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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第4章 星の皇女と白馬に乗ったバカ王子
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第4章 第3話

 日本時間の夜8時。

 ナナの部屋のベランダに突如銀色の円盤が現れた。

 ナナが狙われていると聞いて放っておく訳にはいかない。

 僕もオリエもバーナーナへ同行することにした。


「なあ、このマンションのどこにこんな宇宙船が収納されてたんだ?」


 車二台がすっぽり収まるほどのそれは宙に浮いたまま6階のベランダに横付けされている。ナナはドアを開けると僕らに乗車を勧めながら。


「どこにって、わたしがポケットに何百本もバナナを入れているのと同じ原理ですよ。ベランダに時空じくうを圧縮する格納庫があるんです」


 何だかサクッと凄い原理を語られた気がする。

 ってか、こいつ何百本もバナナを持ち歩いてるんだ……


「ベランダに置いてある宇宙船格納庫は空間圧縮率100なので、10メートルの円盤も10センチに収まるんです」

「なあ、体積が圧縮されるのは分かったけど、重さは? 質量って時空が歪んでも変わらないんじゃないか?」

「…… 陽太さん、そろそろ時間です。シートベルトをお願いします」


 説明できないんだな、ナナ。


 円盤の中は普通の車ほどの空間だった。座席も五つで乗用車と同じ。前列にナナとオリエ、後部座席に僕と月子が並んだ。ナナの席が操縦席そうじゅうせきでモニターと操作パネルが並んでいるがハンドルはない。あと、車と大きく違うのは、天井も含めて周囲360度が窓になっていることくらいか。


「では出発しますね。目標地点、へびつかい座方向5.95光年、バーナーナ第一惑星!」


 ナナがジョイスティックみたいなのを振ると音もなく円盤が急上昇する。

 そうしてあっと言う間に頭上に青く丸い地球が見えた。


「うわあっすごいっ! 地球が青いクッキーみたい!」


 月子も付いてきた。家で待ってるように言ったのだけど、「連れてかないと秘密のドアのことバラすよ、いいのかなっ?」とか言いやがって。


「なあ、上に上昇したのに、何で地球が頭上に見えるんだ?」

「宇宙に上下なんてありませんよ。途中で宇宙船が回転したのでしょう……」


 そんな話をしている間に、地球が点のように小さくなっていく。


「ところでさっきの話の続きだけど、宇宙では暗殺って日常茶飯事なのか?」

「いいえ、人を殺めるなんて、そんな野蛮なこと誰もしませんよ。ってか、そんな発想自体浮かびません。あいつらだけです、帝国コンツェルン……」


 彼女が命を狙われる理由、それは彼女がアルタイルの王子・イグールに想いを寄せられているからなのだという。資源豊富で巨万の富を持つ王政の星、アルタイル。その星の全権を握る王家と縁を持つことは即ち巨万の富を得ることを意味する。だから数多あまたある星の姫君や名家の令嬢たちはこぞって彼を狙っている。そしてその有力候補には帝国コンツェルン社の社長令嬢・カエラ嬢もいた。しかしイグール王子の視線はナナ一本。その気がないナナが何度も断っても付きまとってくると言う。


「だからカエラの父親、帝国コンツェルンの首領ドン・ダークは会社組織を使いナナを亡き者にしようとしているの。狂った発想としか思えませんわ」


 自分のことには口が重いナナに代わってオリエが全て教えてくれた。


「なあオリエ、宇宙では暗殺は野蛮なことらしいが、誘拐はいいのか?」


 正直な疑問を、僕を誘拐しようとしたオリエに投げてみる。


「あっ、あれはちょっと話を聞こうと思っただけよ。犯罪じゃないわ!」

「あれが犯罪じゃなかったら、何が犯罪なんだ!」

「地球からの密輸出、とか?」

「それもやろうとしてるじゃねえかっ!」


 この宇宙船には彼女が買い漁ったコミックスやDVDが山と積まれていた。しかもBL物もあれば激しいレディコミもある。色んな意味でヤバそうだ。これ、もしかして僕も共犯なのか?


