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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を

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第31話 「小さな願い」

活動報告に世界地図つくりました。雑ですが、理解の参考にはなると思います。クオリティは気にしないで……。

 榊原迅は深い溜め息を吐いていた。

 禿げ上がった頭部に大柄な肉体。重そうな甲冑鎧を纏っていて、冷酷そうな眼光は窓の外に広がる迷宮都市を見据えている。迅は自らの頭を撫でながら、しばし思考の海に潜っていた。

 彼が佇んでいる場所は、ローレン近郊を治める領主の屋敷の一室である。

 周囲には貴族としての格を窺わせる瀟洒な意匠を凝らされた家具が数多置かれていて、迅はそのひとつであるソファに身を預けていた。


「どうだね? 戦況は」


 軽い調子で尋ねながら部屋の扉を開いたのは、細い瞳に恰幅の良い体をした中年の男だった。

 アイゼン・ライズベルグ。

 迷宮都市ローレン近郊――すなわちライズベルグ侯爵領を治める領主である。

 彼は迅の向かいにあるソファに腰を落ち着けると、扉の外に控えさせていた侍従のメイドに茶を出すように命じた。


「ふむ……。正直なところ、思わしくはないな」


 迅は重々しい口調でそう答えた。敬語は使っておらず、一国の侯爵たるアイゼンを前に敬意を示す様子はない。勇者はその態度が許される立場だった。

 アイゼンは特に気にした様子もなく、テーブルに置かれた紅茶に手をつける。迅もそれに倣い、暖かい紅茶に手を伸ばした。

 暫しの沈黙の後、迅がゆっくりと口を開く。


「それで、竜騎士アルバートはどうしたのだ? ワシの分身体が残り一体となった今では、増援がなくては厳しい。スイメルも草薙だけで手一杯のはずだ」

「教会に神託が告げられてから国も迅速に動いてるが、いかんせんこの迷宮都市は辺境すぎてね。竜騎士隊ですら到着に時間がかかっているようだ」

「具体的には?」

「二時間、といったところだね。……勇者ジン殿よ、こちらの残存戦力は?」

「……ワシの分身体が残り一体。魔力量から考えてもこれ以上は生み出せんな。それに加えて、天使長が動かしたエルフ族戦士団はスイメル以外は全滅だ」

 

 迅の分身体は"支配者"ミレーユ・マーシャルにほぼ始末されてしまい、スイメル率いる戦士団は草薙によって殲滅された。

 その犠牲を払った代わりに、アルドック達と"一つ目狐"はリリスを追っているはずだが、分身体の不足もあって戦況は窺えない。

 彼らが決着をつけられれば良いのだが、迅は嫌な予感が誤魔化せなかった。


「……今、ワシの分身体が森林内で死体の群れを発見した。これは……ミラ王国の兵か?」


 迅の意識の一部には、最後の分身体の視界が映っている。薄暗い森林には何人もの死体が崩れ落ちていた。

 兵の装備からミラ王国の兵と予想したが、ダミーの装備を身に着けている可能性も否定できない。いずれにせよ、他国の諜報部隊であることは間違いなかった。それを許しているライン王国の警備に苛立ちを覚えたが、北の辺境ともなれば仕方のないことだろう。

 迅は意識を切り替える。この点の問題はそこではない。

 重要なのは、数が少ないはずの魔王側には、精鋭揃いだろう他国の諜報部隊を簡単に殲滅できるような強者が、草薙の他にもいるということだ。

 おそらくは、もう一人いるらしい転移者だろうか。

 迅は思考を巡らせる。


「…………」


 現在、ライン王国の女神教会には神託が降りている。その内容は龍魔王ウォルフの復活を暗示していて、止める方法は銀髪のハーフエルフの始末のみだと示していた。国の上層部にしか出回っていない情報だが、民衆が聴けば凄まじい騒ぎに発展することだろう。

