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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第8章 謎のデザートパーラー
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第8章 第1話

 第八章 謎のデザートパーラー



 まるで花籠のようにバナナが盛られたガラスの器。


「うわあ~っ、すごいっ!」


 月子が驚くのも頷ける、見た目も豪華なバナナサンデー。

 一方、僕の前にはアイスとバナナのバランスが絶妙なバナナパフェ。


「えっと、月子ちゃんのサンデーはわたし作で、陽太さんのパフェは黒江さんが作ったんです。陽太さんの分もわたしが作りたかったのに……」


 不満げなナナ。


「じゃあ、私のこの巨大なフルーツボンバーは?」

「それは合作です! ってか、だいたい大皿にフルーツとアイスを溢れんばかりに盛り合わせたメニューなんてこの店にありません! 店長が許可してくれたから作った裏メニューなんですからねっ」


 オリエの前には中華料理で使いそうな大皿にバナナとリンゴとマンゴの塔が建ち、それを飾り付ける生クリームに各種のベリーや葡萄なんかが飾られている。宇宙船のカジノで大儲けした彼女に不可能の文字はなかった。


「だけど店長は乗り気で、表メニューにしようとか言ってたわよ!」

「働く方の身にもなって下さい。フルーツの塔を作るのって大変なんですから!」


 今日はナナがこの店で働き始めて初めての週末。

 小学生の月子を連れてくるのは休日しか無理だった。本人は平日に行きたがったんだけど、僕らの下校を待つと遅くなるし、習い事とかの関係もあったし。


「いただきますっ! んむんむんむ…… うわっ! 美味しいよナナねえっ!」

「ありがとう月子ちゃん!」


 ナナの飾り付けはとてもバイトとは思えないレベルだ。特にバナナで家とか塔とか作らせたら地球一じゃなかろうか。だけど、出す前には黒江さんがチェックしてチョコシロップとか生クリームとか味のバランスを確認するんだそうな。


「このパフェも美味しいな」

「ええ、麗華さんのパフェは美味しいって評判ですからね。ああ、わたしも早く日本の味覚を身に付けたいです」

「大丈夫だよ、ナナは勉強熱心だからすぐに出来るさ」

「まあ陽太さんってば…… ぽっ!」

「ぽっ、じゃないわよ。お客さん、レジで待ってるわよ!」

「あっ、ホントですね。では失礼しますね!」


 白い制服姿のナナは薔薇のように微笑み去っていく。


「ナナのバイトも板に付いてきたな」

「ええ、残念ながら普通にこなしてるわね。チッ!」

「それよりさお兄ちゃん、あのお店の方が問題かもだよ?」

「あのお店ってそんなに人気があるのか?」


 今朝この店に来る途中、駅前のビルにとある看板を発見した。

 

 『大人気! デザートパーラー・ケンタウスル日本3号店、駅前に上陸!』


 看板を見た月子は大喜び。


「凄いよほらこれ! ケンタウルスが出来るんだって! って、お兄ちゃん知らないの? 今ヨーロッパで大人気のデザート食べ放題のお店なんだよ! 東京の銀座と品川に進出したってニュースで言ってたんだよ!」


 オリエが宇宙スマホで調べると、月子の言う通りつい二ヶ月前に日本進出を果たした外国資本のデザートチェーンだった。本拠地はサモスランカと言う南インド洋に浮かぶ小さな島国。その島で取れた果物を使って美味しいフルーツデザートを世界中に提供する、と言うのがポリシーらしい。


「そんな話題の店が何故こんな小さな駅前に?」

「そんなの月子にも分からないよ。でもさ、オープンしたら行こうよ! みんなでいこ……」


 そこまではしゃいでいた月子が突然トーンダウンした。

 そう、その店は今、僕らがいるこの店のライバルになるであろうことに。

 目の前の月子はバナナに生クリームをたっぷり付けて頬張りながら。


「ニュースではお店の前に大行列が出来てたよ。遠くの人も食べに来るんだって。なんでも凄く安いのにフルーツが美味しいんだって。だからこのお店のライバルになっちゃうよ」


 店長はこのことを知っているのだろうか?

