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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第二章 呪われし運命に救いの手を
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Prologue 「復活」

 朝露を切り裂くように、鋭い剣閃が唸りを上げた。

 高身長で細い身体、端正な顔立ちに汗を浮かべた少年は無心に剣を振り続ける。

 士道は愛刀『夜影』を握り締めながら、ふと苦笑いを浮かべた。

 孤島にいた頃の習慣が抜けていなかったからである。

 玄海から「鍛錬は怠るな」と常に言われていた。

 もっとも、悪魔との戦いで重傷を負ったので数週間は安静にしていたのだが。

 最近になってようやくまともに動けるようになったのだ。

 汗をタオルで拭きながら、


「よし……。悪くないな」

 

 久しく鍛錬はしていなかったので剣筋は鈍っていたが、徐々に感覚を取り戻してきた。

 この調子なら後二日ほどで万全に戻るだろう。

 朝の鍛錬を終えた士道は深く息を吐く。

 あの戦いから、すでに数週間の時が経っていた。

 つい先日まで安静にすることを強要されていた士道は、ベッドで寝転がりながら本を読みふけっていた。

 悪魔討伐により冒険者ギルドから凄まじい額の報酬を受け取ったので資金には十分な余裕がある。

 そんな訳で、無理はせずに怪我の回復に務めていたのだ。

 悪魔討伐の功績により、冒険者ランクも第八級から第三級まで一気に昇格した。

 実力的には第一級だがまだ冒険者としての実績が足りないようだ。

 とはいえ、それでも破格の昇進である。

 通常は妬みや恨みを買うおそれがあるため、このような昇格の仕方はあまりやらない。

 しかし士道は先の戦いで冒険者達に認められていたので特にそのような問題は起きないと判断されたのだ。

 事実、その通りだった。


(……部屋に戻るか)


 士道が訓練をしていた場所は宿の裏手にある広場だ。

 そこへ、


「シドーさん! 朝ご飯タイムですよー!」

  

 宿屋の二階から声が降ってくる。

 仰ぎ見ると猫耳をぴょこぴょこと揺らす愛らしいレーナが、窓から乗り出して大きく手を振っていた。

 彼女は冒険者稼業の片手間に宿屋のアルバイトをしている。

 朝の鍛錬後はレーナが作った朝食を食べる。それが最近の日課だった。


「ああ。今行く」


 朝から元気なレーナに苦笑しながら宿屋一階の食堂に向かった。

 簡素な木造りの椅子に座ると、待つことなくサンドイッチやポトフなどの食事が出される。

 レーナは料理の腕が良い。思わず頬が緩む。

 

 

「ありがたい。けど……やたら量多くないか?」

「たくさん食べてください!」


 厨房で食器を洗っているレーナは、天真爛漫に笑う。

 食堂には士道以外の客はいない。

 まだ朝早いので、貸し切りのようなものだった。

 レーナは士道の対面に腰掛けると、


「そういえば、あの話聞きました?」

「聞いたぞ」

「いや……まだ内容話してないんですが……」


 いきなり話の腰を折られたレーナはジト目で士道を見ながら、


「勇者ですよ、勇者。四大国が一斉に発表してましたけど、この前の『光の柱』はやっぱり女神の伝承通りだったんですねー」


 ああ、と士道は頷く。

 ベッドで安静にしていた二週間で、この世界の一般常識や伝承、歴史や世界情勢などはきっちり調べ上げた。

 そのおかげで世間話においていかれる心配はない。

 士道はポトフの野菜を舌で転がし、温かい味を堪能しながら、


「このライン王国にも光臨したんだったよな?」


 適当に返事を返したが、実は勇者の正体について見当はついていた。

 あの『白い空間』でイリアスはこう言っていた。


 ――転移場所はランダムに設定してある。勇者召喚として王城に呼び出される奴もいれば、魔物の巣に飛び込む奴もいる。


 それに加え『光の柱』の出現は、士道がこの世界にやってきた時期と一致する。

 要するに、各国に光臨した五人の勇者は、九分九厘ぐらいの確率で士道と同じ異世界転移者である。


「みたいですね。勇者が現れたってことは、世界に大きな危機が迫ってきているってことですから、皆さん不安がってますよ」

「そりゃなぁ。……この街は悪魔に襲われてるし、下手すりゃ魔王に滅ぼされてたからな。他の街の住人とは実感か違うだろうよ…………ご馳走さん。今日も美味かった」

「それは良かったです! もっと褒めてもいいんですよ?」

「遠慮しとく」

「ええ!?」


 朝食を食べ終えた士道は冒険者ギルドで依頼を受けることにした。

 朝の鍛錬を再開したのは最近だ。

 ギルドでの依頼はまだ受けていない。

 久しぶりに冒険者としての活動をすることにしたのだ。


「待ってくださーい!」

 

 マイペースに外に出た士道を、バタバタとした足取りでレーナが追ってくる。

 冒険者ギルドまで一緒に向かうつもりのようだ。

 慌てて魔導服に着替えたらしく、服がズレて下着が見えかかっている。

 士道は苦笑して頭をポンと撫でた。


「身だしなみはちゃんと整えろよ」

「ふぇ?」


 レーナは小首を傾げたが、直後に自分の状態に気づいたようだ。

 ぷいっとそっぽを向き、頬を紅くしながら服を着直した。

 レーナはジト目で士道を見やる。

 


