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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第1章 末永く愛してくださいっ!
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第1章 第4話

 ソファに腰掛けたナナはリビングの中を見回して。


「地球のテレビは見やすいですね。空間投影型よりハッキリしていて」


 彼女は紀行番組が映る50インチテレビを物珍しそうに見つめる。


 あの後。

 今朝のことは知らないことだったんだとナナに婚約の撤回を求めた僕に、じゃあ挙式は陽太さんが納得してからでいいですよ、豪華じゃなくても、どんなにつつましくても愛があるから大丈夫ですっ、と彼女。一歩も引かないどころか逆に押し込まれた気がする。しかし、納得なんてできないよ、彼女は宇宙人なんだよ!


 そんな僕の態度に少し寂しげだったナナ、それでも一緒に晩ご飯を食べましょうと母が我が家に招待すると少し元気になった。


「こんにちは……」


 ドアを開けて、妹の月子つきこがゆっくりと入ってくる。


「あらっ、こんにちは! 陽太さんの妹さん?」


 何を警戒しているのか、いつも快活な月子がニコリともしない。

 そんな月子に歩み寄り、腰を屈めたナナはポケットから一本のバナナを取り出した。


「はい、どうぞ!」

「…… 貰って、いいの?」

「勿論よ、たくさんあるわよ!」


 ポケットから次々バナナを取り出すナナに月子は目を丸くする。


「うわあっ! すごい、すごいよっ! 手品みたいっ!」


 赤毛のショートボブを揺らし月子はゴキゲンになって。


「ねえねえお兄ちゃん、バナナ食べていいかな?」

「もうすぐご飯だから後にしよう」

「うん、わかった。そうだ、あたい麦茶持って来るね、お姉ちゃんも喉渇いたでしょ」

「じゃあ僕の分も頼むよ、月子」

「ちょっと待って! ねえ月子ちゃん、わたしがジュースを作ってあげるからコップをふたつ持って来てくれるかな?」


 月子がコップを持って来るとナナはポケットからリンゴとお手拭てふきを取り出した。


「リンゴジュースは好きかな?」

「うんっ!」


 お手拭きで手を拭ったナナは、リンゴを両手で包むように持ってそのままぐしゃりと……


 って!


「お姉ちゃん凄いっ! リンゴ握り潰したっ!」


 コップにリンゴの汁をしぼり出すと、ほとんど水気がなくなったリンゴかすをゴミ箱に捨てる。あっと言う間にふたり分のリンゴジュースを搾り出した彼女はハンカチで手を拭いて。


「さあどうぞっ!」


 とんでもない怪力だ。

 僕はテーブルに残ったリンゴを手に取ってみたけれどそれは普通の小ぶりなリンゴだ、充分硬い。こんなの楽々と握り潰すなんて……


「あっ、そのリンゴもバーナーナ産なんですよ。生産量は少ないですけど星の北部で作られるんです」

「そうなんだ……」


 無邪気にジュースを飲み干す月子。


「美味しいっ! こんな美味しいの、月子初めてだよっ!」

「ありがとう月子ちゃん」

「それにさ、お姉ちゃんって凄く強いんだねっ、お兄ちゃんの100倍強いよっ!」

「えっ? そんなことないですよ、わたしはただリンゴを握りつぶしただけで…… あっ!」


 口に手をやり、あからさまに狼狽うろたえるナナ。


「あのう、バーナーナ星ではこうやってジュースを作るんですけど地球では違うんですよね。本で読んだのに忘れてました。素手で食べ物を握りつぶすなんて地球では野蛮な方法なんだって。力が強い女の子は嫌われるんだって、そう書いてあったのに……」

