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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第一章 未来を紡ぐ者へ
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第15話 「それぞれの道」

 時は少し遡る。

 場所は冒険者ギルド。

 対策会議の終了後、一応ソロである神谷士道は一時的にパーティを組まなければならなかった。

 隣にいた猫耳少女がこちらを向く。


「わたしと組みますか?」

「そうしよう。爺さんもソロだろ? 組もうぜ」

「うむ。儂も困っていたところじゃ」


 ひとまずレーナと玄海を誘う。

 パーティの最小単位は4人からだ。よって最低でも残り一人は加入する必要がある。

 ただ足を引っ張るような者とはあまり組みたくない士道は周囲を見渡して冒険者を観察する。

 そこへ、


「あたしも入れてくれるかい?」


 士道に声をかけたのは第二級冒険者の"赤き女豹"エレノア・レッドフィールドだった。

 これほどまでに上級の冒険者が士道達に声をかけたことに疑問を持ちながらも、彼は「構わない」と首肯する。

 むしろ願ったり叶ったりだった。

 彼女以上の実力を持つ者はそういないだろう。

 

「あたしも、前からソロでやってたもんでね。どうせなら面白い奴らと組みたいと思ったのさ。ねえ、期待の新人さん?」

「別に面白くないからそこに期待はしなくていい。シドー・カミヤだ。まあよろしく頼む」

「うん。知ってるかもしれないけど、あたしは第二級のエレノア・レッドフィールドだ。よろしく」


 そう言って彼女は微笑んだ。

 さっぱりとした凛々しい顔立ちが、笑みに彩られる。

 エレノアとレーナは知り合いのようで、気安い挨拶を交わしている。


「ゲンカイ・コガだ。第八級だが、精進しよう」

「あたしが実力を疑ったの気にしてんのかい? 別にグランド公認なら信用してるさ。よろしくね」


 自己紹介が終わったところで士道は辺りを見渡す。

 できればもう一人ぐらい欲しかったところだが、他の冒険者達はすでに組み終えたようだった。


「ちょっと少ないが、この4人でやるしかないみたいだな」

「わたしたちなら大丈夫ですよ! でも一応、連携の確認とかしておいた方がいいと思いますがどうします?」

「明日の朝八時ここに集合にしよう。昼から戦いだが、その前にいろいろと確認をしたい」

「分かったよ。あたしもそう思ってたところだ」

「うむ。理解した」


 士道たちは集合場所を確認すると、その場で解散した。もう夜は更けている。

 それぞれギルドから出ていき、各々の宿へと戻っていく。

 明日の戦いに備えて十分な睡眠を取らねばならない。


(普通はもっと時間がかかるもんだが……悪魔とやらの動きは極めて迅速だ。油断はできない)


 士道はすっかり人通りの消えた大通りを歩いて宿屋へと向かっていた。

 満天の星空が頭上に広がっている。


(しかし、悪魔…………ねぇ)


 きらびやかな空とは裏腹に、士道は複雑な心境だった。

 彼は女神にも魔神にも協力する気はない。気に食わないからだ。

 しかし悪魔は魔王の配下だ。

 つまり、それを倒すということは女神の味方をすることになる。

 

(ってもギルドの強制依頼である以上、逃げるわけにもいかないしな)


 その上、悪魔とやらを一目見ておこうという考えもあった。

 己の敵に立つかもしれない勢力については分析しておく必要がある。


 士道の資金ならば金を払って強制権を外すこともできるが、その場合は冒険者達から後ろ指を指され仕事にも支障が出るかもしれない。

 それに、街の人々を見捨てたいわけでもないのだ。助けられるのなら助けたいに決まっている。

 なら、多少は癪でも、受けるしかない。

 

「……やるしかないか」


 士道は苦々しげに呟く。

 その言葉を聞いていたのか、物陰から一人の少年が姿を見せる。

 彼は高圧的な声音で士道に告げた。


「今、なんと言ったハズレ術師。もう一度言ってみろ」

「…………葉山か」


 士道は目つきの鋭い痩せぎすの男――葉山集を発見して足を止めた。

 彼は壁に背を預けながら、薄気味悪い笑みを浮かべている。


「『白い空間』のときから思っていたが……貴様は女神様に対して敬意がまるでないな」

「…………何を言ってる? 突然呼び出して元の居場所を奪い、こんな世界に転移させたんだぞ。恨みこそすれ、敬意なんて抱くはずもないだろう」

「……気に入らないな、その考え。まぁ、それが普通なんだろうが」


 目を細めながら、集は告げる。

 士道は眉をひそめて彼を見やった。

 集の考えが本当に理解できないのだ。イリアスによる状況説明しかされていないあの『白い空間』で、会ってすらいない女神に敬意を抱くなど難易度が高すぎるだろう。

 集はなかば洗脳されているように、身振りを加えて話し始めた。


「僕は選ばれたんだよ、女神様の忠実な使徒として……まあ、君は間違いで呼び出されたハズレ術師だから別なんだがな」


 集の瞳を彩るのは選ばれし者ゆえの傲慢か。

 それとも、もっと別のものか。

 士道は気味悪そうに彼を見やる。

 