 僕は自分のバナナパフェに手を伸ばす。

 チョコクリームとアイスとバナナがよく合ってすっごく美味しい。ナナが言うにはパフェのアイスもいいものを使っているらしい。チョコクリームの加減もいいし盛りつけも綺麗だ。このパフェを作ったのは黒江嬢。学校ではいつもツンとお高い彼女だけど……


 ナナがバイト採用になった翌日の昼休み、食事を終えた僕らに彼女が声を掛けてきた。


「ちょっといいかしら」


 彼女の後を付いてナナと一緒に屋上へと上がる。

 梅雨入り宣言がされた今日はどんよりと雲が空を覆い隠していた。


「ナナさんにはお願いしたんだけど、わたくしが働いていることは秘密にしてね」

「あ、うん勿論」

「だから、あの店に学校の友達とか連れて来ないでね。バレると厭だから」

「分かったよ。だけど、どうして隠したりするんだ? 別に悪いことしてる訳じゃないのに」

「イヤなのよ。わたくしのプライドが許せないからよ」


 言いながら眼を背けた彼女は寂しそうに笑いながら。


「笑いたかったら笑ってもいいわよ」

「そんなことするわけないだろ!」

「そうよね。日向くんは優しいものね」


 屋上から遠くの景色に視線を向けた黒江嬢。

 その先には駅とモールが見える。


「そう言えば黒江さんって弟さんがいるんだよね。もしかして小学校四年生?」

「えっ、そうだけど……」


 僕は月子のクラスメイトに同姓の男の子がいる話をした。


「だから、もしかしたら、って思ったんだ」

「お願い! 弟には絶対言わないで! お願いっ!」


 それまで淡々としていた彼女の声が一変した。

 振り向くと深く頭を下げたままの彼女。


「この通り、お願いっ!」

「分かってるって。頭上げてよ」

「お願い……」


 あの時の屋上の、彼女の必死の姿が脳裏に蘇る。

 黒江くんと言う月子の友達は「お姉ちゃんは塾で勉強している」、と言っていた。

 きっと彼女は弟にも隠しているんだろう。

 だからだろうか、厨房の仕事を任されている彼女が客の前に姿を見せることは絶対になかった。


「黒江さんのパフェは美味しいわね」


 気が付くと僕のバナナパフェをオリエが頬張っていた。


「ちょっと頂戴したわ。代わりにこのフルーツボンバーを食べてもいいわよ」

「いや、遠慮しとくよ」


 大皿に盛られたフルーツの巨大な塔はオリエによって既にほとんど倒壊していた。細身なのに凄い大喰いだ。


「気持ちの良い食べっぷりですね。お代わりお持ちしましょうか?」


 いつの間にか僕らの横で天川店長が微笑んでいる。


「オリエさまはベガの王女さまだったのですね。先ほどナナ姫さまから伺いました。ご無礼お許しください……」


 深く頭を下げる彼にオリエは鷹揚に。


「くるしくないわ。面をお上げなさい。そしてお代わりを持って来るがよ……」


 バシッ!


「ちょっ、ちょっと陽太何するのよ!」

「調子に乗るな! お前は王女である前に誘拐未遂犯だ!」

「お腹にバナナの絵があるんだもんねっ!」


 月子がオリエのお腹に手を伸ばすと、グレーのタンクトップの下からにょっきりバナナの絵が現れる。


「うわあ、これはまたアバンギャルドな! そんなにバナナがお好きなので?」

「違うわよ! もう見ないで!」


 不機嫌そうに店長からお腹を隠すオリエ。


「失礼しましたオリエさま。すぐお詫びの品をお持ちしますので少々お待ち下さい」


 やがて10分もしないうちに彼は特盛りのバナナボートを持って来て。


「これはぼくからの贈り物です。オリエさまみたいに美味しそうに食べていただくとぼくも嬉しいんですよ」


 オリエの前にそれをおくと、彼は語り始めた。


「ぼくは帝国コンツェルン社で働いているとき、多くの星でバナナプラントを立ち上げました。ぼくの仕事は安くて美味しいバナナを生産すること。きっとみんなを笑顔にできる。そう信じて頑張りました。だけど、妻の実家に行ったぼくが見たのはそれとは全然違う現実でした。バナナ相場の暴落で昼は農夫、夜はコンビニで働く妻のお父さん。無理がたたり体調を崩した彼を支えるお義母かあさんも見るからに痩せ細っていました。ベガの大手法律事務所で働いて、それなりの高給を貰っていたはずの妻がいつも質素な食事をし、デートの時も贅沢を言うことなど一度もなかった理由をぼくはこの時知ったんです……」


 悔しそうに唇を噛んだ天川店長。


「ぼくは何も知らなかったんですよ、帝国コンツェルンがバーナーナの農業を叩くため採算を度外視して安売りを仕掛けていたことも。だからぼくは健全で美味しいバーナーナの果物で地球の皆さんを笑顔にしたいと、その一心でこの店を開いて…… あ、ごめんなさい、つまらない話しをして」


 返す言葉を探していた僕にぺこり一礼すると彼は戻っていった。


 



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