第6話 「冒険者パーティ」
気がつけば遺跡の内部だった。
精霊王のいた空間から脱出した士道は、すぐに玄海と合流した。
疑問を投げかける玄海に、起きたことを端的に説明する。
からかわれるのが面倒なので、フィアによるキスの部分は省いた。
「……なるほど。信じ難いが、状況は確かに一致しておる」
「で、爺さんの方は何かありましたか?」
「この金塊を見ろ。十数本しかなかったが、おそらく高く売れるだろう」
玄海はザックの中にきらきらと輝く金塊を詰め込んでいた。
非常に重そうだが、背負う玄海は表情一つ変えない。
話し合いの末、魔道具はすべて士道が扱うことになった。
どうも玄海は自身の武術で戦うことに拘っているらしい。他の道具に頼りたくはないのだ。
そういうことならば、遠慮せずに士道は使わせてもらう。何せ今の士道には力が足りないのだから。
「こりゃ凄いですね。他の場所は?」
「完全に探索し尽くしたが、特に何もなかったぞ」
「……なるほど」
伝説級魔道具に金塊まで手に入れたのだ。成果としては上々である。
士道は辺りを見渡し、上階へと上がる階段を見つける。
ここにはもう用はない。
士道は発見した魔道具のことを話しながら、振り返ることなく階段を上っていった。
遺跡を脱出した士道は、すでに夜になっていることに驚く。
随分と長く探索していたことにようやく気づいたのだった。
夜気は冷えていて、肌寒さを感じて肩を抱く。士道の服がボロボロなことも原因だろう。
布が擦り切れ、素肌が晒された部分から凍てつくような風が入り込むのだ。
士道は思わず顔を歪める。
「寒い、さっさと拠点に戻りましょう。食料の蓄えはまだあったっけな……」
「うむ。今日ぐらいは問題なかろう。……しかし、確かに最近冷えてきたな」
他愛のない会話をしながら、二人は魔力で身体強化し、夜の森林を鋭く疾駆する。時に枝を蹴り、時に木にぶら下がりながら、なお速度を上げていく。
これも修行の一環だった。
士道は修行のついでに『風の靴』の性能を確かめることにした。魔力を魔道具に込め、吹き付ける風に乗って進む。
「ほう、それが『風の靴』か」
「これ、どういう理屈で動いてるんでしょうね。全くわからない」
「古代文明の遺産じゃったか? 高く売れるかもしれんな」
「売るのは勿体ないでしょう。どれも便利だし……切り札になり得る」
『風の靴』により風に乗るのは、歩くというよりサーフィンのような感覚だった。少し苦労したが、コツを掴めば後は簡単だった。
消費魔力を増やすことにより飛行することもできたが、魔力消費量が尋常ではないので一分も経たないうちに断念した。
だが、直後に名案が思いつく。
「――魔力炉、起動」
『魔力炉の腕輪』に魔力を込め、起動させた。腕輪に流し込まれた魔力は増幅されて再び身体に舞い戻る。
身体が濃密な魔力に包まれた。『精霊王の加護』による魔力量の底上げもあり、凄まじい密度となる。
その効果に驚きながら、『魔眼』によって木の配置を確認する。
夜の森は暗い。『魔眼』による夜目がなくては、木にぶつかるのが関の山である。
葉っぱによる緑のカーペットで星の光すら防がれているので、玄海にはほぼ見えていないはずだが、士道を越えるほどの速度で走っても、障害物に当たる気配はない。
やはり、経験の差か。
もしくは、その手の固有スキルでもあるのか。
そういえば士道は玄海の持つ固有スキルを知らない。
具体的に話してはいないが、士道の場合は戦闘で使っているので玄海もだいたいは理解している。
(まあ、使うほど追い詰められたことがないのかもしれんが……)
士道は適当に考えながらも、尋ねることはしない。
命の恩人である玄海に対して、節度をわきまえるべきだと考えたからだ。
転移者の切り札とも言える固有スキルの効果をペラペラと喋るなど、馬鹿のやることでしかない。
それが味方であっても、できるだけ話したくはないのが普通である。
「どうした?」
「……いや、何でもない」
「そうか。だが、考え事は後に回せ」
遠回しな玄海の言い方に眉をひそめるが、直後に士道はその違和感に気づいた。咄嗟に速度を緩める。
歩き慣れたこの森に、何者かが紛れ込んでいる感覚があった。
士道は、戦闘の気配がある魔力の残滓を捕捉した。
こんなに魔力を精密に感じ取った経験は初めてである。
これが『精霊王の加護』によって魔力感度が上がった効果なのだろうか。
この魔力の残滓は士道たちの拠点の方角にまで続いていた。
「……爺さん。おそらく拠点にいますよ」
「ふむ、足音を立てるなよ。まずは姿を確認する」
拠点の近くまで駆け抜けた二人は、そこからは魔力を意図的に消してゆっくりと歩き出す。
拠点から耳障りな笑い声が聴こえた。
(人間……?)
