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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第一章 未来を紡ぐ者へ
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第1話 「魔物との戦い」

「――――なっ」


 士道の視界には、澄み渡るような青空が広がっていた。

 この世界にもあるらしい眩い太陽が、燦々と士道を照らしている。

 美しい光景。だが、それに浸っている余裕はなかった。

 不意に覚えた浮遊感。士道がぞっとして視線を下に向けると、その先には雲が散見され、それより下方には大海原が広がっていた。

 太陽の光が海で反射し、微かに瞬いて消えていく。


「上空かよ……!」


 士道はどこにいるともしれない天使に対して悪態をつく。

 確かに光の奔流に包まれる寸前、これは無作為の転移術だとイリアスは言っていた。

 だからといって上空はないだろう。

 これでは強くなるとか悪魔を殺すとかではない。それ以前の話だ。何もしなければ士道はこのまま死ぬ。

 重力に引っ張られ、徐々に身体が加速を始めた。

 死が喉元に迫り上がるような感覚を覚え、恐怖が思考を鈍らせる。


(……混乱するな、落ち着け、状況を冷静に判断しろ)


 士道は猛烈な速度で落下しながら、瞑目して深呼吸する。

 ここはもう元の世界とは違うのだ。

 死にたくなければ思考を止めるな。

 そう自分に言い聞かせ、士道はゆっくりと目を開いた。

 緊張と恐怖はまだあるが、心は大分落ち着いた。

 目下の問題は生き延びることである。

 では、どうすればその問題を解決できるのか。

 士道は必死に思考を回転させる。

 何しろ、できなければ待っているのは死だ。

 

(……固有スキルが三つあったはずだ)


 発動の仕方は魔力を込めることだったはずだ。ステータスプレートに魔力を奪われたときに、その感覚は記憶していた。

 細かい理屈や条件などは分からないが、とりあえずは使ってみるしかない。この状況で役立つスキルは『瞬間移動』か。


(……島が二つあるな)


 士道の右手には島々が存在していた。

 一つは港が確認できる大きな島で、もう一つは小さな弧島である。

 後者の方が距離が近い。

 士道はあの島を目標に設定し、『瞬間移動』を行使する。

 体内を巡る魔力を強引に集め、固有スキルを実行した。

 士道の身体が消え、一瞬で視界が切り替わる。


「こうか……!」


 やはり実際に体験してみると気分が高揚する。

 しかし体内に充填されている魔力がごっそりと減ったような不快な感覚もあった。体感だと三割弱は消えているはずだ。

 加えて孤島を目標に転移したはずなのに、士道はいまだに上空を落下していた。これは距離制限があると考えるべきか。それとも使い方が未熟なだけだろうか。それは分からないが、一点だけ状況が好転する情報を得られた。

 『瞬間移動』は転移前に持っていた運動エネルギーが消滅する。

 つまり孤島の上に転移したところで、そのまま恐ろしい速度で叩きつけられて死ぬような事態は起こらない。

 

(……後二回使えれば良い方といったところか)


 知らぬ間に手が震える。

 近づいてきた海。重力による加速に対する恐怖をどうにか押さえ込もうとしながら、士道は冷静に思考を回転させる。

 何だかんだ言っても士道は普通の高校生でしかない。

 唐突に命の危機にさらされて、対処できる手段などそう簡単には思い浮かばない。しかし試す価値のある方策ならあった。

 士道は再び孤島に向けて『瞬間移動』を行使する。

 一瞬で視界が変化し、ふわりとした感覚の直後にまた自由落下を開始した。孤島はもう随分と大きく見える。

 限界距離はだいたい百メートル程度なのだろう。その感覚はもう掴んだ。そして残存魔力は三割程度だ。これを失敗すれば、もう魔力は残っていない。士道の手が無意識のうちに震えた。

