第8章 第3話
90分間食べ続けた僕らは支払いを済ませ店を出た。
僕は当面フルーツは見たくもない気分だけど、オリエは平然としている。
「ケーキの追加が遅いわ! あの苺とメロンのショートケーキが美味しかったのに!」
「出て来たホール丸ごとお前が喰うからだろ! 店のことも考えてやれよ!」
「あら、満足いくまでお楽しみ下さい、って書いてあったじゃない。ちゃんと残さず食べたし」
「オリエねえ凄いよ。月子は限界だよ。苺とメロンとマンゴはもう見たくもないよ」
「僕も限界だ。当面アップルパイと桃は食べたくない」
そんな僕らの感想戦を心なしか気落ちした面持ちで聞いているナナ。
彼女が沈んでいるのは、この店がもうすぐ自分のバイト先のライバル店になるからだけじゃない。
「あのバナナ、間違いなく帝国コンツェルン社の惑星プラントバナナだったわよね。メロンも苺も惑星プラントで作られてる品種だったし……」
「それ、間違いないのか?」
僕の問いに答えたのはナナではなくてオリエだった。
「間違いないでしょうね。あの赤肉メロンは帝国コンツェルンが独占的に栽培権を持っている品種の「三連星メロン」で間違いないと思うわ」
その言葉にみんな無言のまま歩を進める。
デザートパーラー・ケンタウルスで提供されているフルーツが帝国コンツェルン社のものだと言うことが何を意味するのか、それ即ち帝国社が地球へ食材を密輸していることを指す。宇宙でも有数の人口を持つという地球。その巨大なマーケットはとても魅力的だとナナは言う。
「地球とバーナーナが友好的な貿易関係を結べればと何度も夢に思いました。それくらい地球は巨大で魅力的なマーケットなんです。だけどここは宇宙貿易連合に未加盟の星、そんなことは許されないんですが……」
最初にナナに出会ったとき、彼女は地球というマーケットをルールに則り諦めていた。だけど、帝国コンツェルンは何か抜け穴を使って地球への経済的侵略を始めたのではないか? それがナナとオリエが導いた結論だ。
もう陽は西の空へと消え、空には星が見えている。
僕らは空飛ぶ円盤を駐めている品川駅前の高架へと戻る。
「せっかく東京まで来たのにひとっ飛びで帰るんだね。何だか旅情がないね」
「まあそうだな。たった3分だったもんな」
それも途中で金のしゃちほこを見物しての時間だ。
「お土産とか買わないの?」
「ああ、母さんに買って帰ってもいいかな」
「そうですね、お土産買いましょう!」
ナナも乗り気になり、品川駅ビルに土産物を探した。
「品川ばなな、って、品川はバナナの名産地なんですか?」
「いやいや、それはお菓子の名前だよ。ばななと言ってもバナナじゃない。ひとつ買って帰るか?」
「ええ、そうしましょう。研究に値しそうですし」
「研究?」
「ええ、バナナの形のお菓子ってバーナーナにはないんですよ」
「そうね、このアイディアは使えそうね。バーナード銘菓と銘打って売ればがっぽがっぽと儲かるわ。早速やってみましょう!」
突然乗り気のオリエ。
「オリエはベガの土産でも考えてなさいよ!」
「ベガには土産物がいっぱいあるじゃない。バーナードはド田舎だし何にもないけど」
「あるわよ! ぬいぐるみのバナナちゃんとか、ぬいぐるみの「フルーツ家族ちゃん」とか、ぬいぐるみの「ウォンラットちゃん」とか、ぬいぐるみの……」
「ぬいぐるみばっかりね。しかもそのぬいぐるみはベガ製でしょ?」
「ううう……」
悔しそうなナナを横目に、オリエは僕に小声で。
「本当は今凄い人気のお土産があるんだけどね、ナナは知らないようね」
「今凄い人気のお土産?」
「そうよ。飛ぶように売れてるらしいわ、バーナード皇室写真集の特集号」
「皇室写真集特集号?」
「ナナ・カテリーナ皇女特集よ。レオタードとか水着のサービスショット満載らしいわ」
「マジか!」
「あら、陽太も欲しいの?」
「いや、別に……」
結局僕らは土産に「品川ばなな」を買い込むと、亜次元空間を開いて円盤に乗り込み西の方へと飛び立った。