「いや、力が強いからって嫌われるなんてないけどさ。ただ、恐れられる、ってのはあるかな……」

「そんなあっ!」


 僕もコップに口を付ける……


「うまっ!」


 これ感動的に美味しいじゃん。

 味が濃いし新鮮だし、一気に飲み干してしまった。


「あの、陽太さんはわたしのこと……」

「作り方は星それぞれなんだろ。気にしてないって。それよりすごく美味しかったよ」

「う、嬉しいですっ」


 不安げだった表情が一変する、まるで万華鏡のような女の子だ。


「は~い、ご飯できましたよ!」


 母さんの声に僕らはソファから立ち上がる。

 すぐ横の食卓では美味しそうな料理たちが湯気を立てていた。

 酢豚と餃子ぎょうざ、それに野菜スープ。


「さあ、たくさん食べてくださいね」


 帰り道で聞いた話だとバーナード星もこの地球も食材はほとんど変わらないらしい。


「いただきますっ!」


 それでもナナは珍しそうに酢豚を頬張る。


「うわっ…… 美味しいですっ! これはお肉とピーマンとタマネギと…… この黄色いのは?」

「ああそれね。それはパイナップルよ」

「パイナップル? パイナップルって甘くて酸味がある果物ですよね、バーナーナでも作られてますよ。地球では暖かい国が産地だとか」

「そうよ。パイナップルは酢豚に合うのよ、お肉も柔らかくするし」

「へえ~っ」


 ナナは餃子も頬張ると、その中身が挽肉と野菜であることに感心しきり。


「美味しいです! バーナーナでは普通、お肉はお肉、お野菜はお野菜、そして果物は果物として戴くんです。勿論煮たり焼いたりレンジでチンしたりはしますよ、この野菜スープみたいな料理もあります。だけど餃子はありませんしパイナップルはお肉と一緒に食べません。でも、これは美味しいですっ!」

「そうなの? よかったらまたお家にいらっしゃい、今度は一緒にお料理をしましょうか」

「はいっ、是非お願いします、お母さまっ!」


 ナナは母さんと意気投合、ハイタッチを交わしている。

 妙な部分は地球のしきたりをよく知っている宇宙人だ。


「ごちそうさまでした」


 やがて、

 デザートにと取り出したバナナをみんなで食べるとナナは帰り支度を始める。


 婚約したんだから僕の家に住みたい、とか言い出さないか不安だったが、その心配は杞憂きゆうだった。どこに帰るのかは知らないけれど、失礼しましたと席を立つ。

 背中で綺麗に切り揃ったサラサラの金髪。

 さすがは一国ならぬ一星の皇女おうじょらしくその立ち居はりんと美しく、両親と月子に丁寧な挨拶をすると玄関を出る。僕は一緒にエレベータに乗り、彼女をマンションの前まで見送ることにした。


「ありがとうございます陽太さん、とっても楽しかったです」

「いや、それならよかったよ」

「あのね、わたし決めました。わたし、この日本でお料理のお勉強をします。そうしてバナナの美味しい食べ方をたくさんたくさん勉強して、宇宙の人々にもっともっとバナナを食べて貰おうと思うんです。そうしたらきっとバーナーナのみんなも幸せになれるかなって」

「なるほど、それはいい考えかも」

「陽太さんも応援してくださいますか?」

「あ、ああ」

「嬉しいですっ!」


 言うが早いか彼女は僕の腕を取った。

 日も暮れて空にはオレンジがかった三日月が見える。

 僕の腕に伝わる彼女の感触はあの怪力がウソのように優しく柔らかく女の子らしくって……


「お、おい、よせよ。納得とか、まだだし……」


 何だか顔が熱くなる。


「でも夫婦(仮)です!」


 少し怒ったように頬を膨らませたナナは、しかしすぐに微笑みを浮かべ。


「でもね、あの時わたしが陽太さんにバナナを差し出したのは命を助けてくださったからだけじゃありませんよ。陽太さん、わたしに付いた落ち葉を取り払ってくださいましたよね、そうしてわたしを狙ったトラックの刺客しきゃくの命さえ助けられて……」