士道は草木の影に身を隠しながら、川辺にある拠点を覗く。
そこには士道たちを除き、この島には存在していないはずの人間がいた。
焚き火をしている者が6人。
男が4人に女が2人。剣、槍、杖と全員が武装している。頑丈そうな防具を身に纏っていた。
士道は傍に潜む玄海に視線で問うが、彼の判断はひとまず様子見だった。
士道は中央に座るリーダーと思しき男を『鑑定』する。
―――――――――――
ガウス・フォルスト:男:27歳
レベル:34
種族:人族
天職:剣士
スキル:
―――――――――――
話に聞き耳を立てていると、この冒険者パーティのリーダーはガウスであるようだ。
士道は彼らのステータスから情報を推察する。
(冒険者……かもな)
彼らの目的は何か。
彼らは何者か。
ここは災厄の島と呼称されている島だが、やはり探索だろうか。
そう仮定すると、やはり冒険者という可能性が高くなる。
伝説級魔道具や金塊などといった宝は、彼らには気の毒だがすでに確保しているが。
彼らが談笑を始めたので、士道は魔力を耳に収斂させ、聴力を強化してその会話を聞き取る。
「っにしてもここ、マジに何もねーな。ギルドが未開の孤島なんて言い出すんだからもっと財宝ザクザクかと思ったぜ」
「といっても、今さら古代の『遺産』なんてそう出てくるものでもない。しょうがないさ」
「あーあ。さっさと依頼の魔物の生息分布調査? だっけ? それ済ませて帰ろうぜ」
「帰るのも船で結構かかるしな」
「うわーマジに損した気分!!」
「ま、まあしょうがないよカイくん。今日は早く寝て、明日に備えよう?」
「……待て、お前ら、少し黙れ」
カイと呼ばれているお調子者が少々鬱陶しいが、話から推測すると、やはり冒険者であるように思われる。
その時。
隠れているはずの士道に鋭い視線が向けられた。
(気づかれた…………?)
それまで一度も会話に参加しなかったらガウスが、皆を黙らせて立ち上がる。
ガウスは背が高く肩幅が広い青年で、実直そうな顔つきをしている。
だが、今はその顔を険しそうに歪めていた。
カイと呼ばれた騒がしい男が疑問を投げかける。
「どうしたんだリーダー?」
「直ちに戦闘準備。その茂みに、何か潜んでるぞ」
ガウスは明確に士道の方向を睨む。
姿は見えるとはいえ、かなりの距離があったはずだ。
スキルもないのにどうやって勘付いたのか。
(くそ…………魔道具か)
ガウスの手には凡用の魔道具が握られていた。『鑑定』によると、人の体温を察知する機能を持つようだ。
舌打ちした士道と、少し後方に潜んでいた玄海は視線を交錯させる。
一瞬のアイコンタクトで互いの意思を確認し、ゆっくりと立ち上がった。
両手を上げて戦意がないことを示す。
玄海はいまだ潜んだままだ。彼の方はおそらくまだバレていないので、もしもの時の奇襲役として潜伏している。
士道の姿を見て警戒態勢に入った冒険者たちがそれぞれの武器を取った。
魔力で身体強化した彼らは迅速に士道を包囲する。
だが、士道は動揺しない。悠然とした様子で彼らを眺めていた。
そのことに眉をぴくりと動かし、ガウスが士道に問いかけた。
「……何者だ?」
「漂流者だ。少し前にここに流れ着いて、帰る手段もなく魚や果物を取って暮らしている」
「漂流者……ねぇ」
士道は流れるように嘘を吐く。
というより、別に嘘というほど嘘ではない。だいたいそんなものであった。
カイが訝しげに士道を見るが、ボロボロになっている衣服を見て、「うん、確かにそんな感じ」と納得したように頷いた。
士道はちらりと玄海の位置を確認しながら、ガウスに要求を告げた。