 災厄の龍魔王ウォルフ・バーゼルトとは、それほどの存在なのだ。他の魔王とは『悪』としての格が違う。百年という長さの時間が経過してなお、その爪痕は各地に残っている。

 黙考する迅に対してアイゼンは紅茶で舌を湿らせつつ、


「敵戦力は不死魔王リーファに元英雄クサナギ……中位以下の悪魔が数体だったか?」

「いや、魔王側にはもう一人転移者がいるという噂があったが……。加えて、それらとは別にミレーユ・マーシャル」


 迅は一度そこで言葉を区切った。己の中で、何かを確かめるように呟く。


「……イレギュラーで、神谷士道だな」

「ああ、例のハズレ術師とやらか。それに対して、こちらはスイメル・カートレットと勇者ジンの分身一体。それにアルドック達騎士勢と"一つ目狐"か……。戦力が足りないね」

 

 数の上では優っているというのに、アイゼンは戦力不足を嘆いた。迅もその言葉に首肯する。

 別に、出せる兵がいないわけではないのだ。アイゼンは広大な領地を治める人廉の貴族であり、手持ちの私兵は十分に揃っている。

 しかし、この世界では個々の実力差に隔たりがありすぎて、数が意味を為さないことも往々にしてあるのだ。これは迅がライン王国の兵法を学んで、最も驚いたことである。迅も迷宮で訓練するにつれて、その意味を実感したのだが。

 要するに、このレベルの戦闘では雑兵は役に立たないのだ。それは草薙に殲滅されたエルフ族戦士団が証明している。

 要求される戦力レベルは、最低でも第二級冒険者程度はいるだろう。だから迅はこの街最高峰の冒険者クラン"一つ目狐"を動員し、それ以外は役に立たないと判断して無視したのだ。


「ワシが直接出るか……?」


 迅は僅かに目を細めた。その身に纏う絶対的な覇気が一瞬だけ顕になる。

 その圧力は分身体の比ではない。

 実際のところ、あれだけの強さを誇ってなお、分身体は本体の三分の一程度の実力しか持っていない。

 そもそも、迅はすでにレベルオーバーに到達している。草薙という例外を除けば、異世界に転移してたったの二ヶ月ではありえない速度だが、その理由は迅の特殊な固有スキルにある。

 迅は何人かの分身体を使って魔物を狩り、経験値を積ませるのだ。

 一日に五人を動員していれば、単純に考えてその経験値は常人の五倍。分身なので迷宮から脱出させる必要もなく、延々と魔物を狩らせ続けたのだ。

 もちろん勇者がいつの間にか姿を消せば不自然なため、分身のうち一体は、きちんと冒険者ギルドなどにも顔を出していたのだが。

 ともあれ。

 要するに、本体で直接出向けば、草薙はともかくミレーユ程度なら始末する自信はある。

 だが、本体に替えは効かない。

 迅はひとまずアイゼンに思考している策を伝えた。すると、当然のようにアイゼンは迅の提案を止めた。勇者という存在は王国にとって大切な権威だ。

 そう簡単に打ち捨てていいものではない。それを理解している迅はなお、アイゼンの言葉を無視して思考の海へと沈んだ。あくまで己の基準で、現実的なリスクとリターンを秤にかけている。

 迅は別に王国の為に戦っているわけではなく、命が惜しいわけでもない。

 ただ、望んでいただけだ。

 今はもう、失われた理想を。

 

「……ふむ」


 そして。

 迅の選択は。


 



 ◆◆◆





 夜闇に包まれた森林の中で冒険者達の悲鳴が轟く。迷宮都市最大のクラン"一つ目狐"の連中だ。この街きっての精鋭と呼ばれた彼らは今や泣き喚き、錯乱して叫ぶだけの有り様だった。