 三回目を行使。魔力が切れた感覚。目測を見誤ったのか、孤島をぐるりと囲むように広がる砂浜の二メートルほど上空に転移した。

 一瞬ヒヤリとしたが、死ぬような高さでもない。

 そのまま地面に叩きつけられる。


「……災難だ」 


 士道は疲れ切ったように嘆息した。

 初っ端から命の危機では身が持たない。ひとまずの安全を確保できたことはいいが、この先どう動けばいいのか見当もつかない。

 やるべきことを確認する。

 まず最も重要なのは生活手段の確保である。

 異世界にも人が住んでいることは確認済。先ほど上空にいた際、大きな島の方に港町が見えた。船や煉瓦造りの建築物も窺えたので、そこまで文明レベルは低くないだろう。少なくとも金銭が流通する程度ではあるはずだ。それなら、どうにかして仕事を見つけたい。

 

(……だが、まずはこの島から出る方法だな)


 ここはおそらく無人島だ。まさか大きな島の方まで泳ぐわけにもいかない。そんな距離ではない。ボートでも造るべきか。

 士道は考えながら、半ば途方に暮れていた。

 さっき上空から孤島を見下ろしたとき、人が住んでいそうな場所を見つけることができなかったのだ。

 しかし北部には朽ち果てたような遺跡があった。もしかするとあの場所になら生活できるような施設があるかもしれない。

 何となくステータスプレートに目をやると、そういえば固有スキルの他に『鑑定』と呼ばれるスキルがついていることを思い出した。

 名前から何となく使い方の想像はできる。

 士道な試しに、遠方の海を跳ねる魚に『鑑定』を使うと、種類や生態など色々な項目が分かった。食用かどうかも判断できる。

 これは便利なスキルだ。確かイリアスの説明によると、女神が異世界転移者の為にわざわざ構築したシステムだったか。

 残念ながら、現状で魚を手に入れる手段はないのだ。


(とりあえず北にあった遺跡に向かってみるか)


 士道は砂浜に背を向けると、孤島の内部に悠然と広がる森林へと足を踏み入れていく。

 不気味な雰囲気があった。聞いたこともない虫の鳴き声が響き、見たこともない樹種が何本も屹立している。

 ここが異世界なのだと証明しているかのような光景は、士道に漠然とした不安感を抱かせる。

 それでも進むしかなかった。

 何もしなかったら飢えて死ぬだけである。

 そんな情けない結末は認めない。

 

 『鑑定』を何回も行使し、食用可能だという説明がある野草などを回収していく。このスキルは魔力消費が少ない。一度は魔力切れを起こした士道だったが、空気中に漂う魔素を吸収することで、少しずつ回復している感覚があった。だが、それも微々たるものであり、早々に魔力を再び使い切り、『鑑定』は行使できなくなってしまった。

 士道はバッグが汚くなってしまうのは早々に諦め、回収した果物や野草を詰め込んでいく。

 草むらを踏み倒しながら進んでいた士道は、ふと足を止めた。


(……獣道があるな)


 つまりは動物もいる。否。それ以外の何かかもしれない。

 十分に警戒しながら、士道は獣道を進んでいく。


(何…………だ……?)


 ふと周囲の景色に違和感を覚えた。

 士道はその場に立ち止まり、辺りを見回す。

 少し考えて違和感の正体に気づいた。

 音が消えたのだ。

 うるさかった蝉や鳥などの声が、今や一切聴こえない。

 残るのは、薄くおぞましい気配だけ。

 

(…………来るか)


 突如、眼前に出現した影があった。

 一メートルほどの身長の赤毛の猿。ただし異様に尖った鋭い爪を持っている。あんなものを受ければ、一発で致命傷のはずだ。

 魔力は切れている。固有スキルは使えない。そんな状況で殺気を漂わせている敵と相対する。絶望的な状況だった。

 赤毛の猿が、動く。

 予期していたのに反応できない。

 その速すぎる動きに士道は瞠目し、もはや本能的な反応だけで体を右に投げた。刹那。先ほどまで心臓があった位置を鋭い爪が通り抜けていく。喉が干上がるような恐怖を覚えた。


