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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を
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第5話 「魔法の適性」

 翌日。

 脇腹の傷が一応回復した士道は冒険者ギルドへ向かった。

 レーナやエレノアは普通に依頼を受けているため傍にはいない。

 傷は塞がったとはいえ、まだ激しい運動は控えるように婆さんから言われているので、依頼を受けるためではない。

 つまりは、昨日ダリウスと話した魔法の適性検査をするためだった。

 どんな結果が出るのか分からないが、受けておいて損はないだろう。

 畏怖の視線を向けられるギルド内を横切り、裏手の訓練場に足を踏み入れる。

 そこでは予想通りの人物が、新人冒険者の指導にあたっていた。


「グランドさん」

「む? シドーか! どうしたのだ?」

「魔法適性の検査を受けたいんだ」

「ほう?」


 訝しげな表情をしたグランドに、昨日ダリウスに言ったような事情を説明する。

 彼は納得して快活に笑うと、


「ふむ! それならアンナの奴に頼むことにしよう! 呼んでくる、ここで待っていろ!」

「悪いな。頼んだよ」

「ハッハッハ! これしきのこと、気にするな!」


 グランドは新人達に適当に指示を与えてギルド内に入っていった。

 士道は言われた通り待っていようと思い、腕を組んで壁によりかかる。

 そこに、鋭く声が飛んできた。


「おい!」

「ん?」


 怪訝そうに顔を上げると眼前に立っていたのは、逆立っている赤髪が特徴的な少年だった。

 12歳程度だろうか。冒険者としては少し若すぎる印象を受ける。

 周囲の状況から見て、グランドが指導していた新人の一人だろう。

 その彼は、面白そうな瞳で士道を眺めている。

 士道は薄く笑って肩を竦めた。


「俺に何か用か?」

「お前、"幻影"のシドー・カミヤだな」

「その妙な二つ名を受け入れた覚えはないが、まあ士道ってのは俺のことだ」


 適当に言うと、赤髪の少年は士道に木刀を突きつけた。


「俺と決闘しろ!」

「…………何で?」


 士道は首をひねる。

 この少年に勝負を挑まれる心当たりがないからだ。

 何せ、関わったこともない。

 考えている間も少年は士道を見据え、他の新人達は遠巻きに少年を眺めていた。

 見たところ、新人達のリーダーといったところだろうか。

 周囲に視線を向ける士道を、少年は生意気そうに睨みつけ、


「たった二ヶ月で第三級まで上り詰めたその実力を見せてほしいんだ」


 非常にシンプルな動機だった。その瞳には好奇の色が浮かんでいて、嘘には見えない。

 ニヤリと笑う少年に軽く笑みを返す。このタイプの人間は嫌いではなかった。


「別に構わないぞ。ただ、グランドさんが戻ってくるまでの時間制限つきだな」

「それでいい。じゃぁ、今すぐ始めよう。模擬戦形式な」


 少年が放り投げてきた木刀を受け取り、軽く振って重さを確認する。

 脇腹の調子も良く、動き過ぎない限り大した問題はなさそうだった。

 木刀を正眼に構え、少年を見据える。


「そういやお前、名前は?」

「ロイ・バリースト。いずれ、超級冒険者になる男だ」


 赤髪の少年――ロイは、自信満々に胸を張って告げた。

 夢があるのは良いことだと思いながら、士道は試しに『鑑定』する。



――――――――――――


 ロイ・バリースト:男:13歳 

 レベル:17

 種族:人族

 職業:冒険者

 天職:魔法剣士

 スキル:天鱗の才

    :見切り

    

―――――――――――


「始め!」


 ステータスを眺めている最中に開始の合図が出された。

 ほう、と士道は感嘆の息を吐く。

 『天鱗の才』は戦闘関連に限り、凄まじい才能を持つスキルである上に『見切り』も戦闘において重宝するスキルだ。

 レベルはまだ低いが、これからに期待が持てるステータスである。

 

(なら、技術と経験はどんなものか)


 そんなことを考えながら、士道はゆらゆらと独特なステップを刻む。

 タイミングを測りかねるロイを、挑発するような薄い笑みを向けた。

 それに触発されたように、ロイは大地を蹴って士道に肉薄してくる。

 鋭い太刀筋で袈裟斬りが放たれた。士道はそれを身体を振って躱しながら、カウンターのように木刀で突きを放つ。

 だが、スキル『見切り』の効果を発揮したのか直前で反応された。

 木刀を受け止めたロイはニヤリと笑い、士道の腹を蹴り抜いた。

 ドン!! と鈍い音が響き渡る。

 しかし負荷に耐えきれず、よろけたのはロイの方だった。士道はその場から微動だにしていない。

 慌てたように後方に退避するロイを見ながら、士道は冷静に評価を下していた。

 

(……思い切りがいいし、発想も悪くない)