「……あーあ、嫌になるね」


 怠そうに嘯きつつ、霧崎翔は淡々と殺害を繰り返していた。言動とは裏腹にその動きに淀みはない。迅速かつ効率的に冒険者の命を刈り取っていく。

 足音すら立てない翔を、冒険者達が捉えることは永遠にない。

 物陰から物陰への疾走。それだけで翔は何人もの首を飛ばしていた。

 どうしてリリスを追っていたはずの彼らが、阿鼻叫喚の絵図となっているのか。その理由は、翔の固有スキル『呪印』にあった。

 "一つ目狐"を発見し、計画の邪魔だと判断した翔は忍者としての技術を駆使して何人かの冒険者達を気づかれないように『呪印』で暴走させた。

 それが意味しているのは、信頼してる仲間に背後から襲われること。すなわち同士討ちの発生だ。そうなれば、後は簡単だった。外敵への備えは堅実だった陣形が簡単に崩れていく。翔は隙だらけの隊列に介入して、首を斬り裂き、ときに『呪印』で暴走させながら、効率的に冒険者の数を減らしていく。彼らがこの混乱の中で、現代に生きる忍者たる翔に気づくことはなかった。

 暗闇で霧崎翔に狙われた時点で、彼らの死はとうに決定していたのだ。

 すでに"一つ目狐"は総崩れとなっていたが、翔にはひとつの懸念事項がある。


(……騎士連中の姿が見えないなぁ。引き際だけはよく心得てる)


 錯乱している冒険者達の傍では不利と悟ったのか。流石は勇者の側近を任されているだけはある。

 翔は最後の一人の始末を終えると『呪印』で暴走させた連中に周囲の探索を命じる。暴走化ではなく、下位悪魔化させればもっと正確な命令を指示することとできるのだが、無駄に魔力を消費することもないと判断した。知能の低い暴走状態の冒険者達に捜索させることは無駄かもしれないが、アルドック達の捜索だけではなく、近くに来ているはずのミレーユ・マーシャルに対しての牽制にもなるだろう。


(後はリリスか。ピレーヌ山脈の方に逃げてるとは好都合だね)


 口元に不気味な笑みが浮かぶ。

 翔は再度夜闇に身を溶け込ませ、足音すらもなく走り始めた。


 それから数分で、囁き声を捉えた。

 翔は無音のまま地面を蹴って木に飛び移ると、枝を登って高い位置から音源を見下ろす。

 どうやらアタリのようだった。とはいえ、そこにいたのはリリス・カートレットだけではない。

 もう一人、男がいる。くすんだ茶髪に身なりの良い服を着た少年だった。

 『鑑定』によるとブルース・マグナンティ。ステータス上は第三級冒険者程度のようだが、翔は草薙から「ステータスだけで敵を判断するな」と日頃からよく言われている。

 そもそも、正面からの戦闘ではこのレベルですら翔にとっては楽ではない。

 よって、警戒を怠らなかった。

 十分な警戒心を保ったまま、翔は迅速に捕縛行動に移る。隠密に背後から近づくと、手始めに魔法袋から手裏剣を取り出した。

 現代まで脈々と受け継がれてきた忍の技術が、その真価を見せる。

 翔は抜き手も見せぬほどの速さで手裏剣を放った。斜めに弧を描くような軌道で十字型の刃物が飛ぶ。その行方を見据えると共に翔は逆手にクナイを持ち、一息に隣の木まで飛び移る。

 魔力を纏う身体強化によって、この動作を息を吐くように行えるようになったのは、翔にとって大きな強みだった。

 とはいえ、流石の翔でも着地の衝撃で枝が僅かに揺れる。だが、ブルース達はちょうど迫る手裏剣に反応していたらしく、翔のそれに気づくことはなかった。

 ブルースとリリスは慌てて術式を組み上げ、物理に対する障壁を発動した。

 魔力が込められているとはいえ、所詮は牽制に放った軽い手裏剣だ。あっさりと障壁に跳ね返されて地面に落ちる。

 だが、そのときにはすでに、翔は音もなくリリスの背後へと舞い降りていた。


「誰ッ……!?」


 リリスが反応して魔法を発動しようとするが、その判断は誤りだ。この至近距離で魔法は意味を為さない。近接戦闘の領域だ。翔は、ゆらりとした動作でリリスの懐に潜ろうする。


