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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第4章 星の皇女と白馬に乗ったバカ王子
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第4章 第8話

「用意はいいか、月子」


 何でも切れる包丁は厨房ちゅうぼうに戻し、彼の媚薬もポシェットに戻した。


「うんOKだよ!」


 イグール王子の目の前で剣を構える月子が肯く。

 彼が持っていた宇宙共通婚姻届とやらは破り捨ててしまったけど、それ以外は元通り。違うところは彼のエペは切り刻まれていることと、彼が媚薬を飲み込んでいること……


 僕は元いた場所へと歩いて行く。

 そうしてそこに辿り着くと。


「陽太っ……」

「あぶなっ……」


 オリエとロイ王子が叫ぶ中、試合は再開される。


「さあ、これで終わ……」



  カラカラン

  カラカラカラン

  カランカランカラン



 イグールの言葉が終わらぬ間に、乾いた音が大広間に響き渡る。

 その音が何の音か、暫く誰も気が付かなかった。

 勿論、僕と月子を除いて。


「あっ、あれえ~っ!」


 イグールの剣は全て細切れになり床に落ちている。

 もはや攻撃も防御も、その手段をもぎ取られた王子。

 固まっている彼に向かって、月子の剣が襲いかかる。


「やあっ!」


「…………」


 その剣先は真っ直ぐ彼の胸を突き、誰の目にも決着は明らかだった。


「えっ、あっ、なに~っ! これは一体どうしたんだ!」


 マスクを付けたままイグールが叫ぶ。


「すっ、すごいや月子さん!」


 傍目はためには月子が目にも止まらぬスピードで全ての剣を切り刻み、彼の前に躍り出て勝負を決めたように見えただろう。なぜなら、時間のを止めた前後で僕は一歩も動いていないけど月子は彼の目の前に移動している。傍目には一瞬で。


 パチパチパチ……


 ナナの拍手に月子はマスクを外す。

 そうしてイグールを覗き込んで意味ありげな笑顔を見せた……


「えへっ、月子たちの勝ちねっ!」


 って。

 それって!


「月子、そんなことしちゃ……」


「ラッサンブレ・サリュー」


 試合終了の合図に僕も彼の元に歩み寄る。

 柄だけになった剣をポトリ落としたイグールはゆっくりそのマスクを外した。


「つきこさん…… ああ、なんて可愛らしく美しい! ぜひ、ぜひこの私のきさきになってはくれまいかっ!」


「「「「えっ?」」」」


 周囲から一斉に驚きの声が上がった。

 月子の前に片膝を着き、両手で高く真っ赤な薔薇の花束を捧げるイグール。

 って、どこに花束持ってたんだ、こいつ。


「殿下! 何をされるんです! ご乱心ですか!」

「乱心などではないっ! 俺の気持ちは月子お嬢さま一本だ……」

「お待ち下さい! 殿下はナナさまをお后にと仰ってたではありませぬか!」

「もうその話はいい」

「あんな素晴らしいお相手は宇宙広しといえど他にはおりますまいぞ!」

「もういい、ナナ皇女は地球の男にくれてやる!」

「お気を確かにイグール殿下! 第一、月子さまはどう見ても幼女…… もとい、まだ子供。こんな年端もいかぬお子さま相手に求婚など、ロリ疑惑を掛けられますぞ!」


 さっきまで試合の審判をしていた彼の従者が驚いて説得を始める。

 しかし。


「ええいっ、放せっ! ああ月子さま、あなたはとても美しい! ぜひこの私と一緒に……」

「ふふふっ、いいわよ。あたいの言うことをきいたら一緒にお茶してあげるよ!」


 小学4年生の月子が小悪魔のように、見下ろすようにイグールに微笑む。


「もちろんです! 月子さまの言うことなら何でも」

「じゃあ……」


 あの媚薬の効果は説明文通りに激烈だった。



 最初に見た異性を愛してしまう超絶強力な恋愛誘導剤。

 1回1錠の即効性で効果は12時間持続する……



 哀れ、媚薬の力で月子の言いなりになってしまったイグール。

 従者の言うことなど兎の耳に念仏、月子が出した条件、「バーバーナのバナナを今までの2倍買う条約」の締結のため、調印机の前に座るハメに。


「月子さんって凄く強いんですね、あれが空手ってやつですか? 全然見えなかったですよ月子さんの動き。今度僕にも教えてくださいっ!」


 壮絶な勘違いをして月子にキラキラ尊敬の眼差しを向けるロイ王子。


「あ、いやいや。あれは空手とか関係なくって、たははは……」


 説明にきゅうする月子。

 しかし、いつまでもここにいては、今度は月子が危険だ。


「月子、お前本当にあいつとふたりでお茶する気か?」

「まさか! でもウソつきはいけないかな……」


 晩餐会のテーブルからバナナジュースを両手に持つと調印席へと歩み寄った月子は、イグールにひとつを持たせて乾杯をした。


「月子ちゃんは本当にいい子ね。媚薬を使ってイグールの矛先を自分に向けさせて、わたしをあの忌々しい王子の魔の手から開放してくれて、それでも約束は守るだなんて」

「なあ、ナナはどうしてそれを知ってるんだ? 時間が止まってる間のことは分からないはず……」

「それが不思議なことに…… あっ、お帰り!」


 見ると月子が速攻で戻ってきていた。イグールは調印の儀式を始めている。


「さあ逃げましょう! ここにいたら月子ちゃんに迷惑が掛かっちゃうわ!」



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