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第5章 第7話

 イグールのすぐ目の前にオリエの姉たちを座らせる。

 細い吊り目のマリーとだんご鼻のアナスターシャはド派手なドレスだけが目を引いた。


「オリエねえのお姉ちゃんってさ、すっごくお化粧してるね」

「はははっ、そうだね」


 僕と月子では気になるポイントが違うようだった。


「お兄ちゃん、ナナねえとオリエねえはこっちでいいの?」

「うん、イグールが振り向いたら困るからね」


 ナナとオリエはカフェの外に移動して貰った。

 あとはイグールに媚薬を飲ませるだけだ。


「お兄ちゃん、イグール王子はどっちを見るかな?」

「さあね。オリエの話だとアナスターシャさんの方が積極的らしいけど」


 もうお分かりだと思う。

 僕の作戦、それはイグールにもう一度媚薬を飲ませて、彼の目の前にマリーとアナスターシャを座らせておくことだ。気が付いたイグールはふたりのどちらかを最初に見て、どちらかに惚れることになる。ふたりともイグールとの婚姻を望んでいるから、怨まれる心配もない。但し媚薬の効果が切れるまで、だか。

 どちらに惚れてもめでたしめでたし…… のはずだ。


 一錠を飲ませて、瓶と説明書はポシェットに戻して。

 これで準備は万端だ。


「いいか、月子はナナねえのところにいるんだぞ」

「うん、わかった」


 僕は配置をもう一度確認するとゆっくり元いたテーブルへと歩いて行く。

 そうして、その席に辿り着いた途端、時間が動き出した。


「えっ、なにっ?」


 辺りを見回すマリー。


「わあっ、イグール王子!」


 すぐに王子に気が付いて身を乗り出したアナスターシャ。


「あれっ?」


 不思議そうに声を上げるときょろり周囲を見て、横に立つ彦太を見上げたイグール。

 事態が飲み込めないのは彦太も同じだ。


「これはどうしたことでしょう?」

「彦太!」

「どうしました殿下」

「彦太、彦太はいつからそんなに美しくなったのだ?」

「はい~っ?」


 黒髪七三分けに黒縁眼鏡の真面目そうな中年紳士、どこからどう見ても四十は過ぎている彦太が素っ頓狂な声を上げる。


「彦太、これから一緒にシャンゼリの街を散策しよう」

「あの、殿下。月子さまは……」

「ああ、子供はちょろちょろどこかに行ったのだろう。まあいいじゃないか」

「あっ、これはイグール王子。あたくしはベガの第二王女アナスターシャと申しま……」

「さあ行こう、愛しの彦太!」

「ちょっ! 殿下何をなさいます! そんな口吻キスとかお止めくだ、って殿下あ~!」


 僕は目立たないように月子やナナたちの元へとゆっくり移動した。


「お兄ちゃん、どうなってるの、これ?」

「いや、僕にも分からない。おかしいな、あの説明書には「最初に見た異性・・をどうしようもなく愛してしまう」って書いてあったよな。それなのに同性の彦太に惚れるなんて……」


 と。


 カシャカシャ!

 カシャカシャカシャ!


 イグールと彦太の醜態にたくさんのフラッシュが浴びせられる。

 オリエが声を掛けたシャンゼリのパパラッチたちだ。

 僕は月子の手を取るとナナとオリエに声を掛ける。


「ともかくここから逃げよう」

「はい」

「そうね」


 そうして、僕らは悲鳴と嬌声きょうせいが渦巻くホテル・ティファミーを後にした。

 

