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才色兼備のナナ姫は、恋の作法がわからない!  作者: 日々一陽
第3章 オタクロード一直線
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第3章 第5話

「ナナっ! おいお前ら、ナナに何をするっ!」


 叫ぶ僕にも赤マント野郎が銃口を向ける。


「この女は危険なんでね。バーナード第二皇女のナナ・カテリーナ。バーナード人は怪力な上に、この女は宇宙でも指折りの体操選手、身軽にヒラヒラと宙を舞ったりんだりねたり、我ら帝国コンツェルンの刺客達から何度も何度も逃げ遂せた厄介者だ。一歩間違うとこっちがやられる……」


「陽太さん、わたしには構わないでっ! ここから逃げてっ!」

「うるさい女だ! テープで口も封じておけっ!」

「やめろっ! ナナを捕まえてどうするつもりだ! 何が目的だ!」

目的ターゲットはナナ姫ではない、そっちの女だ。俺の名は帝国コンツェルン社密輸みつゆ事業部のポーター、我々の用件はそっちの女の荷物の中だ」


 ポーターと名乗る男はオリエの前にゆっくり歩み寄ると彼女が両手に持った袋に手を伸ばす。


「さっきの限定DVD付き特装版コミックを渡して貰おう。黙って渡せば君たち地球人に手荒なことはしない」


 どうやらこの密輸事業部のポーターという、安直な名前の持ち主はオリエを地球人だと思っているらしい。彼は余裕の笑みを浮かべたままオリエの持つ紙袋に手を掛ける。


 と。



 ばしっ!



「私を誰だと思っているっ! 気安く触るなっ!」


 オリエは彼の手を蹴り上げていた。


「ふっ、やってくれますね。俺は綺麗な女性といえど容赦ない男でね……」


 ポーターが大きく手を振り上げて。


「やめろっ!」


 こうなったら銃口が向いてようとも関係ない。僕はオリエの元へ駆け出そうと…… って、放せよ、おい赤マント野郎! 5人がかりとは卑怯だぞ!


「お兄ちゃん!」

「来るな月子っ!」


 羽交はがい締めにされた僕の言葉を無視して、月子が駆けてくる。そんな彼女の前に立ちはだかる赤マント。


 しかし。


「えいっ!」

「ぎゃあ~っ!」


 子供だと思って油断したのだろう、月子の急所蹴りが見事に決まる。月子は空手道場に通ってるからメチャ痛そう……


 だが、しかし。


「やだあっ! 放してっ!!」


 駆け寄った他の赤マントに背後から捕まった月子はお転婆てんばだけど所詮しょせんは小学四年生、屈強な男達に敵うはずもない。

 それでもジタバタ暴れまくる小学生。


「放せっ、ちかん~っ! ヘンタイ! ロリコンッ!」


 赤マントが一瞬ひるむ。

 やっぱり宇宙でもロリコンは絶対的にタブーなのだろうか。


「やあっ!」


 その隙に赤マントのアゴに頭突きを決めた月子は彼から飛び退く。

 しかし、怒った赤マントは握りしめたこぶしを月子に振り上げ、って危ないっ!



 ピシッ!!



「いでえ~っ!」

「お姉ちゃん!」


 赤マントの拳をムチで振り払ったのはオリエ。彼女はいつの間にやらアバンギャルドなヘソ出しルックに変身し、片手でムチをぶんぶん振り回していた。

 だが。


「まったくもう、危ないですねっ! しかし、お遊びはここまでですよっ!」


 ポーターが痛そうに腕をさすりながら銃を構え歩いてくる。

 オリエと月子の周りには駆け寄ってきた赤マント達が取り囲んで。


 もはや万事休すか……


「驚いたなあ。地球人だとばっかり思っていたら、その奇抜な格好はベガジェンヌじゃないですか。そうと分かれば貴女あなたのお買い物は全部我々が没収しましょう!」


 オリエが買った大きな紙袋は、既にポーターの横に立つ赤マントが抱えている。


「クークックック! しかし、何ですかそのお腹のバナナの絵。新しいファッション? ベガも落ちましたね、あ~あ恥ずかし」



 ぎゃ~っはっはっはっは!



 オリエのお腹を見て赤マント達が一斉に指を指して笑い始めた。

 顔を真っ赤にして耐えるオリエ。


「おいお前ら。そのコミックスやDVDをどうするつもりだ。地球は宇宙貿易連合に未加盟のはず。持ち帰ることは許されないだろ!」

「おやっ、君は地球人の分際でよく知ってますね。でもね、個人で楽しむ分には持ち帰ってもいいんですよ。但し、我が母星・プロキシマで版権はんけん無視して大量コピーして売って売って売りまくってガッポガッポと儲けさせて貰いますけどね」

「地球の著作権なめんな! 宇宙裁判所に訴えてやるからな!」


 羽交い締めにされたままの僕の叫びに、しかし彼は全く動じない。


「やれるもんならやってみなさい。まあ、ヤったこともない童貞が何を言っても経験者には敵いませんけどね」

「お兄ちゃんを童貞って言うなっ! ベッドの下には大人の絵本をいっぱい隠してるんだぞっ!」

「月子、それを言うなっ!」


「クックック、エロ本ごときで動じるのが童貞の童貞たる何よりの証拠。裁判所は童貞の提訴なんか受け付けませんよ」

「そんな道理があるかっ!」

「ふんっ!」


 鼻先で笑ったポーターは自慢げに胸を張る。


「ちなみに俺には可愛い子供がふたりいる。だから童貞ではない。断じて違う!」

「そ、それがどうしたっ!」

「しかし、上の子は日数計算が合わないんだ! 本当に俺の子だろうかっ?」

「こんな時にややこしい家庭の事情を語るなっ!」


 勝手にポーターが落ち込んでいた。


 しかし、現実に目を向けると。

 ナナは鎖でグルグル巻きにされている。

 オリエも月子も銃を持った男たちに包囲されて。

 そして僕も二メートル近くある赤マントの大男に羽交い締めにされている。

 情勢は完全に僕らの敗北……


「じゃあ、この本やDVDは戴いていきますよ。そこのおふたり、バーナード星人とベガ星人も厄介ですから一緒に来て貰いましょうか」


 気を取り直したポーターの声に、屈強な赤マントがオリエからムチを奪い取る。

 悔しそうに歯噛はがみするオリエ。

 月子はそんな赤マントを反抗的な目でめつける。


「べ~っだ!」

「このガキ!」

「子供に手を出したら許さないよっ!」

「うるさいっ!」



 ばしっ!



 赤マントにほおを弾かれ、よろめくオリエ。


「オリエねえちゃ~ん!」


 絶叫する月子。

 僕も大男から逃れようと必死にもがくが、ピクリとも動けない……


 って、そう言えば……


「じゃあ、この貴重なグッズと女たちはいただいていきますね。無力で哀れな地球の兄妹きょうだいよ、悪く思わないでくださいね。それから今日の事は誰にも話さない方がいいですよ。言っても誰も信じませんし、あなたの頭が疑われるだけですからね。それじゃ、バイビー!」


 余裕の表情でそう言うポーター。

 屈強な赤マントたちがナナとオリエの連行を始める。


「おいっ! ナナとオリエから手を離せっ! さもないと後悔させてやるからなっ!」

「ふふっ。出来るもんならやってみな。わ~っはっはっはっはっは…………」


「…… じゃあ遠慮なく」


 僕はナナの元に駆け寄る自分の姿を妄想しながら強く念じる。


 と。


 …………

 ポーターの高笑いが止まる。

 空間はしんと静まりかえって時間が停止したことを告げていた。


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