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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を
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第4話 「奇術師と天職」

「魔法が使いたい?」


 士道の言葉を復唱したダリウスは、驚いたように目を瞠った。

 

「それはまた、急ですね。……今まで魔法の適性を調べなかったのですか?」

「ああ。だから、才能があるかどうかすら分からない。何せ基礎知識がないんでな」

「貴方の天職を聞いても?」

「奇術師。……非戦闘職だよ」

「ええ!?」


 声を上げるレーナを横目に、ダリウスは目を丸くする。

 天職が非戦闘職の人間が、戦闘従事者である冒険者稼業を営むなど、普通はありえないことだった。

 非戦闘職は、やはり戦闘系の素質がない場合が多い。

 良くて第七級冒険者ぐらいまでしか昇れないだろう。

 だが、士道はすでに第一級冒険者を凌駕する程の実力を持っている。

 僅かに嘘の可能性を疑ったが、士道の真摯な瞳に揺らぎはない。

 その一方で、ダリウスは何かが腑に落ちたような感覚を覚えた。


「奇術師、ですか。……確かに貴方の戦い方はそれを応用した感じですね」

「す、すごいですねシドーさん!」


 士道は数々の手札で敵を惑わし、混乱した敵の隙を穿つ。

 確かにどこかトリックスターのように思っていたのも事実だ。

 非戦闘初の天職を戦闘に応用した事例は極めて稀だろう。

 ましてやその中で、これ程までに強くなった者は聞いたことがない。

 ダリウスは感嘆したように目を細めた。

 

「なるほど、理解しました。確かに貴方の戦い方なら魔法を使えれば更に強くなるでしょう」


 単純に、戦闘時の選択の幅が広がるのだ。手札を頼みとする士道の戦い方には最も適しているものかもしれない。

 ただ問題は、士道に魔法の適性があるのかどうかだ。 

 天職が魔術師にならなかった点からすると、適性がないか、あったとしても大した素質がない可能性が大きい。

 極めればグランドのような魔法を補助に使う剣士などになれるだろうが、基本的に才能がない分野を伸ばすことにあまり意味はなかった。

 その点を簡潔に説明したが、士道は静かに首を横に振った。


「奇術師って天職のことを何となく、感覚的に理解できるんだが……この職は基本的に『何でもできる』ことが前提になってて、その上で騙しや演技の素質を持ってるんだ。だから、魔法の才能が全くないってことは多分ない。剣術や体術だってそこそこ扱えるんだ。並程度にはあるだろう」

「ほう、それなら問題ありませんが、とりあえずは調べてみるべきでしょうね。……私は見ての通りなのでギルドまではついていけませんが、グランドさんに頼めば検査をしてくれるでしょう」


 ダリウスはそう言って微笑を浮かべた。身体は、腹部を包帯で雁字搦めにされている。

 正直、今ですら少し無理をしている状態だった。

 士道はダリウスの言葉に首肯して立ち上がろうとしたが、慌てたようにレーナが止めに入る。

 ダメ押しのように治癒術師の婆さんも「今日はまだ動かない方がいい」と言った。

 しぶしぶといった様子でベッドに戻る士道である。

 ダリウスはそれを見て苦笑した。

 そこで、扉を叩く音が響く。

 

「お邪魔するよ」


 治癒院内に入ってきたのはエレノアだった。

 彼女はダリウスを見て驚いたように、


「アンタ、もう動けるのかい?」

「はぁ。正直言うと、立ってるのもキツいですね」

「駄目じゃないか」

「ええ!? ほら、椅子出しましたから座ってください」

「ありがとうございますレーナさん」

「……それで、この面子はいったい?」


 士道が事情を説明すると、エレノアは納得したように頷いた。


「なるほどね。ま、それはともかくあたしはアンタに依頼報酬を渡しに来たのさ。最大の功労者だしね」


 エレノアはひょいと布の袋を投げた。

 その中には、金貨がそれなりに入っている。

 特に嬉しくもなさそうに受け取った士道は首を傾げて、

 