「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!」


 硬直しそうなほどの怯えを絶叫で紛らわす。大地を削るように踏みとどまり、士道の方に振り返った赤毛の猿が放つ二撃目を、咄嗟に首を捻って無理やりに避けた。

 通り過ぎた拳が士道の後方にあった木に炸裂する。

 距離を取って身を翻すと、猿の爪撃は樹木を貫通している。

 知らず知らずのうちに冷や汗が流れた。

 士道に戦う手段はない。一目散に森林の外へ向けて駆け出した。

 赤毛の猿は、追ってはこなかった。



 ♢



 士道は砂浜に戻ってきていた。

 激しかった動悸は段々と収まり、突然の戦闘に怯えていた心がほぐれていく。これが魔力の影響なのか、いくら身軽な猿とはいえ普通ではありえない速度で動いていた。

 一歩間違えれば死んでいた――その事実が士道の心を打ちのめす。

 ここがそういう厳しい世界であることを、イリアスとバーンの死合いを見たときに理解していたはずなのに。


(これが、異世界……)


 士道は警戒心を更に引き締めながらも、砂浜で休息を取る。座り込んだまま、じっと魔力の回復を待つ。

 魔力切れの状態で森の中に入るのは自殺行為だ。

 ただでさえ戦闘に慣れていないのだ。唯一の武器である固有スキルぐらいは十全に使えないと話にならない。

 気温が温暖で過ごしやすいのは不幸中の幸いだ。じっとしていても体が休まらないようなことにはならない。

 意識を休むことに集中させていると、己の体内に向けて、空気中の魔素がゆっくりと流れ込んでくる感覚を自覚した。

 元の世界にいた頃にはまるで感じない不思議な感覚だったので、少し集中するだけで簡単に違和感として捉えられる。

 一時間の休息で魔力が一割ほど回復した。つまり単純計算で九時間ほど待っていれば、全回復することだろう。レベルが上がればまた別なのかもしれないが、ひとまず現状の魔力量では。


(とりあえず、この場所は安全だろう……)


 確証はないが、森の中のように不気味な気配は感じられない。

 一時間以上も座り込んでいて何も現れないのだから、信用しても良さそうだった。これで赤毛猿が現れたら運が悪いとしか言えない。

 だが休息を取るのに睡眠は一番効率が良いだろう。

 士道は岩場の影に身を横たえると、ゆっくりと瞼を閉じた。



 ♢

 


 そして夜を越え、明け方に士道は目を覚ました。

 太陽が水平線の彼方を昇っていた。黄昏色の空は雲の下腹を焼き、鮮やかに色づかせている。きらきらと淡い光が海を反射して、まるで踊っているかのように瞬いていた。

 幻想的な光景だった。

 士道は戦闘時の興奮や恐怖が残っていたのか、なかなか眠ることはできなかったが、美しい景色を見て心が落ち着いていくのを感じる。

 突然の異世界転移。天使と悪魔の戦い。怪物との遭遇――。

 昨日はいろいろなことがあった。どれも理不尽なことばかりで、しかし何の力もない士道は状況に流されることしかできなかった。

 きっと家族は心配しているだろう。

 無断で家に帰らないようなことは今までにない。

 突如として百人も行方不明になったことで、大ニュースになっているはずだ。神隠しにでも遭ったと思われているだろうか。実際のところ似たようなものかもしれないが。

 友達も騒ぎ出している頃だろう。

 士道は皆の中心に立つことが多い人間だった。

 いつも無駄に堂々としていて、どんな状況でも頼りになると言っていたのは部活の仲間だったか。

 実際に過酷な状況に放り込まれてしまったら、このざまである。

 ただ状況に流されることしかできない。

 士道は嘆息した。父、母、妹――三人の家族の顔が思い浮かぶ。クラスの友人や部活の仲間と共に笑い合う光景を思い出す。


(皆に、会いたいな……)