「むー……」

「そんな目で見るなよ。気づかないよりマシだろ?」


 レーナを適当に慰めながら街を歩く。

 少し経つと冒険者ギルドに到着した。

 両開きの扉を軽々と開く。

 ふわっと風が士道の髪をたなびかせた。

 泰然とした様子で内部に踏み込むと冒険者達がざわめき出す。


「おい見ろよ、シドーだ……」

「怪我が治ったのか……」

「"幻影"か。第三級にまで一気に上がったんだってな」


 いつの間にか"幻影"という異名がつけられている。

 おそらくは『魔眼』の効果が伝わって異名の由来となったのだろう。

 しかし、現代高校生の感性をしている士道には非常にむず痒いものだった。

 何だか嬉しそうなレーナを連れて依頼掲示版へ向かうが、そこで声がかかった。


「やぁ、シドー、レーナ。怪我はもう大丈夫なのかい?」

「エレノアか。まあ、おかげ様でな。リハビリがてら適当な依頼を探してるところだ」

「それなら丁度いいものがあるよ。実力がある人を集めてるんだ。話を聞くだけでもいいから、ちょっとこっちに来てくれるかい?」


 士道は首肯してエレノアについていく。

 彼女はどうやら裏手の訓練場に向かっているようだ。


「相変わらずだな……」


 士道は苦笑いを浮かべた。

 なぜなら、一発でグランドのものだと分かる大声が響き渡ったからである。

 

「ハッハッハ! まだまだ甘いぞ! 恐れるな、全力で踏み込んで来いっ!!」


 あの戦いで隻腕になったグランドは、冒険者稼業を引退してギルドの訓練員になった。

 今は新人冒険者の指導中らしい。

 グランドは士道の存在に気づくと、新人に自主練を言い渡して近寄ってきた。

 

「おうシドー! ようやく回復したのか!」

 

 快活に笑うグランドにエレノアは呆れながら、


「その下りはあたしが済ませたよ。それより、例の件について協力してもらいたいと思ってるんだけど」

「む……そうだな。丁度戦力が足りなかったところだ。手伝って貰えればありがたい」


 要領を得ない言葉に首をひねり、レーナに視線で問う。しかし彼女も知らないようだった。


「例の件って?」

「第六級冒険者のゴルホって覚えているかい?」


 エレノアは質問は唐突だったが、士道はすぐに思い出した。

 初めて冒険者ギルドに入ったときに叩きのめした、酔っぱらいゴリラのことだろう。


「アレがどうかしたのか?」

「この前、悪魔との戦いに参加しなかったアイツとその取り巻きは冒険者を辞めたんだよ。まあ、臆病者と後ろ指を指されたのが気に食わなかったんだろうけどさ」

「問題はその後だな! ゴルホ達はなんと、商船を襲う海賊になってしまったのだ! アホだな、ハッハッハ!」

「……なるほど。それで冒険者ギルドに討伐の依頼が出たのか」

 

 エレノアは嘆息しながら、


「あんなんでも元第六級だ。下級を出して返り討ちにされたらたまったもんじゃない。かといって、うちの上級はこの前の戦いで負傷してるのが多くてね。戦力が足らなくて保留していたんだ」

「ふむ」


 士道はエレノアから渡された依頼の書類をペラペラとめくりながら、


「参加するのは誰だ? 流石に俺やアンタだけじゃないだろ?」

「そりゃもちろん。ゴルホも海賊やるために仲間を集めてるから、それなりに人数もいるしね」

「わたしもやりますよ!」

「お、良かった。それなら今のところ、あたしとシドーにレーナ。第三級が他に二人と、後はガウス達とかの第五級の奴らかな」


 万全を期したメンバーである。

 悪魔との戦いで冒険者の数そのものが減っているので、少数精鋭で死者を出さずに殲滅したいのだろう。

 第一級のグランドは引退、ダリウスはまだ治療中であることを考えれば、現状では最強の面子だ。

 そういえば、と士道は言う。


「葉山集の奴はどうした? 確かあいつも第四級だった筈だろう?」

「……あれ、もしかして聞いてないのかい?」


 エレノアは不思議そうな顔をした。

 グランドが新人達を監視しながら、大きな声で答える。

 

 

「シュウなら一週間ほど前にこの街から旅立って行ったぞ! 何やら、やるべきことがあるらしい!」

「今、うちのギルドは戦力が減ってるからあんまり出ていって欲しくなかったんだけど……あんな真剣な目をしてたら行くな、なんて言えないしねえ」

「へぇ……」


 集は悪魔との戦いの後、まるで人が変わったように訓練に打ち込んでいた。

 きっと、無様なあの結末に思うところがあったのだろう。

 彼とは別れの挨拶を交わすような間柄でもない。

 

 士道は意識を依頼に切り替える。

 依頼書類を吟味し終えると、エレノアに告げた。


「この依頼乗ったよ。リハビリには丁度いいだろうしな」


 ――"幻影"と呼ばれた奇術師は嗤う。



 


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