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奴隷の少女、貰いました  作者: ともひ
3/21

昼食

「とりあえずリビングで待ってて。何か作るから」



 診療所と一体になっている自宅にカトリを案内しつつ、私は台所に向かった。



 この世界は「清潔」と言う概念すらない、現代に比べて文化レベルの低い世界ではあったが、さすが異世界と言うべきか、様々な種類の「魔石」と呼ばれる奇妙な石が存在しており、この石の存在が現代にも負けないくらいの生活レベルの向上を担っていた。

 とある魔石は冷たい空間で密封しておくと、長期的にその空間を冷たくし続ける性質を持っており、まるで冷蔵庫のように食品の鮮度を保つことができた。

 また同様に別の種類の魔石では発火点が極めて低く、また一度発火すると消火するまで燃え続ける石も存在し、コンロの役割を果たすことができた。

 他にも水に浸しておくと浄化作用のある魔石、消臭用の魔石など様々な生活の助けとなる魔石が存在した。



 この魔石のおかげで現代人である私でも、特に生活に困ることなく過ごすことが可能だった。



 冷蔵庫(この世界ではギャバと言うらしい)から食材を取り出し、コンロに火をつけ調理を行いながら先ほどの奴隷の少女のことを思い起こす。



(肩に届くほどの長さの黒髪で蒼眼の女の子。この世界では珍しい外見ではないが……年齢は13、14くらいか?体に残る傷が痛々しいな……

 肉体労働も性処理用にも使われたように見えないほどの細い子だ。彼女の傷と腕は……深く聞かないほうがいいな。奴隷の立場であの体では何があったのか想像できる。

 とりあえず患者だと思って医者としての立場で彼女に接しよう。お医者さんだしメンタルケアも出来なきゃな)



 カトリとどう接するべきか困っていた私は、そんなことを考えながら昼食を用意する。メニューはサラダとスープとナポリタンだ。








「お待たせ……ってあれ?」



 食事を持ってリビングに向かうとカトリの姿が見えない、確かにここに案内したはずだったのだが。

 とりあえず食事をテーブルの上に置き、探しにいこうと後ろを振り向いた瞬間、横目に彼女の姿が映った。



「……」



 カトリはリビングの隅の硬い床の上で正座をし、無表情のまま佇んでいてた。



「……えーっとその」



 私が何と言ったらいいかわからず言葉に窮していると、彼女が抑揚を感じさせない声で小さく口を開いた。



「……ご主人様からここで待っていろとのご命令でしたので。ご迷惑だったでしょうか」

「……うんそうだったね、こっちにきてそこの椅子に座って。食事を作ったから一緒に食べよう」



(これは前途多難かな……)



 彼女のメンタルをケアをするのは中々骨が折れそうだ。私はつらつらとそう思った。










「……あのご主人様…私はどうしたらいいのでしょうか……?」



 カトリを椅子に座らせて食事を出すと困惑した様子でそう言った。



「君の分の食事だよ。出来れば食べてくれるとうれしいな」

「……私はまだ仕事を行っておりません。それに食事は一日一回パンと水を頂ければ結構です。このような場所でご主人様と同じものを頂くわけにはいきません」



 警戒しているのかカトリは食事に手を付けようとしない。

 しかしそうは言っても彼女は見た目から判断して成長期に差し掛かる頃だろう、一日一回のパンと水で済ませるわけにはいかない。

 少し迷ったが私は強い口調でいいから食べなさいと命令した。



「……分かりました。頂きます」



 そう言っておずおずと食事に手を付け始めた彼女を見て、ほっと一息ついた私は、食事を開始しながら先ほどの言葉を思い起こした。



(一日一回のパンと水か…それが奴隷としての一般的な食事なのだろうか?

 それにカトリはまだ仕事をしていないと言ったが、自分の仕事を何だと認識しているのだろうか)



 私の奴隷についての知識は低い。ときおりあの闇商人の男が連れてくるのを見た程度で、それ以上詮索したことも無かったしする気もなかった。

 イメージとしてどういうものか想像はできるがそれが正しいかも分からない。

 しかし目の前の痛々しい傷跡を残す年端も行かない少女をどうこうする気も無かったし、なにより私は医者だ。

 自分の中の正義と倫理を信じて行動するしかないだろう。



「そういえば自己紹介がまだだったね。私は岡部誠治、職業は医者だ。

 私のことはそうだな…先生と呼んでほしい」



 食事を続けながらカトリに話しかける。正直ご主人様と呼ばれる趣味は無かったし、彼女を患者として見よう決めたのは私だ。

 彼女の今後の意識変革の助けになるかもしれないし私もこう呼ばれるほうが楽だ。



「……分かりました。今後は先生とお呼び致します」



 右腕のみで器用にフォークを扱い、サラダを食べていたカトリは、依然変わらない表情のままそう答えた。


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