 それは叶わぬ願いだと、半ば士道は確信すら抱いている。もちろん元の世界に帰れる手段が得られるならば、それに越したことはないが。


 士道は森林の方に目を向けた。あまりにも雄大な自然は、ただそこに在るだけで見る者に威圧感を与える。

 まずは昨日と同じように、北にある遺跡を目指す。

 わざわざ赤毛の猿にもう一度会いたくもないので、今度は砂浜沿いを歩いていくことにした。

 何をするにも腹は減る。士道は昨日、少しだけバックに詰めていた果物を口にした。不味くはない。飲料水がない為に喉が乾いていたが、果汁が潤してくれたのは僥倖だった。

 とはいえ、水の確保は必須だろう。

 果汁だけで生きていくわけにはいかない。

 野草は『鑑定』で食用に耐えると判明してはいるものの、流石にそのまま食べる気にはなれない。

 果物を二個ほど食べて空腹を紛らわす。食べ盛りの高校生には全然足りないが、考えなしに食べ尽くすわけにはいかないのだ。


(……よし)


 士道は現在位置を南だと仮定して、遺跡が見えた方を北だとしている。その方位関係からすると西の方から回り込むような形で、遺跡を目指して砂浜沿いを歩き出した。


 

 ♢



 しばらく歩いていると、前方の様子が少しずつ変化する。

 砂浜から、ゴツゴツとした岩場へ。尖った石や岩が増え始め、なかなかに苦労を要したが、運動部に所属していて体力のある士道なら突破できる程度のものだった。

 しかし、進んでいった先には崖があった。

 眼下には、勢い良く波が押し寄せる海が広がっている。

 どうも気づかぬ間に緩やかな登り坂になっていたらしい。


(どうするか……)


 進むことはできない。

 戻ったところで何もない。

 今度は逆に東の方から回り込む手もあるだろうが、食糧は果物が残り二個。飲用に耐える水は得られていない。

 そこまでの時間が残されているのだろうか。遺跡に何かある可能性の方が少ないのだ。率直に言って命の危機である。

 ならば赤毛の猿や、それに似たような怪物に遭遇する危険を踏まえた上で、森林に足を踏み入れるべきではないのか。

 正直、怖い。

 一歩間違えれば、運が悪かったら、何の慈悲もなく死んでいたという事実が容赦なく士道にのしかかっている。

 それでも生きていく為には必要なことなのだ。

 人は水と食糧がなければ生きていけない。当然のことだ。その当たり前がどれだけ大事なことだったのか、士道は改めて実感した。


(まだ……死にたくはない)


 士道は震える手を拳の形に変えると、硬く握り締める。

 深呼吸をして意識を研ぎ澄ますと、ゆっくりと慎重に、森林の内部へと侵入した。木陰に身を隠すように、おそるおそる進んでいると、やがて川のせせらぎが聞こえた。

 飲料水を確保できる可能性が高い。

 士道は希望を見出し、嬉々として進もうとするが――その希望を塗り潰すかのように、再び怪物が姿を現した。

 長く鋭い爪を生やした赤毛の猿が、木の枝の上に座り込み、間抜け面を晒している。ぶわっ、と恐怖が押し寄せた。気づかれないうちに木陰に逃げようとしたが、間に合わない。

 赤毛猿は士道に目を向けると、僅かに鳴き声を上げた。

 士道は『鑑定』を行使する。


 ――魔物。


 眼前の赤毛猿には、そんな表示がなされていた。

 体内に、魔石という核を宿している魔力生命体である。

 魔素の収集を本能的に求めていて、その為に人間や敵対する魔物を殺そうとする。同族では争わない程度の知性はあるらしい。


(……魔力は十全。森に棲む魔物を倒せないようでは、まともな生活手段を得ることはできない)


 持ち得る手札は三枚。

 『瞬間移動』。『魔眼』。『雷撃』。

 このうち効果の検証が済んでいるのは『瞬間移動』のみだ。

 そんなことを悠長にやっている余裕はなかったのだから仕方ないとはいえ、現状では実戦で試すしかない。

 士道は『魔眼』を行使した。視界が僅かに赤く染まる。すると、士道は本能的に何ができるのかを理解する。

 ひとつは敵の動きを先読みすること。

 もうひとつは敵に幻影を見せることだ。

 具体的な検証がしたいところだが、もちろん敵は士道の思惑通りに動くことはない。


(――速っ!!)


