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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第8章 謎のデザートパーラー
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第8章 第8話

 時間が止まった亜次元空間。

 不気味な薄赤い結界の中で月子が不安げに僕を見上げてくる。


「お兄ちゃん、あたいは何をしたらいいの?」

「う~ん、そうだな…… まずはこの亜次元空間を解除しよう」

「えっと、亜次元空間発生装置を探すんだね」


 月子は丸田の元へ駆けるとポケットに手を突っ込む。


「えっとえっと…… 宇宙スマホならあるけど」


 月子が差し出した宇宙スマホは父さんやナナが持っている物とは少し違って、画面が大きめだった。通信履歴とかがあれば帝国コンツェルンの秘密がつかめるかも知れない。使い方は分からないけど色々操作してみる。


 ……と。


「これって…… 亜次元発生アプリ、だ」

「亜次元発生アプリ?」


 赤黒い不気味な三日月マークのアイコン。

 月子が覗き込む中、僕がそれをタップすると一瞬でアプリが起動する。




  発生中の亜次元空間 : 地球・地域1718x9895

  亜次元空間を解除しますか? 【はい】【いいえ】




「便利なアプリだな」

「そうだね、日本語で書いてあるし」


 月子が言う通り何故日本語なのだろう?

 しかしそれは追求してはいけない疑問なのだ。きっと。


「ともかく亜次元空間を解除しよう」


 僕は【はい】をクリックする。

 と、


「お兄ちゃん、次の質問があるよ」


 月子の言葉に宇宙スマホを覗き込む。そこには。




  亜次元空間を解除します。

  空間内の人の記憶を消去しますか? 【はい】【いいえ】




「やったねお兄ちゃん、これでみんなこの事を忘れてくれるよ!」

「ああそうだな、って、月子ちょっと待て!」


 喜んで【はい】ボタンを押そうとする月子を制止する。


「えっ、どうして押さないの?」

「よく考えてみろ。ここで【はい】を押すと僕たちの記憶も消えるんじゃないか?」

「あっ、ホントだ。それは困るね」


 どうしよう。

 しかし、月子フレンズの記憶を消すにはここで【はい】を押すしかない。

 となると。


「月子、何か書くもの持ってないか?」

「あるよ。サインペンと絵の具とクレヨンと……」


 月子のポシェットから出るわ出るわ、お絵描き道具。


「また誰かに落書きできるかもって持って来た!」

「お前なあ……」


 呆れつつサインペンとメモ帳を借りると、僕は今の状況をメモする。


「何書いてるの?」

「今あったことを事をメモしてるんだ、忘れても読めば思い出すように…… っと、これで良し」


 僕は亜次元空間での出来事を箇条書きにすると宇宙スマホの【はい】ボタンを押す。

 と、また次の質問が来た。




  記憶を消したい人を選んで下さい。

  選択が終了したら【OK】を押して下さい。




 画面に顔写真のリストが現れる。

 丸田や月子の友達の顔写真が並ぶ、勿論僕も月子も入っている。


「優れものだな、このアプリ」

「ホントだ。じゃあ月子の友達をみんな選ぼう!」


 月子フレンズをマークし終える。マークしていないのは僕と月子と丸田・ザ・ジャイアント。


「じゃあ【OK】押すよ?」

「月子、ちょっと待て!」


 はやる気持ちは分かるがここは冷静に考えよう。

 問題は丸田・ザ・ジャイアントをどうするか、だ。

 こいつを宇宙へ強制送還したところで別の刺客が送られてくるだけだろう。できれば全てを平和的に丸く収めたい……

 僕は丸田の宇宙スマホに入っている別のアプリを調べてみる。

 宇宙無料通話アプリに宇宙チャット、アイドル育成ゲームにモンスターハンティングゲーム、ダンジョン攻略ゲームに美少女ゲー…… ゲーマーかこいつ。


「お兄ちゃん、これ何?」


 月子が指差したのは「お仕事」と書かれたアイコンだった。


「何だろ」


 クリックするとバナナやら林檎やらメロンやら、いろんな食べ物の発注画面が現れる。

 発注先は勿論、帝国コンツェルン。向こう3ヶ月分の注文内容が丸わかりだった。


「……なあ月子、いい考えがある」

「なになに?」

「亜次元空間での出来事は丸田にも忘れて貰おう。彼の顔写真もチェックして記憶消去っと……」


 画面に【亜次元空間の解除を開始しました】の文字が出る。

 やがて赤暗い不気味な闇が晴れ、空から燦々お日様が照りだした。

 同時に駅前を通るたくさんの人達が顕わになる。

 勿論みんな静止したまま。


「うわっ、お兄ちゃん凄い! ちゃんとキャンセルされたよ」

「やったな月子。これでひとつ問題は解決だ。次はこの果物の注文を片っ端からキャンセルしてやろう」

「えっ、そんなことしてどうするの?」

「それはだな……」


 僕は自分のアイディアを月子に話しながら、彼が帝国コンツェルンの食品事業部へ出していた果物やら調味料やらのオーダーを片っ端からキャンセルしていった。


      ◆ ◆ ◆


「これでよし」


 準備は整った。

 月子のクラスメイトはみな、亜次元空間のことを忘れるはず。


「あたいも準備出来たよ。宇宙スマホも丸田のポケットに戻したよ」


 月子の言葉に元居た場所へと戻ると時間が動き出す。


「あ、あれっ?」


 最初に声を発したのは丸田だった。

 亜次元空間が発生するはずなのに何も起きない、彼は今そう思っているはずだ。