「人里なら何処でもいい。この島から帰るときに俺を連れて行ってくれないか? 多少は武術の心得があるし、魔物が住むこの島でも暮らせないことはないんだが……何しろ不便だ」
「…………」
ひとまず玄海の存在は告げなかった。無事受け入れられたら、警戒させないタイミングで出てきて貰おうと考えたのだ。
ガウスは少し悩んだようだが、厳格な表情を変えないまま、冷ややかに否定した。
「……悪いが、断る」
「……理由を聞いても?」
「こちらに利益がないし、信用できない。…………なぜ、さっきはそこに隠れていたのだ?」
ガウスは淡々と疑問点を尋ねる。
とどのつまり、士道の行動に不穏な点があり信用しきれないわけである。
「ここは俺の拠点なんだよ。そこの岩場に、藁のベットなんかが置いてあったろう? そこに誰か知らない奴がいれば、まずは様子を見るのも当然だと思うが」
「なるほど。では、もう一つ。その藁のベットは2つあるのだが、君1人で2つも使っていたのか?」
士道は思わず舌打ちしそうになった。
(こいつ…………初めからこの孤島に住み着いている人間がいると気づいてたな。それが1人じゃないことも)
「え? あ、そーゆーことかリーダーカッケー!!」とカイが叫んでいるが、彼と違って馬鹿ではない他の冒険者たちはそのことを理解しているようだった。
心なしか、ガウスの視線が鋭くなる。
だが士道は超然と見つめ返し、不敵な笑みを浮かべた。
こういう時はだいたいビビったら負けだという現代日本の経験則からである。
(どうする? 爺さんに出てきてもらうか……)
玄海を次手のカードとして隠しておいたのが失策だった。
とはいえ、今からでも信用させることは可能だろう。玄海も素直に姿を現し、魔石や金塊でメリットを提示すれば良いのだ。
(だが……まあ、こっちの方が手っ取り早いな)
士道はそう判断した。
ガウスの質問に返答する。
「いや、俺一人じゃない。もう一人、俺と一緒に漂着した奴がいる」
「やはりそうか。ならば、そいつはどこにいる?」
「何を言っている?」
士道は耐えきれないようにクツクツと笑いを漏らし、訝しげに眉をひそめるガウスに向けて告げた。
「すでに、お前の後ろにいるだろう?」
刹那。
ガウスの喉元に鋒が突きつけられた。
玄海が後方から接近していたことに、冒険者は誰一人として気づいていない。
場を驚愕が支配する。
悲鳴を上げようとした女に先んじて、
「動くな」
玄海が底冷えするような声音で告げた。空気が凍てついたかのように静まり返る。
玄海の殺気に当てられ、声を出すことすらできないのだ。
ギロリ、と玄海の双眸から火のような視線が冒険者たちに投げられる。
士道は場の主導権を奪ったことを確認すると、悠々とガウスに近づいていく。
ガウスは今更、魔道具が反応していたことに気づいたようだった。
士道が自分に視線が向くように誘導していたのだから当然である。
視線誘導。
天職である奇術師の才覚が見事なまでに発揮されていた。
ハズレ術師と揶揄される男は、笑う。
「まあ、別に殺す気はない。安心してくれ。さっきも言ったが、俺たちはこの孤島から脱出したいだけなんだ」
「…………ならば、なぜこのような真似をする?」
「ただの保険だよ。少なくとも、さっきのままじゃ連れて行く気はなかっただろう?」
「……」
「別に俺たちも脅迫してるわけじゃない。これは取引だ。相応の対価は払う」
「……対価とは?」
士道はアースドラゴンの魔石を無造作に転がした。
カイが目を剥いて叫ぶ。
「こ、こりゃ三等級の魔石じゃねえか!」
魔石の等級は十段階あり、その中の第三位だ。カイほどではなくとも、他の冒険者も戦慄を隠せずにいる。
何故なら。
三等級の魔石を手にしているということは、士道たちが第三級冒険者相当の魔物を倒したということなのだから。
