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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第4章 星の皇女と白馬に乗ったバカ王子
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第4章 第5話

 天使が楽園を舞う荘厳なフレスコ画の下、真っ赤な絨毯の上を歩いて行く。


「お兄ちゃん、ナナねえは凄いお姫さまなんだね」

「凄いって、何が凄いんだ?」

「凄いは凄いだよ。クレオパトラと楊貴妃ようきひ小野妹子おののいもこを足して100倍したくらい凄いんだよ」

「小野妹子は足すな。小野小町にしてやれ」


 やっぱり小学生な月子。

 ナナは少し振り返りたおやかに微笑む。


「いまに月子さんも美しいお姫さまになりますよ」

「えっ、ほんとっ?」

「本当です。優しくて勇気がある女の子は必ず綺麗に花開くんですよ」


 僕らが通されたダイニングには20人は座れる巨大なテーブルがあって、その前には皇妃さまと、そして。


「紹介しますね、弟のロイ、それから姉のサキです」


 皇妃さまの左右に立っていたふたりはうやうやしく頭を下げる。勿論僕らもそれを真似て挨拶する。


「さあ、お腹が空いたでしょう。ナナからは日本の料理はとても美味しいと聞いています。バーナーナの食事がお口に合えばいいのですが」


 テーブルには既にスープが置かれていた。


「遠慮しないですぐに飲んでくださいね。お客さまが最初に口を付けるのはここのマナーなんです」


 椅子に座りナナがささやいた通りにスプーンを口に運ぶ。黄色いそれはバナナかと思いきやコーンスープだった。塩加減もよくトウモロコシの味が濃厚で美味しい。


「うわっ、美味しいです。日本のスープより美味しいです」

「ありがとうございます。良かったわね、ナナ」


 目の前に座るナナは微笑みながら会釈をする。


「もしかしてこれ、ナナねえ姫が作ったの、ですか?」


 月子の言葉使いがヘンになっている。


「そうですよ。ちゃんと腕利きの料理人もいるのですが、今日は特別。全てわたしの手料理です。ではごゆっくりとご歓談を」


 ナナは立ち上がるとティアラを外し棚に置く。そうして優雅に部屋を出て行った。


「陽太さまご趣味などは?」


 ナナのお姉さんというサキが優美に語りかける。

 綺麗な金色ブロンドのトルネードヘアに深緑の瞳。ナナに似て凄い美人だが、可愛いと言うよりシャープな印象のサキ皇女おうじょ。ナナの話では3歳年上なのだとか、日本で言う大学生か。


「趣味と言うほどのものはないですけど、アニメ見たりとかギター弾いたりとか。あっ、中学の時は卓球やってたんで」

「卓球って小さなボールを使ったスポーツでしたわよね。ナナもああ見えてスポーツは得意なんですよ」


 彼女が指し示す先には賞状やメダル、写真などが並んでいた。ナナは星でも有名な体操ダンスとやらの選手なのだそうだ。そう言えば帝国コンツェルンのポーターもそんなことを言っていた。写真と話から想像するに新体操に近いものらしい。


「わたくしとロイはテニスが得意なんですよ」


 と、そのロイ皇子が月子に話を振る。


「月子さんは趣味とか得意なスポーツとかは?」


 茶色の癖毛がかわいいロイ王子は4歳年下らしい。日本で言う小6だ。セーラーのような服に半ズボンを穿いたその風情は、着飾った日本の小学生と大差ない。


「えっと、お茶とお花はしてなくて…… マンガ描いたりとか好きで、スポーツって言ったら、ちょっとだけ空手、かな、ですわ、ほほほ」


 ダメだこいつ、緊張で日本語がヘンになってる。


「空手というと?」

「ええっと、相手を殴ってみたりり倒してみたりするんです。あ、ボクシングじゃなくて素手で殴るんですけど、パーじゃなくグーでバシッっとバキバキって。蹴るのもありで…… あっ、この前はおじさんの金的をやっちゃいましたけど、あれはルール違反でございますわ」

「………… 凄まじい趣味ですね」


 こりゃ勘違いされたな、言い訳しとかなきゃ……


 と。


「ロイ王子、地球の人はバーナード人と違って力が弱いんですよ。だから彼女みたいな、か弱い女の子が自分自身を守る護身のためのものですよ」


 僕より早く機転きてんを利かせたオリエの説明に少し青ざめていたロイ王子はふうっ、と息を吐いた。


「ビックリしました。こんな可愛らしい月子さんがそんなことをするわけないですよね」


 ぽっ!!


 横に座る月子が真っ赤になって蒸気を噴いた。


「あ、あのっ、はい。月子は悪者しか金蹴りとかしないです、わよ」

「やっぱり蹴るんだ」


 と言う風に、とてもなごやかに会話は進み。


「お待たせしました。こちらバナナ牛のステーキ・キャッスル風です」


 やがて。


 割烹着かっぽうぎに着替えたナナがワゴンで持って来たのは巨大な皿に盛られたお城の形のステーキだった。サラダの森に建つステーキのお城はとても巨大で、色んな形に焼かれたステーキを器用に積み合わせた物みたいだ。食べるのが勿体ないほど丁寧に作られたその城をナナは僕たちに取り分けてくれる。驚いたことにお城の天井が取り分けられると、中からお城の広間が現れて僕たちがいた。キュウリのような野菜で作られた人形はとてもこの短時間で作ったものとは思えない。


「これ、全部ナナ…… じゃない、ナナ姫さまが調理されたのでございますです、か?」


 ああっ、僕も言葉が不自由になってる。


「はい。さあお食べくださいませ。バナナ牛はバナナを食べて育ったこの星のブランド牛なんですよ。柔らかくても味がしっかりしてるのが特徴で。いかがでしょうか……」


 フォークでそれを口に運ぶ。

 普段食べる牛肉よりも野性味やせいみが強いその肉は、しかし口に入れるとじわっと柔らかく、肉自体にステーキソースの味がしっかり付いて…… って。


「うめえっ! これ、凄いうまいっ!」


 つい地が出てしまった。


「ホントだっ! お兄ちゃん美味しいっ!」


 目を輝かせる月子。

 一方。


「ちっ、相変わらずね…………」


 オリエは舌打ちして食べていた。


「食材をそのまま生かして見た目に凝るのがバーナーナ料理なんですよ」


 皇妃さまの言う通り、肉料理とサラダを兼ねたメインの後はバナナやリンゴ、マンゴなどをふんだんに使ったフルーツの「遊園地」が出てくる。勿論ナナが作ったものだ。


「ねえねえナナ姫ねえさまっ、これどうやって作るのっ!」

「見たい? いらっしゃい月子ちゃん、こっちが厨房ちゅうぼうよ」


 アロハ柄の割烹着を着たナナにひょこひょこと付いていく月子。


「月子さん楽しそうですね」

「はははっ、ナナ姫さまにはなついちゃってるみたいで」


 ロイ王子の視線は厨房の方を追いかけていた。


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