 技術はまだ未熟でレベルも低いが、スキル『天賦の才』が示す通り、目を瞠るほどの戦いの才能があった。

 たゆまずに努力を続ければ、きっと強くなるだろう。超級冒険者になる夢も叶うかもしれない。

 士道はロイの将来に思いを馳せながらも、隙を見せることなく剣を構え続ける。

 ロイは蹴った脚が痛むのか苦痛に顔を歪めていたが、攻撃の手は緩めない。 


「まだだ!」


 渾身の力が込められた木刀の連撃が迫る。十分に鋭いはずなのに、悪魔や翔の尋常ならざる攻撃を対処してきた士道には止まって見えるような速度だった。

 

 流れるようにそれらを受け流し、そろそろ決着をつけようと一歩踏み込む。

 しかし、まだ終わらないとばかりにロイは吠える。


「このっ…………"風迅"!」


 苦し紛れに魔法を発動する。風の刃が士道に牙を剥いた。

 脳内で術式を構成。それに基づく魔法陣の展開。魔力を補填して術式稼動。

 士道は己の危機も忘れて、その動作を注視する。

 

(……なるほど。三段階に分けられてるのか)


 ロイはまだ魔法に慣れていないのか、随分と雑な手捌きだった。

 その一挙一動を観察していた士道は数瞬、回避動作が遅れる。

 三つに分けられた風の刃が迫った。

 首筋を刈り取ろうとした一つを身体をひねって躱し、足を狙った二つ目を跳躍して回避する。

 だが、三つ目を躱すことはできない。

 そう思ったのか、ロイはニヤリと笑みを浮かべた。

 だが、士道は表情を変えることなく木刀でガードした。

 古賀流剣術の応用で魔法を上手く受け流していく。

 しかし木刀の強度が足りなかったようだ。風の刃を受けきった瞬間、ミシリと音を立てて砕け散った。

 おお、と士道は目を瞠って苦笑を浮かべる。参ったというように手を上げた。


「……俺の負けだな」

「いいや、オレの負けだよ。くそ、さっさと終わらせるつもりなら、いつだってできたくせによ」

「そうでもないさ。ロイ、お前本当に新人か? 普通に中級あたりでもやってけそうな実力じゃないか」

「よく言われる。でも、グランドさんが言うには、まだオレは幼なすぎるんだってさ。もう少し大人になったら、一人で魔物討伐系なんかの依頼も受けさせてくれるらしい」

 

 士道に手を抜かれたのが悔しいのか、ロイが仏頂面で告げる。

 地面に胡座をかいて黙考を始めた。

 そこに、一人の女性を連れてグランドが戻ってくる。

 美しい金髪が目をひく女性は、士道を見て小さく会釈した。


「アンナです。魔法の適性検査を受けたいんですよね? すぐにやりますので、こっちへ来てください」

 

 士道は首肯して彼女についていくと、グランドの大きな声が後ろから響いた。

 ロイと会話しているようだ。


「ハッハッハ、負けたか! そりゃそうだ! だが、お前にはまだ先がある!」

「声がでかいよ、おっさん……。分かってるって、俺は絶対おっさんを越える冒険者になってやる」

「その心意気だ!」


 その会話を聞いた士道が微笑ましい気持ちになっていると、アンナが柔らかい笑みを見せてくる。


「ロイと模擬戦したみたいですね? あの子まだ小さいのに強かったでしょう?」

「ああ、ちょっと生意気だったけどな」「ふふ。でも、自信家の方が大成するものでしょう?」

「……かもしれないな。あいつはきっと強くなる」


 適当に話しながら、ギルドの二階へと昇る。士道達はその一室に入った。

 カーテンが閉められて真っ暗となった部屋だった。その中央のテーブルには、綺麗な水晶が置かれている。

 アンナは水晶を指差し、士道に道を譲った。


「あの水晶に魔力を込めてください」

「……分かった」


 士道はゴクリと息を呑む。

 魔法はこの世界で生きる上で、最も有効な戦闘手段だ。

 それが使えるか、否か。

 奇術師である士道にとって、特に魔法の有無は大きいだろう。

 覚悟を決めて前へと足を進め、ゆっくりと水晶に手を伸ばした。

 身体の内部から魔力を練り上げ、手先から小川のように流していく。

 その直後、透明を保っていた水晶の色が変化した。

 全てを塗りつぶすような黒。風を切るような白。氷のような水色。

 その三つに分割される。

 アンナは驚いたように目を瞠りながら、


「……驚きました。これまで検査をしなかったってことは、魔術師が天職ってわけではないんですよね?」

「ああ」

「……なのに、三属性適性。少なくとも素質が二番目以下の分野で三属性も適性があるなんて……そうそういませんよ」


 アンナは相当に驚いている様子だったが、そもそも属性が何なのかすら理解していない士道は不思議そうに首をひねるばかりだ。


「それで結果は?」 

「最も適性があるのが闇属性。次点で風と氷です。――貴方には魔法の才能があります」


 士道は安堵したように頷いた。





 

 


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