「足りないか?」
士道は玄海に目配せする。
玄海がザックから、金柱を一本取り出した。
あの金塊は話し合った結果、三割は士道のものとなった。
玄海が見つけたのだが、すべて士道に委ねようとするので、何とか三割貰うということで場を収めたのである。
その一部を渡すのは少々惜しいが、この場では有効なカードが欲しい。
孤島から脱出する機会など滅多にないのだ。逃すわけにはいかない。
唐突な金柱の出現に仰天していた様子の冒険者たちだが、ようやく現実を認識したのか騒ぎ始める。
玄海の殺気に冷や汗を垂らしていたガウスが、こめかみを押さえながら深々とため息を吐いた。
「まったく、こんなものがあるのなら脅す前に見せて欲しいところだ。それならば、特に詮索せずとも同行を許可したんだがな」
「ま、こっちの方が手っ取り早そうだったしな。とりあえず取引成立だ。……ただし、裏切った瞬間にそこの爺さんがお前らを殺しにかかるぞ」
「……肝に銘じておこう」
玄海がガウスの喉元から鋒を引いた。
ガウスがほっとしたように息をつく。
同時に今まで黙っていた玄海が愉快そうに笑った。
「くっくっ、士道。お主は嘘と演技だけならいっちょ前じゃな。どうせ裏切ったところで殺せんだろうに」
「よしてくださいよ爺さん、今まさにその嘘を吐いた奴が目の前にいるんですよ」
呆れたように士道は言う。
嘘と演技の達者さは天職による才覚に過ぎない。
だが。
もし裏切ったら、士道は本当に彼らを殺すことができるのだろうか。
現代の日本で平和を甘受していた士道が、他者の命を奪うという残酷な選択をすることができるのだろうか。
だが、この世界は日本と違って平和ではない。自分の身は自分で守らなければならない。
いずれ、覚悟を決める必要もあるだろう。
そんなことを考えながら、玄海と他愛のない言い合いをしていると、ガウスが毒気を抜かれたように座り込んだ。
「……馬鹿らしくなってきたな。お前ら、今日はもう寝ろ。明日の昼間までに調査を終わらせて帰還するぞ」
「え、マジ? 北の遺跡とか調べてかないの?」
「たとえ掘り出し物があったとしても、その二人に取られてるだろう」
ガウスが視線を向けると、その通りだとばかりにサムズアップする士道。
カイが「がっくし」とわざわざ声に出して肩を落とす。
ガウスは寝る準備をしながら、
「お前らも、明日の昼頃にここに居てくれれば船に乗せよう」
「はいよ。……で、お前らもしかしてここで寝る気かよ?」
「そのつもりだが? 野営には理想的な場所だしな。……ああ。その藁のベットは使わないから安心していい」
「そういう問題じゃないんだがな……」
士道は苦笑するが、ガウスに譲る気はないようだ。
先ほど殺されかけた相手の傍で寝ることを躊躇しないというのは、意外と大物なのかもしれない。
「……そうだな。俺も、もう眠い。身体洗ったらさっさと寝よう」
士道は玄海から、意識の一部を気配察知に使いながら睡眠する術を会得している。
つまり、寝ている間に奇襲される心配はないのだ。
「そういえば、名前を聞いていないぞ」
「俺か? 俺は神谷士道。あっちの爺さんは古賀玄海。ああ一応、最初の方が姓で、後者が名前だ」
「ほう……? 珍しいな。もしかしてヒノ国の出身か?」
「…………いや、違うぞ」
ヒノ国という国名を聞いたことはない。士道は少々迷ったが、変に詮索されるのは避けたいので否定しておく。
しかし、逆にガウスは士道たちに興味を持ったようである。
「シドーとゲンカイ、か。ならばどこの国のものだったのだ?」
「日本ってところだ。知ってるか?」
「ニホン? いや、知らないな。冒険者というのはそれなりに見聞が広いものだが、まるで聞いたことがない」