 何故なら亜次元空間の時の記憶は消えているから。

 彼は不思議そうに首を傾げると内ポケットから宇宙スマホを取り出す。


「おかしいな…… あれっ? これって、ええ~っ!!」


 彼がスマホの中に見ている画面、それは今後入荷する予定だった食材が一切合切何もかもキャンセルされたメッセージだ。



 全てのキャンセルを受付けました。

 ご注意・商品の再注文から納入までは1ヶ月掛かります。



 そんな画面を見ているはずだ。


「これって一体何がどうなって……」

「何驚いてるんだ?」

「あ、いや、これは……」


 そう言う彼の顔から血の気がみるみる引いていく。


「きょ、今日のところは大目に見てやる。とっとと消えやがれっ!」


 真っ青になった丸田は宇宙スマホを握りしめ、ビルの中へと駆けていった。


「上手くいったね、お兄ちゃん」

「ああ、取りあえず助かったな」


 月子と笑顔を交わす。しかし、僕ら以外は事態が全く飲み込めていなかった。


「なあ日向、『宇宙警察』って何のことだ?」

「あ、いや、冗談だよ。あの大男を脅かしてやろうと思ってさ」


 黒江弟の疑問に頭をきながら月子。


「だけどあの人、どうして急に戻っていっちゃったの?」

「急用を思い出したんじゃないかな?」


 不思議顔の他のクラスメイトたちも何とか納得させて。


「ともかくここでのシャングリラ宣伝作戦は終わりにしよう。これからみんなでシャングリラにパフェを食べにいかないか。このお姉さんが奢ってくれるらしいから」


 そう言ってオリエを見ると、彼女はあっさり肯いて。


「そうね、私についていらっしゃい。何でも好きなのを食べていいわよ」


「「「「「わあ~いっ!」」」」」


 喜ぶ子供たち。

 だけど、黒江弟だけは不満顔。


「ええ~っ、この店をやっつけないと姉ちゃんの店が……」

「大丈夫だよ、この店はもうやっつけたから」

「えっ?」

「いまに分かるよ。だから安心して」

「そうなの? うん、わかった。お兄ちゃんを信じるよ」


 姉と違って弟は素直だった。

 シャングリラに押しかけると子供たちはオリエのおごりでめいめい好きな物を食べる。

  その間、僕はナナに一部始終を説明した。

 ナナは何度も僕に頭を下げて。

「これで当面この店は安泰でしょう。だけど帝国コンツェルンが大挙して襲ってくるかもだし、非常事態に備えないと……」


 翌日。

 デザートパーラー・ケンタウルスは東京の店も含め全店が臨時休業した。

 食材がストップしたからに違いない。

 このことはニュースでも取り上げられ、1ヶ月程度は休みが続く緊急事態だと報道されていた。


 僕の作戦は成功した。

 しかし、ナナが危惧したことも、その後すぐに現実になったのだった。



 第八章 完




【あとがき】


 皆さまはじめまして。天川夢二です。

 フルーツパーラー・シャングリラの店長やってます。


 嫁ひとり子供ふたりの平凡なぼくですけど、これでも昔は惑星開発の世界では知らぬものがないほど有名な存在だったんですよ。でもね、自分の仕事の所為で苦しんでる人がいるんだって知った途端に、なんだかどっと疲れちゃいました。はははは……


 ぼくが勤めていた帝国コンツェルンは宇宙でも有名な超巨大企業で学生の就職人気ランキングでもいつも上位に入ってます。宇宙を股にかけた仕事が出来て給料もそれなりに良くって、何より世間からの信用が違います。中学高校と一生懸命勉強して難関の星立アルタイル大学に入学、そこも優秀な成績で卒業してやっと掴んだエリート社員の座。だけど今度は人を蹴落としてでも自分をアピールしていく出世競争の世界。ぼくがやめた時みんなは口々に勿体ないって言ってくれたんですけど、結局ぼくに向いてなかったんです。


 フルーツパーラーの店長って日本では信用ないらしく、マンション買うときも保証人とかすっごい苦労しました。だけど、毎日お客さんの笑顔が見れて、店員たちの満足そうな顔が見れて、今の仕事は大好きです。


 シャングリラは駅向こうのショッピングモール一階にあります。

 通路に面し全面ガラス張りの広く明るく開放感がある店内。テーブルも食事がしやすいよう少し広めにしています。ご愛読の皆さんは知っているから隠しませんけど、うちのフルーツはほとんどがバーナード産。バーナード産の果物は安価でも質が高いんですよ。店へは毎日妻の実家から自家用宇宙船で直送していて鮮度も抜群。いいものが安く仕入れられるので商品には絶対の自信があります。店員さんへの報酬も多めにしてるから値段はそれなりでも味とボリュームが違うんです。是非みなさんもいらしてください。


 尚、ご来店の際、


【才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!】のあとがきを見た!


と仰っていただければ、お飲み物1杯無料、パフェ類大盛りでサービスします。


 えっ?

 自分とこの宣伝はいいから早く次回予告をやれ?

 はいはい。


 では、次章予告です。


 陽太の陰謀によって一時休業に追い込まれたデザートパーラー・ケンタウルス。

 その店長・丸田は怒っていた。そりゃあもう激烈に。

 彼は怒りの矛先をシャングリラに向ける。その宇宙的にも恐ろしく残忍な策略にシャングリラは大ピンチ。丸田を改心させようと解決に乗り出すナナと陽太だが……


 次章「ナナの気持ちとカツ丼と」もぜひお楽しみに。


 シャングリラの店長、天川でした。



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