


 突然背後から肩を揉まれる。紅毛のエミリアちゃんだな……

 と、ナナの方を見る。

 一瞬目があったがすぐに逸らされた。

 もしかして怒ってるのかなって思ったけど……


「お待たせしましたっ」


 両手にオードブルの大皿を持ったメリルちゃん。


「僕のことはいいからみんなも食べてよ」

「何を仰るんですか! わたしたちは陽太さまにお楽しみいただくのが使命。今すぐキスでもハグでも挙式でも!」

「挙式は無理だろ!」


 多分彼女たちは僕の行動監視役なのだろう。あるいは僕を永久にナナから引き離すための刺客か。いずれにしても僕を自由にはさせてくれないみたいだ。帝国コンツェルン社長のダークを探し出さなきゃいけないのに……


「どうしました? さっきから広間をキョロキョロ見回して。誰かお探しですか?」


 ぎくっ!

 メリルちゃん鋭い。


「いや、実はさ、今日どんな人が参加するのかなって……」

「そんなことですか。まだ舞踏会まで30分以上ありますから来てない方も多いですが、有名どころで言うとあそこの黒いドレスの妙齢のおばさまがイプシロンのモエナ姫。その横、綾取りをしているのがカペラの第一王女ジェシカ姫と第二王女のジャクリーン姫。それからそちらの金ピカ衣裳のおふたりがベガのマリー王女とアナスターシャ王女です」


 モエナ姫とやらはどう見ても40過ぎのおばさん、カペラのジェシカ姫とジャリーン姫はどう見ても幼稚園児。本当に宇宙は広い、年齢層も広い。


「それから、あちらで骨付き肉をお召し上がりになっているちょっとぽっちゃりなお方が帝国コンツェルン社長令嬢のカエラ様」

「カエラ、さま!」


 来ていた。ターゲットの娘

 しかし、彼女は横で直立不動に立っているお付きらしい男と一緒で、その周りに父親らしき姿はない。


「凄いな、あの帝国コンツェルンのご令嬢か。ところでその社長はどこにいるんだ?」

「ダーク社長ですか? いつも時間までお姿を見ませんよ。周囲にたくさん黒服を引き連れているので現れたらすぐに分かりますけど」

「黒服ってボディガードか? こんなところで襲われるとかあるのか?」

「襲われる? あのおじいさんを襲ってくちびるを奪うとか?」

「いやそうじゃなくって、銃で撃たれるとか殺されるとか」

「そんなことあるわけ無いでしょ!」


 黒いショートボブを揺らしてメリルは笑った。


「銃とか殺し合いとか、いつの時代の話ですか? いまどき時代劇でもそんなの流行りませんよ。ましてここはアルタイルの宮殿です」

「じゃあどうしてボディーガードを?」

「誰がボディガードと言いました? 黒服です。黒い服着たお世話係です」

「お世話係?」

「そうですよ、食べ物をあ~ん、ってする係とか、お口を拭き拭きする係とか、素早く椅子をセットする係とか」


 至れり尽くせりだった。

 と言うか、子供か?


「なあ、そのダーク社長ってどんな人なんだ?」

「どんな人って……」


 メリルは他の子たちに目をやると小さく嘆息した。


「大きな会社の社長ですからね、きっと立派な人じゃないかしら」


 エミリアもアグネスもユングフラウも無表情のままだ。


「それよりこの生ハム巻きは美味しいですよ」

「あ、ありがとう」


 ブロンドのユングフラウが差し出したそれをありがたくいただきながら僕は次の質問を投げる。


「じゃあ、ご令嬢はどんな人?」

「カエラ様は…… お金持ちのお嬢さまですよ」


 それは誉めるところがないって事か?


「性格とかは?」

「わたくしたちにはお優しいですよ。それより、こちらのスモークサーモンも絶品ですよ」


 知的メガネっ子のアグネスが皿を差し出す。


「あ、うん、すっごく美味しい! ところでさ、こんな晩餐会ってしょっちゅうやってるの?」

「いえ、久しぶりですね。以前は毎晩のようにやってましたけど。今日はほら、ナナさまがいらしてるから」

「イグール殿下ってそんなに彼女がお気になのか?」


 僕の言葉にみんな顔を見合わせる。

 やがて笑いながら声を出したのはメリルだった。


「そうだと思います。いつも彼女にばかりご執心ですから、すっごく分かりやすいです。皇室社交界では誰もが知ってる公然の秘密ですよ」

「殿下をお慕いする女性は星の数ほどいますのに」


 ユングフラウもそう言うと周囲を見回す。

 いつの間にかカエラ嬢の横に月子が立っている。早速ターゲットのキープと言うことだろうか。

 やがて鐘の音と共にイグール王子が姿を見せると、煌びやかな晩餐会の始まりを告げた。



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