「そうか。まあ、そうだろうな」
「……?」
「いや、こっちの話だ。で、そっちの名前は? まだ聞いてないぞ」
聞くまでもなく知っているのだが、『女神の使徒』スキルの『鑑定』は無闇に言いふらすべきものではない。
ガウスはふむと頷くと、
「私はガウス・フォルスト。第五級冒険者だ。クラン"野を駆ける獣"の構成員で、このパーティのリーダーをしている」
「第五級……ね」
冒険者というのは第十級から第一級にまでランク分けされている。
第十級が駆け出しで、第七級を越えれば一人前と呼ばれる。第五級から精鋭揃いとなり、第三級から熟練の域に入り、第一級ともなれば怪物の集まりである。
その上に超級が一応あるが、これは伝説になるような実力者でないと昇級することはできない。
現在は世界でたった三人である。
このガウスの説明を、士道は整理しながら頭に叩き込む。
更に詳しいことを尋ねて「随分と世情に疎いのだな」と不審がられたが、孤島に住んでいたことを言い訳にしてやり過ごした。
士道は得られた情報を整理する。
冒険者は冒険者ギルドを通じて探索や魔物討伐、護衛など様々な依頼を受ける、何でも屋のような職業である。
ギルドに登録するだけで依頼を受けられるので、士道たちのような所属不明住所不定の怪しさ満載の存在にはうってつけの仕事だ。
登録によってギルドカードが発効されるので、身分証明にもなる。
ちなみに、ガウスが自己紹介に付け加えた『クラン』というのは、パーティより大規模な冒険者の集まりで、パーティがいくつか集まってできるものだ。
一パーティでは成り立たない大きな依頼をこなすときや新人の育成などに役立ち、傭兵団と二足のわらじを履いている場合もある。
「ふぅん……なるほど」
「……なんだ? 随分と興味を持っていたが、冒険者になる気でもあるのか?」
「とりあえずな。金を稼ぐ手段が必要だろうし」
「……ふむ。まあ、三等級の魔石が取れるということは、第三級冒険者相当の実力はあるのだろうし、それなら大分稼げるだろうな」
「なら良かった」
三等級の魔石とはつまりアースドラゴンの魔石である。
ガウスの言葉を頭に入れながらも、その評価は正確ではないと士道は思っていた。
士道がアースドラゴンを狩れたのは、初見殺し過ぎる固有スキルを三つ全てフル活用したからである。
戦闘が長引き相手が学習すれば、おそらくかなり苦戦していた。
士道は古賀流剣術を習得したとはいえ、まだまだ未熟で経験も浅い。
それでも17歳という若さで第五級冒険者並の強さがある者はそういない。
「だが、冒険者稼業は実力主義とはいえ、流石に何の実績もなく昇級できるわけではない。下級――第八級あたりからコツコツと依頼実績を上げていく必要があるぞ。ちなみに依頼を受ける際の要求ランクは、下限はないが上限はある。自分の級の一つ上までしか受けられない」
「面倒って程でもないな。まあそんなもんだろう」
「…………しかし、この島に漂流する前は何をやっていたんだ? そもそも、どうして漂流することになった?」
「聞きたいか? 俺の壮絶な英雄譚を。まず、俺は孤児だったんだが――」
始まりから嘘である。
上手い嘘のつき方とは嘘の中に真実を織り交ぜることであるが、士道が行ったのはそれと真逆の手法だった。
昔から人を騙すことは得意だった。
だから天職が奇術師になったのだろうか。
適当に雑談して大雑把にこの世界の情報を引き出した士道は、ガウスに感謝して寝転がる。
夜空には星が浮かび、瞬くように辺りを照らしていた。
「寝るか」
今日は色々あって疲れているのかもしれない。微睡むような眠気に襲われた士道は、意識の一部を周囲に向けながらも、深く眠った。