第3章 第7話
オタクのパラダイス、大阪日本橋のメインストリートに突如出現した即席の露店。
宇宙に名を馳せる巨大企業、帝国コンツェルン社幹部のポーターはド派手なコスプレ衣裳を着せられて、山と積まれたコミックやDVDの前に立っていた。
「お兄ちゃん、おじさんにはこの服着せちゃおうよ。ピンクの魔法少女だよ。月子の好きなアニメのヤツ。ウィッグもキラキラな魔法の杖もあるから本格的だよっ!」
時間が止まっている間、彼らが買い集めたコスプレ衣裳を喜々としてポーターに着せていた月子。やることも、そのファッションセンスも、可愛い我が妹ながら実に恐ろし子だ。
「ひらひらのミニスカート穿かせて、っと。きゃはっ。おじさんキモカワッ!」
おっさんがこんなピンクの魔法少女の格好じゃ逃げるに逃げられないだろう。
女ってホントに残酷だ、少しだけポーターに同情する。
そんな彼は今、オリエとナナに挟まれて、青ざめた顔で売り子に精を出す。
「お買い得だよ、最新コミックにレアものDVD、コスプレグッズもいっぱいあるよ。さあ早い者勝ちだよ……」
「声が小さいわっ! このムチで叩かれたいの? それともナナの怪力でその手を捻ってもらいましょうか?」
彼の右隣にはヘソ出しルックにムチを持ったオリエが立って、そして左隣では白と黒のスタンダードなメイド服を着たナナが呼び込みに精を出す。
「はいっ、こちらはどれでも1000円ですっ。今なら甘いバナナも進呈しますっ!」
ナナは楽しそうに客寄せパンダに精を出す。彼女の可憐な笑顔で商品は飛ぶように売れていく。
「はいっ、ふたつで2000円ですっ!」
僕の横でお金を受け取るネコ耳の月子はセーラー服にブルマという、突っ込みどころ満載のコスプレで、かく言う僕はバスケのユニフォームを着て、次から次へと売りさばく。
かくして。
山と積まれた商品をあっと言う間に叩き売った僕たちは、ホクホク顔で店じまいをする。
「あの~皆さん、その売上金は…… 元々は我々が買った商品の売り上げで……」
「何言ってるの、全部没収よ没収! ほら、背広とカバンは返してあげるからさっさとお家へお帰りなさい! 可愛い奥さんと子供が待ってるわよ!」
「子供は可愛いけど、奥さんは…… とほほ……」
オリエに突き放され、魔法少女の格好のまま、涙ながらにトボトボと去っていくポーター。
仲間の赤マントたちは、円盤に放り込んで4光年先にあるプロキシマに返送済みだ。彼は一体どうやって星に帰るのか知らないけれど、まあ何とかするだろう。
「あっ、陽太、ちょっといいかな?」
ポーターの姿が見えなくなるとオリエは僕を呼び寄せて。
「さっきは、その…… 私を助けてくれてありがとう。疲れたでしょ? これ、そこで買ったたこ焼きだけど、よかったら、その…… 食べて!」
彼女の手には一船の湯気を上げるたこ焼き。オリエって案外気が利くじゃん。ポーターの一件ですっごく腹も減ってるし。ここはありがたく頂戴しちゃおう!
「オリエ、サンキューな! 月子も食べるか?」
つまようじを持って、ミョウガを乗せて、っと……
「だめっ! 食べちゃだめっ! 陽太さん、食べちゃだめ~っ!」
「ん? ぱくっ! んぐんぐ……」
「あっ、ああ~っ……」
「んぐんぐ…… って、どうしたナナ? ナナも食べるか? 熱々で美味しいぞ」
「そうじゃなくって、って…… ああ……」
僕がたこ焼きを差し出すと、ナナが膝をつき崩れ落ちる。
「ナナどうした?」
「どうしたもこうしたも…… 陽太さん、ひどいです……」
涙ぐむナナ、そんな彼女を横目で一瞥したオリエは僕に向かって微笑んで。
「よかったわ! わたしの愛、受け止めてくれて嬉しいわっ! ねえ陽太、結婚式はどこでする? ホテル? 教会? エッフェル塔?」
「オリエ何言ってんだ? 結婚式って、って……」
これって。
この流れってナナの時と一緒?
オリエを連れ去ろうとしたポーター達から彼女を助けて、そのお礼にたこ焼きを貰って、それを食べて……
「しっ、しまったあ~っ!」
「今のは無効です、ノーカンです、三回降雨ノーゲームですっ! 陽太さんはそんなつもりじゃなかったんですっ!」
「そんな理屈は通用しないわ。このしきたりは宇宙の標準作法。今この瞬間、陽太は私のものになったのよ!」
「違いますっ! 陽太さんはわたしと永遠の愛を誓い合ったんです! とっくに先約があるのです、二人目以降は無効です、失格です、ドーピングで永久追放ですっ!」
「お兄ちゃん凄いね、右腕にナナねえ、左腕にオリエねえなんだ! お兄ちゃんが売れ残ったら月子が結婚してあげようかなって思ってたけど、その必要はなさそうだねっ、きゃはっ!」
「おいっ、月子まで抱きつくなっ! 周囲の視線が痛いだろ! こんなところでやめろって!」
土曜日の大阪、日本橋メインストリート。
雑踏賑わう往来のド真ん中で抱き合いじゃれ合う4人のコスプレ少年少女たち。
そのあまりの痛々しさに人々は遠巻きに白い眼差しを向けながら、ただ通り過ぎていくだけだった。
第三章 完
【あとがき】
どうも愛読ありがとうね。ベガの第三王女、オリエよ。
って、私のお腹をジロジロ見ないでよ!
どんなに洗っても擦っても落ちないのよこのバナナの絵!
どんな絵の具使ったのよ、もうっ!
……
コホン。
さて、第三章はいかがだったかしら?
とんでもないチート能力を持っている陽太、しかし彼は欲がないというか平和主義者というか単なるお馬鹿と言うか、ともかく積極的にその能力を使わないのよね。自分の凄さに気が付いていないのかしら。
まあ、私はそう言う陽太が好きなんだけど。
それから正義感が強くてお転婆な月子ちゃん。
まだ小学生だけど、あと5年もしたらモテまくるんじゃないかしら。すっごく可愛いと思うわ。こんな絵さえ描かなかったら……
ところで、この話を読むとまるで私だけが凄いオタクのように見えるんだけど、ホントは陽太だって充分オタクなんだからねっ。お金がないから何も買わなかったようだけど、コミックやアニメを徹底的にリサーチしてたから間違いないわ、エロゲも。
けどまあ、高校生の小遣いじゃそう簡単にDVDボックスは買えないわよね。色々特典とかも付いてるのにね。だから私が帰って見せてあげようと思うのよ、エロゲも。
と言うわけで、次章はそんなワンシーンから始まる予定よ。
楽しみに待つといいわ。
えっと、何? これ読め?
横暴な作者ね、はいはい。
えっと、次章予告です。
アニメを一緒に見ようと陽太を部屋に招待するナナ。
手造りのデザートも振る舞っていい感じだったのに、とんでもない情報が舞い込んで……
意を決した一同はナナの故郷・バーナードへ飛び立つのだった!
次章「星の皇女と白馬に乗ったバカ王子(仮)」もお楽しみに。
お相手はあなたの妄想の恋人、琴乃織絵こと、オリエ・フランシスでした。
……って、おい作者! ナナばかり目立たせるな。
私こそがメインヒロインなのよ!
ベガへ向かう話も作りなさいよ!