「やらせない……ッ!!」


 その直前。咆哮と共にブルースの剣が割り込んだ。翔は表情すら変えずに体を振って躱すと「隙だらけだよ」の一言。

 返し刀にクナイを放ると、剣を振ったブルースの無防備な脇腹に突き刺さる。

 血飛沫が舞う。それを見ながら、翔は手慣れた動作で煙玉を地面に落とす。そして、空いた手で次のクナイを取り出した。ブルースとの交錯の合間に魔法を発動しようとしていたリリスは、唐突に煙で視界が塞がれて硬直した。

 その隙を逃す翔ではない。煙玉の扱いなら手馴れている。よって、リリスとの位置関係は把握することは容易だった。

 リリスの背後に回り込み、魔物の胞子で造られた強力な睡眠薬を口元に押しつける。僅かに抵抗したが、ものの二秒で意識が途切れたようだった。

 翔はほっそりとしたリリスの体を脇に抱えると、すみやかにブルースの始末に移ろうとする。

 だが、その足が途中でぴたりと止まった。


「…………へぇ」 

 

 翔は何を思ったのか、投げ縄を使って木の枝に飛ぶと、踵を返して撤退した。





 ◆◆◆





 ミレーユ・マーシャルは森林をかき分けて進んでいた。


(さっきのは、いったい……)


 どう見ても正気を保っていない冒険者がミレーユに襲いかかってきたのだ。ミレーユは残り少ない魔力を気にして、体術で冒険者を気絶させた。魔術師とはいえ、並程度には体術も使えるのだ。そうでなければ、超級など名乗れない。

 ともあれ、暴走した冒険者に加えて"一つ目狐"の死体の山を見たときから嫌な予感はしていたが、倒れ込んでいるブルースを発見したとき、ミレーユは心臓が止まるかという思いだった。

 激痛を無視して傍に駆け寄る。


「ブルースちゃん!? いったい、どうしてここに!? あ、血が……だ、大丈夫なのですか!?」

「……せ、先生…………?」


 (うずくま)るブルースの脇腹にはナイフのような刃物が突き刺さっている。

 刺さってからそこまで時間は経過していないようだが、傷口からはどくどくと血が流れている。

 

「……治癒魔法を使たいのですが、そのためにはこれを抜かないとなのです」


 ミレーユが神妙な表情で言うと、ブルースは頷いた。

 その覚悟ある返答を受けて、ミレーユは一気にそのナイフに似た刃物を引き抜く。ブルースの呻き声に顔を歪めるが、感情を凍らせてミレーユは治癒魔法を行使した。取っておいたなけなしの魔力が消えていくが、ブルースもリリスと同じくらい大切な塾生だ。決して見捨てることはできない。


「は、早く……リリスを追わないと……」


 ブルースは息も絶え絶えに呟いた。

 だが、クナイに麻痺毒が塗られていたらしい。手足が痺れて上手く動けないようだ。ミレーユは慣れない解毒魔法を行使したが、余程の技術でもない限り、基本的に麻痺毒はしばらく休まないと回復しない。