          ◆ ◆ ◆


「せっかく花の都・シャンゼリに来たんだから、ベガ料理を食べて帰りましょ!」


 オリエの誘いに4人はセーム川沿いにある洒落たカフェレストランへ入った。


「わあっ、美味しそうなステーキだあっ!」

「本当だ、ラムみたいな味がするな」

「みたい、じゃなくて、ラム肉よ」


 喜ぶ僕らに自慢げなオリエ。


「ベガの料理は地球の料理に近いですね」


 ナナも笑顔でダックを頬張る。

 終わりよければ全てよし。

 イグールはナナも月子も顧みず自分の従者である彦太へその愛を暴走させた。

 そのさまはこの星のパパラッチたちが激写しまくったから、イグールの同性愛がゴシップ記事になるのは確実だ。

 無責任だけど、イグールがどうなろうと僕の知ったことじゃない。

 まあ、マリーかアナスターシャとくっついてくれたらもっと良かったんだけど。


 それよりも、だ。


「このパテも美味しいわよ。こうしてパンに塗ってっと。はい、どうぞ」


 さっきから甲斐甲斐しく僕らに世話を焼くオリエ。いつもはツンで女王さま然とした彼女がまるで別人のようだ。


「ホントだ、美味しいよオリエねえ!」

「でしょ! シャンゼリは美食の都とも呼ばれてるの。デザートも美味しいから楽しみにね!」


 楽しそうなオリエからこの星への愛情がひしひし伝わる。

 それなのに。


「あの~、バーナードのナナ皇女ですよね」

「はい、そうです」

「わあっ、バーナードのナナ姫さまだあ~! 本物だあ!」

「知っててくれてありがとうね! はい、バーナーナの美味しいバナナをどうぞ!」


 オリエのお膝元にも関わらず、声を掛けられるのはナナばかり。


「別に同情なんかいらないわよ。王室ではハブられてるけど、モデルとしてはそこそこ売れてるし、お姉さまより断然モテるし」


 僕の考えを見通すようにオリエ。


「オリエねえって美人だもんねっ!」

「ありがとう月子ちゃん! お勉強だって負けてないのよ、えっへん。だけど、それが姉も母も気に入らないんでしょうね……」


 カフェを出ると華やかな通りのお店屋さんを覗きながら川岸の宇宙船へ向かう。

 途中月子はオレンジ色の可愛らしいリュックを買って貰い大喜びだ。


「ありがとうオリエねえ! こんな可愛いの日本にないよ!」

「いいのかオリエ、80コスモって日本円の8000円じゃ……」

「大丈夫、イグールのカジノでボロ儲けしたから。じゃあ、みんな帰りましょうか」


 帰りの宇宙船はバーナードに行ったときと同じ、乗用車二台分くらいの円盤だった。

 イグールのホテル並み超豪華な宇宙船とは比べるべくもないが、こっちの方が不思議と落ち付く。やっぱ僕は庶民だなと思う。


「ベガ王室の船はもっと立派なんだけど、こんなのでごめんね」

「いや、僕はこの5人乗りの方が気楽でいいよ」

「月子も!」

「わたしも」

「ナナまで合わせてくれなくていいんだぞ。お前バーナーナの皇女だろ」

「バーナーナ皇室の船はこれくらいですよ。貧乏な星なんで……」


 ホントか謙遜かわからないけど。


「じゃあ出発するわよ」


 オリエがスイッチを押した途端、あっと言う間に景色が流れて、青く美しい惑星がみるみる遠くなっていった。



 第五章 完




【あとがき】


 こんにちはっ、ナナです!

 いつもご愛読ありがとうございます!

 オリエの星、ベガを舞台にした5章はいかがでしたか。


 ベガの首都、シャンゼリはきらびやかな都会。

 最新のファッションと伝統ある古い街並みが見事に融和した美しい街。

 バーナーナでも新婚旅行の行き先として人気の星なんですよ。


 約二百三十年前、王政が倒されたベガですが、その後も王室は継続。その背景には


「パンがなければバナナを食べればいいじゃない!」


 とうそぶいたとされる当時の王妃マリーアンの言葉に呼応し、バーナーナが不作に悩むベガ星民にバナナを配ったお陰だとされています。今でもベガとバーナーナの王室は友好関係にあるんですよ。


 そんな宇宙の文化の中心・ベガの第三王女オリエ。

 彼女は星民にあまり知られていない自分の境遇をどう思っているのでしょうね。継母ままははとふたりの姉にいじめられる三女ってまるで地球の有名な童話みたいですけど、作者さんパクってませんよね? 最後にガラスの靴とか持ち出したら怒りますよ!


 さて、次章の予告です。


 地球に戻ったわたしたちはカレーの材料を買うためにスーパーへと出向きます。

 陽太さんのお母さまが一日一回・三日で三回足を踏み入れると言う庶民の味方・スーパーマーケット。

その、主婦のお買い物パラダイスにも不気味な宇宙人の魔の手が待ち構えていて……


 次章「ナナ、スーパーへ行く」もお楽しみに。

 いつも心にバナナを一本、ナナ・カテリーナでした!


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