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奴隷の少女、貰いました  作者: ともひ
8/21

料理

 あの日以来、カトリは私の部屋で眠るようになった。

 彼女は毎晩私の部屋に来て、頬を赤らめながら眠るまで手をつないで欲しいと懇願してくる。

 トラウマを抱える彼女にとって安心して眠れるかどうかは死活問題であるし、普段ほとんどわがままを言わない彼女の頼みだ。無下にすることは出来ない。

 しかし正直に言って私としては、その、困っている。

 自分のベットに年頃の女の子が毎晩眠りに来るのだ、困らないやつがいるか。

 仕方なく彼女が寝息を立て始めたのを見計らって、私はリビングのソファーに移動し眠っているがやはりベットで眠るよりも体の疲れは取れにくい。

 だったら彼女の部屋で同じように眠るまで手を握ってやればいいと思ったが、何故かそれは拒否されてしまった。

 カトリの考えている事がわからない。私が困って頬を掻いていると、彼女はとんでもない爆弾を落としていった。



「あの、でしたら先生も一緒にベットで眠りませんか……?」



 いやいやそれはまずい。何がまずいって色々とまずい。

 いくら彼女がまだ少女であると言っても私たちは男女であり、と言うかまだ少女であるので余計にまずいと言うか。

 何を言っているんだ私は、なんだか混乱してきた。それくらいまずい。

 ともかく私はしどろもどろになりながら、なんとかやんわりそれを拒否すると彼女は落胆した様子で俯いてしまった。

 それを見た私は仕方がないと思いながら答えた。



「じゃあ隣合って眠れるように君の部屋のベットを私の部屋に繋ごう。それで許してくれないか?」



 そう言うと彼女はぱぁっと顔を上げ、嬉しそうにしながらはいと答えた。

 その顔を見てまぁいいかと思ってしまう自分がいることに気が付き、女の子ってずるいなと少し思った。











「…………?」



 早朝、何やらこげ臭い匂いで目が覚める。

 火事か!? 思わず飛び起きて隣で寝ているはずのカトリを確認すると、彼女のベットはもぬけの空であり、匂いはリビングの辺りから漂って来ていることに気が付いた。



「――――?」



 リビングに火種になるようなものは無かったはずだし、この焦げ臭さは木や紙が燃える匂いと言うより、何かの食材を焦がしたときの匂いに似ている。

 まさか……と思いながらリビングまで移動すると、そこにあるキッチンでフライパンを前に固まっているカトリを発見した。



「カトリ……?」



 私が恐る恐る声を掛けると、振り向いた彼女は既に泣きそうな顔になっていた。



「せ、先生……」



 彼女の前にあるフライパンの中身を見てみると、これは目玉焼きだった何かだろうか……真っ黒焦げになっている物体を発見した。



「……」

「……」



 私は何も言うことが出来ず、ただ俯いてしまったカトリの頭を見つめてしまった。









「カトリ、何故料理をしようと思ったんだ?」



 私たちはとりあえず目の前の食材だったものを先に片付け、リビングのテーブルの席についた。 

 消化は何とか自力で行えたのだろう。既にコンロの火は消えており、とりあえず火事になる心配は無さそうだ。

 しかし火や包丁を使う作業を片腕の彼女が一人で行うのは危ないし、もしかしたら大事になっていた可能性もある。場合によっては叱る必要があるかもしれない。そう思い、私は少し強い口調で彼女に尋ねた。




「……」

「カトリ?」



 私が怒っていると思っているのだろうか、カトリは俯いたまま中々口を開こうとしない。

 仕方なく私ははぁと息を吐き、声を出した。



「大丈夫、怒ってないよ。ただ君が自分で何かをしようとしたのが初めてだったんで、ちょっと気になっただけだ」



 彼女が自発的に何かの行動をしたことはこれが初めてだ。それは尊重したい事柄であるし、頭ごなしに叱ることは出来ない。

 自分でも少し甘いかなと思いつつ言うと、彼女はやっと小さな声で話し出した。



「……私は先生にわがままばっかりで、私も先生のために何か出来ることがしたくて……」



 やっぱり女の子はずるいと思う。そんな事を言われたら何も言えなくなってしまう。

 そのまま口を閉じてしまった彼女を見て、私は席を立ち、彼女の頭に手を置きながら話しかける。



「私のために朝食を作ろうとしてくれたんだね。ありがとう、嬉しいよ。

 でも危ないから今度から一人で火を使う作業をするのは止めような」



 そのまま頭を撫でられていたカトリだったが、暫くして反省したように小さく、はい、ごめんなさいと答えた。

 その様子に満足した私はうんと頷いて口を開く。



「それじゃ今度から食事は一緒に作ろう。手伝ってくれるかい?」



 そう言うとやっと顔を上げた彼女は小さく微笑んで、よろしくお願いします先生と答えた。

 


 私は彼女に対して少し過保護になっているかもしれない。虐待されていた少女に対する同情心を自分の保護欲に置き換えて、勝手に満足しているのかもしれない。

 しかし、それでも彼女が少しでも喜んでくれるなら、それでもいいかと思ってしまっている自分がいた。



 余談だがカトリは恐ろしく料理下手だった……

 包丁を振り下ろして食材を切ろうとするし、火を使う料理は必ず焦がす。何よりリアルで砂糖と塩を間違える子を見たのは初めてだ。

 仕方がないのでまずは野菜を手で千切らせてサラダ作りの担当をさせてある。あんなに頭の出来がいい子なのにどうしてこうなった?












 今日もカトリと一緒に手を繋いで眠る。

 夜の闇で覆われた部屋の中、聞こえる音は隣の彼女の静かな寝息だけ。

 二人分のベットで占領された部屋のスペースは小さく、幽かなランプの灯に照らされた空間はまるで、ポッカリとここだけ世界に切り取られてしまったような感覚がした。

 私にはそれが少しむず痒かった。



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