「レーナは?」

「わたしはここより先にギルドに行ったので、報酬を受け取ってから来たんですよ」

「……ゴルホ率いる海賊団の討伐でしたっけ? 正直その程度の敵を相手に貴方が怪我をするとは思えませんが、何かあったんです?」


 ダリウスは純粋に疑問を呈した。

 士道は額に手をやると、


「人間を悪魔化するスキルを持った男が船に乗ってたんだ。スキルも厄介だったが、その男自身も相当の実力だった。見事に逃げられたよ」

「悪魔化するスキル……聞いたことがありませんね。それに、シドーさんに怪我を負わせるほどの実力者ですか」

「ああ。実際、悪魔化した連中よりも奴一人の方が強かった」

「ま、もともとスラムの住人なんかが多かったからねぇ。ステータスが強化されたところで、戦闘技術がなかった」

「そうですか……? わたし結構手こずりましたけど」


 小首を傾げるレーナに、エレノアがこつんと拳骨を落とす。


「もっと精進しな。動きは速いが、単調だったよ…………愛しのシドーについていけなくなったらどうするんだい?」

「?」


 後半は囁くような声音だった。

 実際、頬を紅潮させるレーナを士道は不思議そうに見ている。

 ダリウスは話を戻すように、


「……ここのところ、悪魔に関する不穏なことばかり続いていますね。百年前の戦争が再び起こるという噂は、もしかしたら本当なのかも……まぁ、一介の冒険者である私達にはどうしようもないですが」

「…………」


 士道は無言で窓の外を眺めた。

 悪魔を倒し、魔王の復活を目の当たりにし、更には悪魔化を引き起こす人物まで現れたのだ。

 彼なりに思うところがあるのだろう。


「一応、その男について調査は進めてるけど……大陸の方に向かったってんじゃ多分見つかりゃしないだろうねえ」

「いったいその人の目的は何だったんでしょう?」

 

 レーナの疑問に士道は肩を竦めた。

 

「ま、ひとまず当初の目的であるゴルホ達は討伐できたんだ。問題はないさ」

「問題ならありますよ」

「?」


 首をひねる士道に、レーナは頬を膨らませて言う。


「シドーさんが怪我してるじゃないですか」


 士道はその言葉に目を丸くした。

 直後に、柔らかな笑みを浮かべる。

 レーナは顔を紅くしたが、士道はお構いなしに髪に手を伸ばす。

 さらさらの髪を優しく撫でた。

 レーナは嬉しそうに尻尾を振る。


「ありがとな、レーナ」

「…………はい!」

 

 ダリウスはその光景を微笑ましそうに見ていた。

 エレノアは楽しそうに、ニヤニヤとした笑みを浮かべている。

 随分と暖かい空間だった。

 セドリックが死んで、グランドが重傷を負ってから、気分は常に沈んでいた。

 久しぶりに、心からの笑みを浮かべた気がする。


「ありがとうございます。皆さん」

「ん?」


 唐突なダリウスの感謝に、皆一様に鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

 それが、少しばかり面白かった。


 その後、体調が悪化してきたダリウスは二階の病室に戻った。

 外を眺めながら、何となしに考える。

 士道はおそらく魔法の適性があるだろう。

 しかし、彼に魔法を教える人物が見当たらない。

 もともとアクアーリアの冒険者に魔術師は少ない。それに今のダリウスがまともに教えられる自信はなかった。

 だが剣術などに比べて、魔法を独学で学ぶのは厳しいところがある。

 スキルとは異なり、魔法の術式には理路整然とした理屈がある。基礎理論を知らなければ話にならない。


(……上級の冒険者で魔術師というと、シュウはもういないですし、ミリあたりですかね)


 しかし、ガウス達のパーティの魔術師であるミリは、第五級冒険者だ。

 士道が求めているレベルには達していないと思う。

 あくまで第一級を凌駕するような戦闘で、役に立つような魔法技術だ。

 そのとき、一人の女性の顔がダリウスの脳裏を過ぎった。

 ミレーユ・マーシャル。

 第一級を越える、世界にたった三人の超級冒険者の一角。

 迷宮都市ローレンで正体を隠し、ひっそりと魔法塾を開いている彼女なら、何の問題もないだろう。

 ダリウスが居た頃と同じなら、夕方から夜にかけて授業があるので冒険者稼業にもあまり支障は出ない。

  

「……仕方ない。シドーさんがこの街から離れてもいいなら、師匠(・・)を紹介することになりますか」

 

 






 

 


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