「えっ? あの運転手ってナナさんの命を故意こいに狙ってたの?」

「おそらくは。彼は誰かに雇われたプロキシマ星人の殺し屋かと」


 なるほど。

 だから彼は真っ直ぐ前を向いていたのにブレーキを踏んでいなかったんだ。


「わたし、そんな優しい陽太さんに一目惚れしました。勿論、その、そこだけじゃなくって、その女装が似合いそうな可愛らしい顔立ちも……」

「男に女装が似合うなんて言わないでよ! 気にしてるんだから……」


 高鍋にもよく「男の娘になれる」ってからかわれるし。そこはウソでもいいからイケメンと言って欲しかった。


「あ、ごめんなさい。でもこれだけは覚えていてください。わたしは命の恩人ってだけで陽太さんをおしたいしている訳じゃないんです。今日はバーナーナのしきたりで契りを結びましたけど、次は地球のしきたりで陽太さんにプロポーズさせちゃいますからねっ。見ててくださいよ、わたしの魅力で陽太さんをとりこにしちゃいますから! だってわたしは……」


 彼女は僕との腕組みを解くと目の前でおどけたようにくるりと回って見せた。


「わたしは陽太さんが大好きですっ!」


「……ナナ、さん」

「ナナさん、じゃありません! ナナって呼んでください!」


 その澄んだ深紅の瞳は全てを見透すかのようで、僕は金縛りみたいに動けない。


「ナナ……」

「嬉しいです、陽太さんっ! 陽太さんが一緒だったらバーナーナはもう安泰です!」

「あっ、ちょっと待って! ひとりになったら、また命を狙われるんじゃ?」

「大丈夫です! プロキシマ星人は鳥目とりめで夜は行動しませんから!」

「鳥目って、都合のいい設定だな……」


 そうして。

 ナナは大きく手を振りどこへともなく帰って行った……

 ……


 ……はずだった。


 が。



 一時間後。



 ピンポ~ン


「はい、どちらさまで……」


 呼び鈴のに玄関を開けた僕の前で、黄色いワンピースを纏った金髪美少女の笑顔が花開いた。


「こんばんは! このたび隣に越してきたあなたの妻ですっ。これ、つまらない物ですが食べてくださいねっ!」


 彼女が差し出したのは、たわわに実った一房のバナナ。


つまなのに、つまらない物って、狙った訳じゃないですからねっ!」

「いや、気付いてさえいなかったけど」

「ふつつかなわたしですが、末永く愛してくださいねっ!」


 弾ける笑顔で帰って行くナナ。


「……」


 しかし、この時僕はまだ知らなかった。

 彼女が隣に越してきた、と言う真の意味合いを。




 第一章 完


【あとがき】


 こんにちはっ、大葉ナナですっ!

 数多あまたある小説の中からこの物語を紐解いて戴いて、本当にありがとうございますっ!


 さあて、オープニングの第一章はいかがでしたか?

 颯爽とわたしを助けてくれた陽太さん、カッコよかったですよねっ!

 この物語はそんな陽太さんとわたしの星を超えた愛と勇気と感動のラブストーリーなんですよ。


 今日はわたし、授業中にバナナを食べて陽太さんに注意されたりとか、リンゴ握り潰して驚かれたりとか、色々失敗したみたいですけど、でもね、これから地球のしきたりも勉強して陽太さんとふたりで真っ黄色なウェディングドレスを身にまとい、幸せの鐘を全宇宙に鳴り響かせるまで頑張りますから皆さまも応援お願いしますねっ! さあ、明日は何してイチャイチャしようかなっ!


 って、何ですか作者さん、そんなに世の中甘くないって?

 何言ってるんですか? まさかわたしに強力なライバルを登場させて、この物語を波瀾万丈のストーリーにしようとか考えてませんよね? そんなこと絶対無理ですよっ! だってふたりはもう愛の契りを結んだんですから。陽太さんとわたしの仲は絶対! だから作者さんはふたりの熱いイチャラブな毎日をただ平凡にダラダラと書き綴ればいいんですよ。楽勝でしょ? それが読者さまが望む天の声ですし、陽太さんとわたしが望む全てなんです。あとはただハッピーエンドに向かって突撃するだけなんですよっ。


 と言うわけで次章予告です。


 陽太の隣に越してきたナナ、幸せ絶頂のふたりは朝からいちゃいちゃと一緒に学校へと向かう。しかしその途中思いも寄らぬ事件がふたりを襲った……


 次章「織姫おりひめさまにご用心」、もお楽しみに!

 大葉ナナでしたっ!


 って、ちょっと待ってよ!

 織姫って誰なのよっ!


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