「だけど殺人は取り返しがつかない犯罪よね。宇宙では絶対有り得ない犯罪なのよ……」


 綺麗な天の川が輝く窓の外を見つめながらナナが言葉を続ける。


「だからもし帝国社がわたしを殺ったと世に知れたら、不買運動で会社は倒産、彼の地位も名誉も地獄の底まで落ちるでしょうね」

「だったら、なぜ彼らはそんな危険な事をするんだ?」

「だからヤツらは事故を装ってナナを狙うのよ。特に地球では事故が多いし宇宙連合警察の管轄外かんかつがいだから事件は闇の中、って訳よ」


 なるほど。

 だからナナはトラックで狙われたんだ……


「なあ、だったらナナは地球にいちゃいけないんじゃないか? 危ないんだろ?」

「陽太さん、それじゃまるでわたしが逃げるみたいじゃないですか? 何も悪いことしてないのに、そんな脅しに屈するなんてナナはイヤです!」


 運転席から僕を振り返ったナナの大きな瞳には強い意志が浮かんでいた。


「分かったよ。これからきちんと決着を付けよう」


 僕はバーナーナで彼女のフィアンセとして振る舞うことを約束した。そうしてイグール王子に彼女を諦めて貰うって寸法だ。ナナは「振る舞うんじゃなくってふたりは既に夫婦です」とか言い張るかと思ったが、その辺は物分かりがいいらしい。


「分かってますよ、わたしたちはまだ婚約者じゃないって仰るんですよね。わたし、いつか陽太さんが地球のルールでプロポーズしてくださるのを待ってます。だけど、他の女の人に浮気はダメですからねっ!」


 いや、恋愛の自由を奪われている時点で物分かりがいいとは言わないか。




 ピンポンパンポ~ン

 皆さま、長らくのご乗車お疲れさまでした。

 当機は間もなく目的地バーナーナ星第一惑星『バーナーナ』に到着します。




 突然目の前にスクリーンが現れバナナ農園らしき風景が映し出される。

 ってか、全然疲れてねえよ! 飛び立ってまだ5分も経ってないだろ!

 などとひとり突っ込んでいると映像替わってスクリーンの中でにこり微笑む金髪の美少女……




 これより緑と安らぎの星・バーナーナの観光案内をさせていただきます。

 直径約11000Kmのバーナーナは陸地の90%に手付かずの自然が残る緑の星。カンゲルーやポアラ、ウォンラットなどの可愛い動物たちとも生に触れ合える安らぎの星です。自然の恵み豊かなバーナーナには美味しい食べ物もいっぱい。特に有名なのは甘いバナナ。最高級の名を欲しいままにするバーナーナブランドのバナナですが、この星で食べる取れたてはひと味違います…………




「って、ナナお前、どうしていちいちスクリーン使って案内してるんだよ?」

「あっ、これ、わたしのお仕事なんです。バーナーナに到着する宇宙船は必ず到着3分前にこの映像を流すようバーナーナ政府観光局が指示してるんですよ」

「お仕事って、お前一応は皇女おうじょさまなんだろ?」

「一応って失礼ですねっ。ちゃんとした皇女ですよ。バーナーナの皇族は他の星との社交や星の宣伝、星民の皆さんとの交流など星の役に立てることなら何でもするんです。これもその一環なんです!」

「へえ~っ。案外大変なんだな」

「そんなことはありませんよ。わたしたちは星のためと思ったことは自分たちで決めて行動するんです。だから大変だなんて思ったことはありません」

「ねえねえ、ナナねえって有名人なの?」


 月子が目を輝かせ身を乗り出している。


「有名って、まあ星の皆さんにはそれなりに……」

「アイドル? ねえ、テレビに出てるからアイドル?」

「いやあ、アイドルとは違うかなあ。もっと地味な役回りよ……」

「そうよ月子ちゃん。ナナは単なるバーナーナの人寄せパンダよ。皇室主催イベントの司会とかバーナーナ観光局のチラシ配りとか。その点私はベガじゃ有名モデルで通ってるのよ!」


 オリエが月子を振り返って踏ん反り返る。


「そうなんだ。オリエねえって有名人なんだ!」

「そうよ、こう見えてもベガじゃわたしのことを知らない人は……」


 ガチャッ!


 窓が大きく開く。

 どうやら到着したらしい。


「さあどうぞこちらへ。折角だからお城まで歩いて行きましょう」


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