「……何だお前。どうして女神をそんなに崇拝している? 俺たちは奴に会ってすらいないはずだ。天使から断片的な情報を得ただけに過ぎないのに」

「僕は女神様に会ったよ。『白い空間』に呼び出される前に」

「何…………?」


 士道は懐疑的だった。

 そんな経験はなかったし、玄海からもそのような話を聞いたことはない。

 集は訝しげな士道を無視して話を続ける。どこか、熱に浮かされたように。


「僕は生まれつき、歩くことのできない人間だった。まあ、端的に言えば半身不随かな」

「…………」

「現実は地獄だったよ。苛つくだけの同情と嘲笑に晒され続けて、僕はただ、まともに生きることすらできずに死んでいくんだろうなと漠然と思っていた」

「……だが、今こうしてお前は歩いているだろう」

「そう。そうだ! あの方は、僕にこの足をくれたんだ!」


 それは心からの叫びだった。

 なるほど、確かに忠誠を誓うのも頷ける理由である。


「……その代償として、この世界に呼び出されてるってことか?」

「代償などという考え方はしたくないな。僕は望んであの方の手伝いをしているんだ」

「……へぇ。良いように操られてるだけにしか見えんがな」

「だとしても」


 強い声音だった。

 女神を盲信しているわけではないらしい。その辺りの覚悟はすでにしているのだろう。

 それだけ女神の祝福が彼にとって救いとなったのか。  

 ただ利用されているだけの存在になっていたとしても。

 その理由だけは士道には否定できなかった。


「僕はこの恩を絶対に忘れない。あの方のために生き、あの方のために死ぬ」

「……そりゃ大層なことだが、それを俺に押し付けるなよ。俺はお前と違って相応の理由なんて用意されちゃいないんだ。不快感を持って当然だろうに」

「……まあ、それはそうなんだけどな」

 

 集は肩をすくめながら、


「そうは言っても女神様は、復活しようとする魔神の手から世界を救おうとしてるんだぞ。それに協力こそすれ、敵対する理由はないだろう」

「その情報が正しいという根拠は何処にある? 俺達は天使から一方的に説明をされただけだぞ。虚偽が混じっていてもまったくおかしくない。本当は世界を滅ぼそうとしているのが女神だったらどうする?」

「……」

「分かったら、お前らで勝手に茶番劇を繰り広げていろ」

「……これは誤算だったよ、ハズレ術師。どうも僕と君では立ち位置が違いすぎて話が繋がらない」

「……その通りだな。俺は今でも、奴をただの大量誘拐犯だとしか思ってない」

「まあ悪魔撃退戦に参加するのなら、別に文句はない。ハズレ術師とはいえ転移者なら、それなりに役に立つはずだしね」

「……一つだけ教えておく」


 士道の双眸に冷徹な眼光が宿る。

 一人で勝手に盛り上がっていた集が気圧されたように一歩退いた。


「女神の意志だろうが何だろうが、俺の道の邪魔をするな」


 士道はそう告げて集に背を向ける。

 二人の転移者は道を違えた。


 ♢


 建物の屋上では玄海がその光景を静かに見下ろしていた。

 穏やかそうな瞳に好々爺然とした苦笑を浮かべている。


「……若いのぉ。愚直なまでに真っ直ぐで、この世の汚い部分をまるで知らない顔じゃな」

  

 だからこそ、死なせたくない。

 これから先の未来を紡ぐ者達を、こんなところで潰えさせはしない。

 犠牲など老いたこの身ひとつで十分なのだ。 


 此度の戦いはきっと厳しいものになるだろう。

 玄海が遭遇した悪魔は強く、固有スキルを解放しても抗うので精一杯だった。

 おそらく第一級ですら相手にならない。そんなレベルの怪物。

 それが悪魔だった。


 ――それでも、勝つべき理由がある。

 街に住む民草を護るために。己の夢を叶えるために。未来ある若者のために。

 玄海の胸中では、様々な理由が混ざり合ってひとつの強固な信念を生み出していた。


「そういえば、士道に教え忘れていたことがあったの……」


 戦いの足音は、刻一刻と彼らに迫っていた。

 



 


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― 新着の感想 ―
[一言] お爺さん死んじゃいそう。 結構良いキャラでしたが。 半身不随はどうでも。帰れると嘘つくような手下付き女神の狂信者なので。
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