第1章 第2話
やっと振り切った。
生い茂る雑草に咲く黄色いタンポポを見ながら校庭を抜け靴箱へと向かう。
あの後ナナと名乗る少女は僕の横をずっと付いてきた。
いや、心臓飛び出すくらいドキドキものの美少女だったけど、唐突に「だんなさまっ!」とか「あなたの妻ですっ!」って言われてもこっちだって都合ってものがある。いや、それ以前に僕はまだ高校一年生、結婚出来る歳じゃないし。だいたいあの少女は自分をバーナーナ星から来た皇女とか言っていたけど、痛い人なのか? そもそも宇宙人なんて、そんなのいるわけ……
いや、いるか。
「日向おはよう」
「あ、おはよう高鍋」
クラスメイトの高鍋は黒縁眼鏡の二次元オタ、ここ桐星高校に入学した初日から気が合っていつも昼食を一緒に食べている。
「どうした日向、何だか凄く疲れてるように見えるけど」
「ああ、朝から色々あってな。なあ、高鍋は宇宙人っていると思うか?」
「いるんじゃないか、広い宇宙には。ま、俺は興味ないけどな、宇宙人も三次元だし」
「扱い軽いな、宇宙人……」
ガラガラガラガラ……
一限目は数学。
クラス担任、若い小田先生の受け持ちだ。
その小田先生は入ってくるなり笑顔を見せる。
「突然だが、今日からこのクラスに転入生が来ることになった。みんな仲良くしてくれよ」
彼が入り口を見て手招きをすると、入ってきたのは……
さらりと揺れる金色の髪に吸い込まれそうな深紅の瞳。
学校のセーラー服を身に纏った彼女は一礼すると可憐に微笑んで……
って。
ええ~っ!
「はじめましてっ、大葉ナナと申しますっ、お気軽にナナって呼んで下さいねっ!」
一瞬の静寂、しかしすぐざわめきが聞こえだす。
そりゃそうだ、あまりに突然だし、何よりあまりに綺麗だし……
「すごい、三次元とは思えん! 二次元から抜けてきた天使か……」
高鍋も口をあんぐり開けたままヨダレを垂らす。
だけど。
あの子、さっきまで黄色いワンピース着てたよな!
名前はナナ・カテリーナ・フォンなんとか、だったよな!
大体こんな短時間で、いつ転入手続きしたんだよ!
「じゃあ席は、空いているところで……」
「先生、わたしあそこがいいです!」
僕のとなり、高鍋の席を指差して先生を見上げる彼女。
「あ、ああ、あそこか…… でもあそこには高鍋が……」
「高鍋さんっ、後ろの席に移動して貰えませんか? お願いしますっ(にこっ)!」
「は、はいっ!」
その破壊力抜群の笑顔に高鍋は敬礼一閃、机の中から教科書を取り出し席を立つ。やおらナナは僕の前に歩いてきて、小首を傾げ微笑んだ。
「陽太さま、離れちゃイヤですよっ、わたしたちは夫婦なんですからっ!」
「え…… ええ~っ!!」