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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を
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第11話 「迷宮都市ローレン」

「ここか……随分とデカい街だな」


 士道は迷宮都市ローレンの高い城壁を仰いでいた。

 堅牢そうな防壁は、やはりエルフ族に対する要塞も兼ねているのだろうか。

 街道を駆け抜けてきた士道はそのまま南門から街に入ろうとしたのだが、たまたま商隊とタイミングが被ってしまったので、道を譲ったのである。

 少し手持ち無沙汰だったが、商隊は数分も経たないうちに手続きを終えたようだった。

 門番が士道に声をかけてくる。

 

 

「次、お前は……旅の者か? 仮の身分証明書を作ることになるが……」

「冒険者だ」

「そうか。それなら、ギルドカードを提示してくれ」


 言われた通りにギルドカードを魔力袋から取り出し、手渡す。

 軽い調子で受け取った門番だったが、内容を確認した途端、驚いたように目を瞠った。


「第三級……!? その歳でか」

「……そんな珍しいか?」


 若い第三級ならレーナという実例を知っているので、特に珍しいとは思わない。士道は不思議そうに首を傾げる。

 強者に囲まれ続けていた士道は、少々感覚が麻痺しているのだった。


「ま、まあいい。入って構わんぞ。ああ、冒険者ギルドなら東の迷宮区の中心にある」

「分かった。ありがとう」


 士道はそう言って、喧騒が飛び交う街の中に足を踏み入れた。

 アクアーリアとも似た雰囲気の雑多な街並みだが、唯一異なる点は武装した人間の多さだろう。

 おそらく冒険者だと思われる装備をした人間達が、数多く通りを歩いている。

 士道は冒険者を見かける度に『鑑定』を行ったが、誰もがレベル30を越えるような熟練者ばかりだ。

 雰囲気も、やはり常人とは一線を画している。

 これまで通ってきた街とは異なり、実力のある者が揃っているようだ。

 ざっと見渡しただけだが、アクアーリアの冒険者ギルドよりも全体の質は高いのではないだろうか。

 流石は冒険者の街と呼ばれる迷宮都市である。


(…………これは油断ならないな)


 東の迷宮区に入ると、戦闘従事者と思われる人間がさらに増加した。

 辺りの店も武器屋、防具屋、鍛冶屋などの冒険者御用達の店が多く、他は酒場や飲食店が大半を占めている。

 

 冒険者ギルドの位置は、わざわざ探すまでもなかった。

 迷宮区の中心に巨大かつ無骨な建築物が存在感を持って鎮座している。

 その大きさに感嘆しながら、士道はまず冒険者ギルドに向かった。

 ダリウスから教えられた魔法塾の正確な位置を分かっていないので、誰かに聞かなければならない。

 そして迷宮にも興味がある。

 まだ午前中なので多くの者は依頼や迷宮の探索に出ている最中だろうが、特に問題はない。

 士道はギルドの大きな扉を気負いなく開いた。

 瞬間。ギロリ、と内部にいる冒険者達の視線が一斉に突き刺さる。


(……これだけは、何処に行っても変わらんな)


 いつも通りの冒険者流の歓迎に士道は呆れる。

 慣れているので表面上は無視した。

 

