第7章 第3話
月曜の放課後、ショッピングモールは人も少なめ。
ナナは意を決したように店の門を潜る。
「私たちも高見の見物といきましょう」
オリエは他人事のようにうそぶくと、その後に続く。
確かに他人事なんだけど。
「いらっしゃいませ~っ」
きらきらした大学生くらいのお姉さんが笑顔で出迎える。
彼女に貼り紙を見て来たと告げたナナは奥の方へと案内された。
「その間パフェでも食べましょう」
悠然と窓際の席へ陣取るオリエ。
しかし僕は迷っていた。
ナナは器量もいいし頭もキレるし、飲み込みも早い。
少しくらい厳しいからって何も心配することはない。
だけど、彼女は宇宙人だ。
地球人には当たり前の常識が欠如している。だからとんでもない行動に出たりする。
「ちょっと様子見てくる」
オリエに告げると僕もナナの後を追った。
店の奥に厨房が見える。
思いの外広い厨房には白いコック帽を被る女性の後ろ姿。
その手前、昨日の朝も会った空色の髪の小柄な男がナナと向かい合っていた。
「バイト希望、ですね、狭いですけどこちらへどうぞ…… って、あなたもバイト?」
僕を見て30過ぎくらいの店長。
「いえ、そうじゃないんですけど友達、なんで」
「じゃあいっしょに、どうぞ」
普通バイトの面談に友達が付いてくるとか無い話。
だけど、愛想がよい彼は僕らふたりをスタッフルームへと案内した。
狭い部屋にはロッカーと4人掛けの椅子があるだけ。
「まあ座って下さい」
高鍋の話だとここは超絶ブラックでバイトは大変だと言っていたが、そんな感じはミジンコもない。
いや、逆に店長はとても感じがいい。
ナナはカバンから書類を取り出し店長に渡す。
履歴書だ。
って、あいつの履歴書、何て書いてあるんだろ? まさかバーナーナ星第二皇女とか書いてないよな。
「桐星高校の一年生なんですね。好きな食べ物はフルーツ、と」
良かった。真っ当な内容のようだ。
「高校生はホールスタッフの平日夕方からと休日の朝からと……」
「あの、ホールの方じゃ無くって調理の方はできませんか?」
「調理スタッフですか? そっちは既に優秀なスタッフがいるので。今はいらないんですよ」
「あの、わたしも頑張りますから」
「でもね。あなたと同じ桐星高校の生徒さんで……」
店長は腕を組んで少し考えていたが。
「じゃあちょっと何か作ってくれませんか?」
彼は立ち上がるとドアを開け部屋を出る。
僕らも彼の後に続く。
「ちょっといいかな」
「あ、はい」
小さく返事をしたのは厨房に立っていた白いコック帽の女性。
振り返った彼女を見て僕とナナが揃って声を上げた。
「黒江さん!」
「黒江嬢!」
睨むように僕らを見ていた彼女は、やがて目を伏せた。
「よ、よろしく……」
まさか、あの黒江嬢が。
どこからどう見てもお金持ちのお嬢さまだとばかり思っていたけど、こんなとこでバイトしてるんだ。
「じゃあ大葉さん、ひとつフルーツの盛り合わせを作ってくれるかな」
「はいっ!」
ナナは目の前に置かれたリンゴ、キウィ、オレンジ、メロン、そしてバナナを流れるような手さばきでカットし始めた。細くスライスしたバナナとキウィであっと言う間にタワーを作るとその周りにフルーツで絵を描く。真っ赤ないちごがタワーのてっぺんに立つと完成だ。
「すごい! バナナ姫、いや大葉さんすごい……」
素直に感嘆する黒江嬢の横で店長は腕組みをして。
「素晴らしい包丁さばきだ。日本一、いや地球一かも。でもこの盛りつけって……」
「見た目は綺麗だけど味はどうかしら。黒江さんのパフェは見た目も味も完璧だったわよ」
気が付くといつの間にやらオリエが立っていた。
「オリエ喰うの早いな!」
「ええ、早いのが取り柄だからね。ねえ、黒江お嬢さま」
「琴乃さんまでわたくしの秘密を…… ええそうよ、そうよっ! わたくし黒江麗華は毎日バイトに精出す貧乏学生よ! 毎晩家で弟が姉ちゃん腹減ったって箸で茶碗を叩きながら待ってる所帯じみた貧乏学生よ、笑うがいいわよ。貧乏だって思う存分笑うがいいわよっ!」




