第3章 第6話
「オリエねえちゃ~ん!」
全力で駆け寄る月子。
「おねえちゃんが…… オリエねえちゃんがぶたれたあっ!」
僕もふたりの元に急ぐと月子の頭をゆっくりと撫でる。
「大丈夫か、月子!」
「あたいは大丈夫、だけどオリエねえちゃんがっ!」
オリエの顔を見る。
歯噛みしているその美貌は頬のところが少し赤かったけど。
「大丈夫だよ月子、お姉ちゃんは強いからきっとへっちゃらだよ。それより早くみんなを助けよう。月子はこの赤マント野郎をその巨大な円盤に放り込んでくれるか?」
「うん、分かった」
月子と僕、二人の声しか聞こえない静まりかえった世界。
さっきまで賑やかだったこの通りは今、巨大な円盤と二十人ほどの赤マントたち、そして三人の宇宙人が静止しているだけだ。
僕はナナの元に駆け寄ると真っ先に口を封じているテープを外す。そうして彼女の自由を奪っている太い鎖を外していった。グルグルと何重にも巻かれたその鎖は外すだけでも一苦労だ。
「お兄ちゃん、あたいも手伝うよ」
「あ、ありがとう月子」
「お兄ちゃんの顔、真っ赤だよ」
「そ、そっか……」
「止まっててもナナねえ凄く綺麗だもんね。このままキスしちゃったら?」
「ば、ばかっ! そんなことっ! お兄ちゃんをからかうなっ!」
「そうだね。お兄ちゃんってば真面目だもんね…… あれっ、ナナねえの顔も赤くなった。おかしいな、気のせいかな?」
「ぼ、僕は残った赤マントを円盤に乗せるから、あと頼んだぞ」
「分かったよ。もう照れちゃって!」
そうして。
時間が止まった大阪・日本橋のメインストリートにはナナとオリエと月子と僕と、そしてポーターが残った。赤マント達はみんな巨大な円盤に放り込み、自動帰還も亜次元空間の解除も設定を済ませている。
「ねえこの悪いやつ、どうしちゃおっか?」
ポーターの前で何やら準備運動を始める月子。
「なあ月子、彼だって帝国コンツェルン社のしがないサラリーマン。家に帰ったら奥さんも子供も待っているらしいし、乱暴はやめておこう」
「うんそうだね。月子分かってるよ。ナナねえが言ってた、バーナーナの人はみんな力が強いけど喧嘩は絶対しないって。だから月子も暴力しない」
「ふうん……」
今日、凄絶な急所蹴り決めてたの誰だっけ。
「ところでさお兄ちゃん、このおじさんが持ってるたくさんのマンガとかDVDとか、どうするの?」
「あ、そうだな。これ、持ち帰らないように処分しないと……」
そうだ、いいこと思いついた!
こいつには、自分の行動に最後まで責任を持って貰おう。
「わあっ! 見てお兄ちゃん! このおじさん、かわいい衣裳もいっぱい買ってるよ!」
彼が買い集めた大量のグッズを勝手に開け広げる月子。
「これ、着てみていいかなっ?」
「ああいいよ。こんな衣裳、滅多に着れないからな」
「わあいっ!」
と、言うわけで。
「月子、円盤の中から折り畳みテーブル持って来たぞ」
「よ~し、準備開始だねっ!」
僕らはポーターが買い集めた本やらDVDやらコスプレ衣装やらイタグッズやらを、折り畳みのテーブルの上に並べていった。