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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第8章 謎のデザートパーラー
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第8章 第5話

 短い頭髪、ラグビー選手のようにガッシリ筋肉質な体つき。

 シャングリラに入ってきたその男は間違いなく品川の「デザートパーラー・ケンタウルス」の店長だった。丸田まるたとか言う名前だったっけ。


「店長はいるか?」

「あ、はい。少々お待ちを」


 ナナに呼ばれるまでもなく、天川店長はその客の元へと歩き始めていた。


「久しぶりだな、天川」

「丸田・ザ・ジャイアント! やっぱり気が付いていたのか!」

「当たり前だ。随分探したぞ。お前が地球に潜伏してるって情報はあったんだが。しかし関西の郊外にこんな店を出して平々凡々と暮らしてるとは驚いた。実現困難と言われた無人惑星開拓プロジェクトを次々と成功させて、天才の名を欲しいままにしたお前が、な」

「……何をしに来た」


 小柄な天川店長は丸田・ザ・ジャイアントという名の巨軀を見上げる。


「決まってるだろう、お前を連れ戻しに」

「ぼくは指名手配犯だ。戻れるわけがない」

「大丈夫だ。お前が帝国コンツェルンに戻り昔のようにダーク社長のため馬車馬の如く働くのであれば、指名手配はもみ消してやる。どうだ、いい話だろう」

「イヤだ!」


 天川店長がキッパリ言い切ると男の顔色が変わった。


「なぜ帝国コンツェルンを嫌う? 給料は充分貰っていたはずだ。ちょっとブラックなところはあったけど、下請けよりマシだったじゃん!」

「そんな理由じゃない。あの会社は、帝国コンツェルンは『世のため人のため宇宙のため』と綺麗事を並べ立てながら、やってることは全部全部『金のため社のため社長のため』ばかり! その影で不幸になる人かたくさんいても知らんぷり。そんな会社に忠誠なんか誓えるか!」

「綺麗事を言ってるのはお前だ。会社って、金儲けってそんなもんだろ」

「違う。少なくともぼくは違う。この店は違う!」


 店長は、朝でまだガラガラの店内を見回す。


「ぼくの店は、フルーツパーラー・シャングリラはお客さんにも従業員にも地域の皆さまにも喜んで貰えてる。みんな笑顔でいてくれる!」

「そんなのお前の勝手な思い込みだろ!」

「違いますっ!」


 ふたりの言い争いにナナが割って入った。


「本当にこの店には笑顔が溢れてます。バイト代だってよそよりたくさんいただけるし、仕事の希望も聞いて貰えるし、何より店長は優しいです!」

「ほう、そうか。この店はそんなに甘い経営なのか。ふん。そんなハチミツより甘い店はすぐに消えてなくなる運命だ。今に後悔することになる」


 180cmを優に超える長身からふたりを見下ろした男はゆっくり踵を返す。

 去っていく男をじっと睨みつける店長とナナ。

 と、男は立ち止まり振り返る。


「ところで貴女はまさか…… いや、まさかね」


 そう呟くと店を出ていった。

 やがて、みんなは無言のまま店のテーブルに集まった。


「彼は昔のぼくの先輩なんです」


 店長はがっくり項垂れて。


「きっとぼくが会社を辞めた所為で迷惑掛けたんでしょうね……」

「そんなこと店長が気にすることじゃないでしょ? それより敵はこの店を潰すつもりよ。ほら!」


 オリエが宇宙スマホをテーブルに置く。そこには『美味しいフルーツ食べ放題の店・ケンタウルス』と銘打たれたWebページが。


「何々、関西圏初上陸、オープン特別価格90分食べ放題で790円、って!」

「790円って品川のお店の半額だね!」

「月子ちゃんは計算が速いわね!」

「えへっ!」


 って、月子をおだててる場合じゃないだろ、ナナ。


「こんな値段、対抗できないよ……」


 天川店長がみるみる青ざめていく。

 そりゃそうだろう、この店で普通にパフェ頼んだら600円くらいするのだから。


「だけどオープン価格なんだろ、すぐに1580円になるんだろ?」

「さあどうかしら。さっきの男はこの店を潰すといったわ」

「実は丸田先輩はスッポンのようにしつこいことで有名だったんだ。きっとこの店が潰れるまで大赤字でも攻撃を続けるに違いない……」


 水色の髪の店長は頭を抱え込む。


「ともかくケンタウスルの開店までまだ間があるわ。情報を集めましょう」


 ナナの言葉にみんな肯く。

 ふと店の奥を見ると、普段は厨房に籠もったきりの黒江嬢が心配そうにこちらを見ていた。



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