「新参だな」

「まだ若いぞ……だが、強そうだ」

「格好良い人ね」


 隠す気もないだろう好奇心丸出しの声がそこかしこから聴こえる。

 士道は小さく嘆息して、カウンターの受付嬢に話しかけた。


「どうも。……しばらく滞在するつもりだから、ここのギルドに登録して欲しいんだ」

「分かりました。ギルドカードをご提示ください。ちなみに前の拠点は?」

「海上都市アクアーリアだ。……ほら」


 士道が渡したギルドカードを見て受付嬢は僅かに動揺したが、言及はしなかった。


「……はい、確認しました。これで、このギルドでも依頼を受けられます」

「ありがとう。ちなみに、迷宮は何処にあるんだ?」

「ギルドから真っ直ぐ東に進めば、見つかります。……第三級の実績があるようですし、試しに挑戦してみては如何ですか?」

「そうしようと思うが、俺は迷宮に潜ったことがないんだ。教えてもらえるとありがたい」


 士道は肩を竦める。


 迷宮とは、端的に言えば魔物の住処だ。空気中の魔素が濃いので魔物が生み出されやすく、定期的に討伐しなければ魔物が地上に溢れ出してしまう。

 基本的に深層に潜るほど魔素の割合が高くなり、強い魔物が出現する。

 だがその分、深層の方が質の良い魔石を獲得できる。

 冒険者としては自身の実力を把握し、安全に狩れる階層さえ理解すれば、危険が少なく安定して稼げる良い狩り場となっているわけだ。

 とはいえ、まれに罠が仕掛けてあるので注意が必要なことには変わりない。

 そして、難易度は魔物の強さだけでは決まらない。

 階層の深さや通路の狭さ、構造の複雑さによってかなり変化する。

 通路が狭すぎて一人でしか潜れないような迷宮や、逆に広すぎてドラゴンまで出現する迷宮もあるのだ。

 冒険者は魔結晶という転移魔道具によって、一度行ったことがある階層まで転移することができる。

 とはいえ魔結晶は高価なので、深層まで潜る上級冒険者のパーティでなければ購入しないようだ。

 迷宮においては地図も重要視され、最前線の階層を攻略し、マッピングを行えば、その層の地図を高値で売りつけることができる。

 未踏破の迷宮の最深部にはその迷宮の深さによるが、高価な魔道具が置いてある場合が多い。

 以前から疑問に思われていたが、魔導学者によると、普通の道具がその層の色濃い魔素を吸い取った結果だと言われている。

 そのため、一攫千金を夢見た者が命を落とすことも多い。


(……こんなところか)


 士道が入院中に学んだ知識を脳内で反芻していると、受付嬢が言う。

 

「そうですね……。この街のローレン大迷宮は十層ごとにボスがいる一般的なタイプの未踏破迷宮で、現在は二十三層が最前線となっています」

「へぇ。まだ踏破されてないのか?」

「難易度B級の迷宮ですからね。勇者様がやって来るまでは攻略も難航していました。ローレン大迷宮は通路は広い方ですが、罠の数が多いですから」

「……勇者が来てから状況が変わったのか?」

「ええ。1ヶ月前までは十八層までしか進んでいなかったのに、今や二十三層ですからね」

「凄いな。どんな奴なんだ?」

「ええっと……」


 士道の質問に受付嬢はなぜか視線を泳がせた。

 首を傾げるが、受付嬢は誤魔化すような口調でこう答える。


「……り、立派な方ですよねー」

「ふうん?」

 

 怪訝ではあるが特に追求するような真似はしなかった。

 そこまでの興味はない。

 時計に目をやると、まだ午前中で時間も余っているので、試しに迷宮に潜ってみることにする。


 冒険者ギルドから出た士道は、大通りを東へ真っ直ぐに進んでいった。

 その先に見えてきたのは、土でつくられている洞窟とその前の広場だった。

 受付嬢の言から察するに、あの洞窟が迷宮だろう。

 地下に広がっているからか、あまり大きくは見えない。

 周囲を見渡すと、迷宮前の広場には何人かの冒険者がたむろっていた。

 どうやら一仕事終えた後らしい。

 魔石を売るカウンターもあるようだ。

 他にも、迷宮探索に関連するものは何でも揃っていた。

 

 士道が興味津々にそれらを眺めながら迷宮の入り口に近づくと、その場にいた衛兵が静止を促す。


「見ない顔だな。冒険者か?」

「ああ。この街にやってきたばかりさ」


 そう言ってギルドカードを提示する。

 衛兵は「第三級か……」と呟き、


「確認した。入ることに問題ないが……まさか一人で行くつもりか? この迷宮の通路はそこそこ広い方だから10人程度までパーティを組めるぞ?」

「ああ。試しに潜ってみるだけだからな。そんな深くまで行くつもりはない」

「そうか。まあ第三級なら、慣れればソロでも十層ぐらいまではすぐに行けるようになるさ」


 衛兵はそう笑いかけると入り口の前から退き、士道を手で促した。


「最後に言っておくが、この中はすべてが自己責任だ。ルール上は駄目とされているが、たとえ同業の冒険者に襲われたって証拠が残らない場合が多い。気をつけろよ」


 注意を勧告する衛兵にひらひらと手を振り、士道は迷宮に足を踏み入れた。

 少し薄暗いが、逆に光源がない場所にしては異様に明るい。

 疑問に思って士道が『鑑定』すると、迷宮の壁を構成する土は仄かに発光する性質を持っているようだ。

 それに加えて、凄まじい硬さを誇っているので壁を破壊することは確実に不可能だろう。


(なるほど、壁を壊して進むとかの不正は許されないわけか)


 それなりに広い通路を進んでいくと、迷宮らしく道が別れていた。

 どちらに進もうか迷う。地図を買った方が良かったか。

 高いようだが、一層の地図ぐらいは大した値段ではないだろう。


「……まあ、いいか」


 魔結晶を持っていないので、深層まで潜るわけではない。持っていない状態では潜りすぎると、帰り道が非常に面倒臭そうだ。

 そんなわけで、士道はとりあえず一層攻略を目標にして、迷宮内を警戒しながら歩みを進め始めた。


 

 

 


 

 



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