 突如として迫ってきた赤毛猿の変則的な攻撃を横に飛んで躱し、思い切り身体を振り回して回し蹴りを放った。

 スパァン!! という快音と共に小柄な猿が吹き飛んでいく。

 正直なところ直撃するとは思っていなかったので士道は少し驚いた。

 とはいえ。


(……そりゃそうだ)


 赤毛猿はあっさりと立ち上がった。

 特に怪我をした様子も見受けられない。

 だが攻撃を受けたせいで、警戒度が上がったらしい。心なしか視線が鋭くなる。士道の視線と交差する――刹那。

 『魔眼』による幻影が赤毛猿を騙した。

 試しに士道は、自分が真っ直ぐ突進するイメージを強く意識してスキルを発動させてみたが、成功したようだ。

 ありもしない幻影を掻き消すように、赤毛猿はカウンター気味に鋭い爪を振り抜いた。

 攻撃が空を切る。そこで、魔物は幻術に引っかかったことに気づいたらしい。焦燥を浮かべながら周りを見渡した。

 だが、もう遅い。

 すでに避けられない距離にまで士道は踏み込んでいる。 

 その右腕はバリバリと音を立てながら紫電を纏っていた。

 

(これで……っ!!)


 最後の固有スキル『雷撃』を纏った右手を突き出すと同時、稲妻が落ちたかのような爆音が轟いた。

 魔力より変換された電流が、士道の身体から放出される。

 凄まじい速度で放たれた一撃が、赤毛猿を真正面から焼き尽くした。


(……なんて威力だ)


 息を荒く吐きながら、士道は地面に穿たれた穴を見やる。

 まだ雷を上手く制御できていないが、極めれば槍のように放射することも可能だろう。

 焼き焦げた赤毛猿の悲惨な姿を見て、士道は顔を歪めて地面に座り込んだ。息をゆっくりと吐く。

 人型の生き物を殺したことへの衝撃は、ないわけではない。人間を襲う魔物にだって、守るべきものはいろいろあるのかもしれない。

 だが、殺さなければ死んでいた。

 だから、士道には命懸けの戦闘を潜り抜けた安堵の方が大きい。

 これから異世界で生きていく為に必要なことだと理解もしている。

 少しばかり座り込んでいると、赤毛猿の肉体が淡い青白色の光へと変わり、士道の肉体に取り込まれていく。

 残ったのは綺麗な宝石だけだ。

 おそらくは魔石と呼ばれるものだろう。

 それを取る為に立ち上がろうとすると、己の身体に違和感を覚えた。何というか、格段に動きやすいのだ。


(身体能力が上がってる……? レベルが上がったのか)


 疑念を抱きながら、士道はステータスプレートを見た。確かにレベルは上昇していた。殺した魔物の魔素が肉体改造をしたのだろう。


 士道は拾った宝石に向かって『鑑定』する。


(やっぱり魔石ね。ひとまず貰っとくべきだろうな)


 どうやら魔石は冒険者の収入源となっているらしい。

 士道は魔石をバッグに収めると、川が流れている方へと再び足を動かす。命懸けの戦闘により精神が悲鳴を上げている。  

 これ以上探索しようという気分にはなれないが、水がなくては魚のように干上がってしまう。

 だが三歩も歩かないうちに立ち止まり、士道は苦渋に顔を歪める。

 悪態をつきながら振り返った。

 

「くそっ……。さっきの戦いが目立ちすぎたか」


 不気味な気配。それはおそらく殺気だ。

 二体目の魔物は隠れるつもりなど毛頭ないらしい。

 ガサガサと草木を揺らしながら、その巨体が姿を現ふ。

 ゲームや漫画で見覚えのある怪物を見て、士道は端的に呟いた。


「オーク……?」


 鋭い牙。大きい豚のような鼻。筋肉の塊のような大柄な肉体を茶色い剛毛が覆っている。

 ゴツゴツとした手に原始的な石槍を握るその魔物は、士道の姿を見て嗜虐的な笑みを浮かべた。

 異世界の孤島で、二度目の死闘が始まる。

 残存魔力は半分もない。

 



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