第3章 第2話
父はまたシリウスへと旅立つらしい。
家に帰ると母と一緒に荷造りの真っ最中だった。
「陽太は時間を操る能力に目覚めたようだな」
「あ、うん。でもこれは体の自由を奪われると使えないんだ」
「そうか? 自分が動く姿を妄想してもダメなのか?」
「えっ、妄想するだけでいいの?」
「おそらく、な」
その情報もっと早く欲しかったよ。
そう言えばあの時、オリエは「伝説に現れる時間を操る守護神」と言った。その伝説とやらはどんな話なのだろう……
やがて父はスーツの上着を羽織ると笑顔を見せる。
「陽太、月子、じゃあ元気でな」
「はあい! ねえお父さん、次はいつ帰ってくる?」
「月子がいい子にしてれば近いうちに、な」
「約束だよっ! 指切りだよっ!」
「今度は今評判の「青いシリウスかすてーら」も買ってくるからな」
「わあいっ、楽しみっ!」
「「シリウスばなな」とか「青い恋人」とか「青福餅」もあるぞ?」
「う~ん、カステラがいい」
月子は父によく懐いていた。
一緒に街を飛んで空中散歩したのがとても楽しかったらしい。
頭に短い角があることと背中に青い羽が生えて空を飛ぶことさえ除けば、父は普通の日本人と変わらない。優しいし頼もしいし日本語だって完璧だ。まあ男にしては小柄だが。宇宙人ってこんなもんなんだ……
「あなた、お気をつけてね! ちゃんと連絡とか頂戴よ!」
母さんは父さんの服にブラシを掛けたり、手作りのクッキーをカバンに詰めたりと甲斐甲斐しい。
「もちろんだよ! 愛してるよ、明日香」
「あっ!」
「えっ!」
キスした。
子供たちの前で臆面なく堂々と。
今度ふたりのなり染めとか聞いてみよう。
やがて、家族みんなで父を送り出すと居間に戻りお茶をすする。
「ねえ母さん、明日出掛けていいかな。学校で友達と約束したんだ」
「いいわよ。どこへでもどうぞ」
父がいなくなって母さんは放心状態だ。
「ねえお兄ちゃん、どこへ行くの?」
「月子も付いてくるか? 実は……」