 ミレーユはブルースの体をそっと持ち上げると、木の影にもたれかけさせた。


「……ここで、休んでいるのです。あなたの思いは私が受け取りました。……リリスちゃんは、私が必ず助けます」

「……せ、先生だって、同じぐらい傷だらけじゃないか。僕は、まだ、やれる……戦えるんだ……!」


 ブルースは真摯な瞳でミレーユに訴える。痺れて動かない体を、懸命に動かそうとしている。

 ――ああ、成長したのですね。

 自尊心が高く、常に自己の感情を優先する性格をしていたブルースが、今こうして友達の為に戦おうとしている。

 ミレーユにはそれが嬉しかった。どこか慈しむような瞳を向けながら、ブルースには聴こえないように、優しく意識を奪う魔法を呟く。"睡魔"、と。


「……先生、僕は……分かったんだ」


 魔法の効果が段々と染み渡り、ブルースの瞳が静かに閉じていく。

 ブルースは薄れゆく己の意識に、気づくことができないようだった。


「……僕は、シドーが勇者に脅されて、それでもなお、堂々と、俺はリリスを護るって、そう言ったところを見ていた」

「……そう、なのですか」

「あんな風になりたいって、思った」

「……はい」

「僕は……騎士になりたい。でも、分かったんだ。それは決して、実力なんかじゃないんだって。皆を、護って、戦える。そんな……崇高な魂こそが、大事なんだって。だ、から……今まで通りじゃ、駄目なんだ…………」

「……」

「僕は、僕の周りにいる、大切な人達を護りたい……それが、騎士、だから」


 "睡魔"はその効果を柔らかに発揮して、ブルースは静かに眠りについた。この森は魔物がいないので、そう心配はいらないだろう。

 ミレーユはブルースの頭をそっと抱き締めると、


「……あなたの夢。私が、きっと護ってみせます。何せ、あなたたちの先生ですからね」


 ミレーユ・マーシャルは立ち上がる。

 その目は、聳えるピレーヌ山脈の更なる奥に潜む不死魔王の住処を的確に捉えていた。

 今ここにいるのは、世界にたった三人の凄腕冒険者――などではない。

 小さな塾を経営する、ちっぽけな教師の一人だ。

 ――だからこそ、そこには、誰にも譲れないほどの強さがあった。



 


 ◆◆◆


  



 草薙は一直線に草原を疾走していた。

 その体に怪我の跡は見えない。尋常ならざる治癒の腕を持つララによって、完璧に治療されていた。最も発熱と血の不足だけはどうしようもないのだが、それでも今までに比べれば大分マシである。

 そもそも、今までは生きているのが不思議なくらいの傷だった。

 怪我の完全回復は神谷士道の指示だ。

 あの男も随分な器だ、と草薙は思う。

 己より圧倒的に強い相手を簡単に回復させるとは、どう考えても普通ではない。苦笑を浮かべながらも、駆ける足は緩めない。

 目的地はピレーヌ山脈。リーファがいるはずの魔王城だ。翔が動いているのなら、そろそろリリスが運ばれていてもおかしくない。

 

(……そう、俺にとって、あのクソみてぇなウォルフの奴が蘇る必要はねぇ)


 草薙の目的を達成するには、要するに『魔王』が復活すればいいのであり、『ウォルフ』が復活する必要はないのだ。同じようで、その意味はまったく違う。

 

『お前、あまり「鑑定」を使わないんだろう? アレの詳細をよく見れば打つ手は見えてくる。リリスの「因子」はただ、魔王の宿す魔力ってわけじゃない』


 草薙にとって、士道の提案はまさに寝耳に水だった。

 

 草薙は己の目的の為なら、どんな外道な行いでもやる覚悟がある。だから、エルフ族を無慈悲に惨殺した。正義を掲げる勇者を始末しようとした。立ちはだかる敵を殺さなければ、どうしても望む結末には辿り着かないから。

 だが。

 目的を達成し、なおかつあの少女を救う手段があるのなら――。

 リーファは反発するだろうが、そんなもの、草薙の知ったことではなかった。


「俺は――ッ!!」


 夜を斬り裂くように。

 元英雄は、走る。



 


 ◆◆◆





 ピレーヌ山脈。切り立った崖の洞穴。

 そこに建設された魔王復活の祭壇。

 戦士達は、それぞれの思いを抱え、最後の戦場へと集結していく。相容れない思想は殺し合いの渦を生み出し、きっと無惨な光景が造られるのだろう。


 ――それでも。

 ――笑顔咲く未来へ。


 何処かで。

 少年の呟きが、夜空に響いた。

 

 

 



 


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