第3章 第1話
第三章 オタクロード一直線
晴天の昼休み、校舎の屋上にはバナナの香りが漂う。
僕とナナ、そしてオリエはみんなで昼食を食べていた。
「陽太さん、この酢豚も食べてみてくださいっ!」
「うん…… それっぽい味はするけど、この不気味な、どろっとしたのは?」
「はい、パイナップルの代わりに入れてみたバナナですけど……」
「……」
「あの、こっちはどうですか? バナナを餃子の皮でくるんで揚げてみたんです!」
「…………」
「やっぱり、ダメですか?」
「いや、バナナ餃子はもう一工夫すれば何とかなるかも」
「ありがとうございますっ! 今度もう一度やってみますっ!」
ナナはバナナの新メニューを考えるためだとか言って、今後僕の弁当は自分が作ると言い出した。勿論僕は全力で遠慮したんだけど能転気な母さんがあっさり了承してしまった。ま、僕の弁当は母さんが作っていたから文句は言えないんだけど、食べるほうの身にもなって欲しい。
「ねえナナ、もう一本バナナちょうだいよ」
ちなみにオリエは星に帰るつもりだったので弁当など持ってない。
だから昼食はナナが作った謎のバナナ料理か生のバナナばかりだ。
「はいどうぞ、何本でもあるからねっ」
朝、あんな目に遭ったばかりなのにナナもホントにお人好しだ。
「やっぱりバナナは生が一番よ」
これで7本目、オリエは図々しくもよく食べる。
「ところでオリエ、この後どうするんだ? もう僕を誘拐するのは諦めたんだろ」
「諦めたんじゃないわ。こんな姿じゃ星に帰れないだけよっ!」
彼女は制服をめくり、よく引き締まったウエストを顕わにする。
「ぷぷっ!」
「また笑ったわねっ、私の自慢のウエストに、こんな御立派なバナナを描いてっ!」
「だけど、普通に服を着てればいいんじゃないか?」
「あのね、今ベガは夏なの。お腹を隠すなんてダサイ格好出来ないわよっ」
「へえ~、そうなんだ」
星によってファッションに違いがあるのは仕方ない。
彼女は7本目を食べ終えると8本目を手に取って。
「だけどまあ、みんなを無傷で帰してくれたこと、そこは感謝しているわ……」
ちらり僕を見た彼女の頬がちょっと赤い?
「ダメよオリエ! 陽太さんはナナのダーリンなんですからねっ!」
「何を言っているのかしら。ふたりはまだ入籍してないんでしょ。だったら私が先に……」
「待てよ、日本人の男は十八才まで結婚出来ないんだ」
「「陽太はシリウス星人とのハーフでしょう!」」
ダブルで突っ込まれた。
「はあ~っ!」
溜息ひとつ。
見た目は美人だけど彼女たちは得体の知れない宇宙人、実は密かに触手とかがあるかもだ。しかし僕もその仲間だと思うと気が滅入る。
「ところで陽太、実は頼みがあるのだけど……」
「頼み?」
「そうよ。授業中一生懸命に考えて、ベガの窮地を救う方法を見つけたの」
「お前、授業聞いてないだろ」
「寝てないだけありがたく思いなさい! で、分かるかしら、その方法」
「そうだな…… ベガってファッションの星だよな、地球の最新トレンドを持ち帰るとか?」
「まさか。こんなダサイ星のファッションなんて犬も喰わないわ」
微妙に傷つく。
「ねえねえ、どんな方法なの?」
「ナナなら分かるでしょ、日本の突出した名産品」
「あ、ああ、なるほどね。帝国コンツェルン社も手を出しているアレね」
「なあ、僕だけ仲間外れにしないでよ」
「分かってるわよ、陽太には色々協力して貰わないといけないから」
そう言うと、8本目のバナナもぺろりと平らげて。
「アニメやゲームよ。我が星のニートたちを魅了し虜にしている日本製のアニメやゲーム、それらを密かに運び込んで……」
「なあ、王女ともあろうお方が密輸とかしていいのか?」
「………… 誰も密輸とは言ってないわ。アニメやゲームを正々堂々持ち込むのよ」
「地球って宇宙貿易連合に未加盟の星なんだよな。貿易禁止されてるんだよな。そんなこと出来るのか?」
「…………」
黙り込んだ。
そして暫しの沈黙の後。
「そうだわ。個人が楽しむ程度の持ち込みは許されるから、面白そうなのを一冊ずつベガに持ち込んで、大量にコピーするってのはどうかしら!」
「著作権はどうなる!」
「だって地球は宇宙貿易連合に入ってないから、著作権侵害を訴えることは出来ないはずよっ。お~ほっほっほっ!」
完璧な方法だとばかりにはち切れんばかりの胸を張るオリエ。
「じゃあ僕が訴える。シリウス星人でもあるし」
「ぐっ……」
また黙り込んだ。
「ねえ陽太さん、何かいい方法ないかしら?」
心配げに話を聞いていたナナもそんなことを言う。
「宇宙のことなんか何も知らない僕に聞かれてもな……」
「陽太っ、そこを何とかっ!」
「う~ん……」
こいつは僕を誘拐しようとした悪いヤツのクセにホントに図々しい。
しかし、彼女の星の窮状も分からなくもない。
でもなあ……
あ。
「なあ、ベガってファッション産業が盛んなんだよな」
「そうよっ、芸術の星とも呼ばれているわ」
「じゃあ、自分の星で一から作ったらどうだ、アニメとかゲームとか。デザイナーはいるんだろ?」
「ああ、それは私も考えたわ。でもね、私たちベガ人は日本人クリエーターみたいなぶっ飛んだ発想は出来ないのよね」
「いや、充分ぶっ飛んでるよ、お前の言動」
「失礼ね!」
彼女はバナナを咥えたまま暫く考え込んで。
「じゃあ、私が勉強して、伝道師になっても、いいのかな……」
「うん、やれば出来るんじゃないか? リンゴを素手で握りつぶしてジュースを作るナナだって、地球の料理を勉強するって頑張ってるんだし、な」
「ひどいです陽太さん! わたし今、すっごく傷つきました。ぐすん……」




