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ハズレ奇術師の英雄譚  作者: 雨宮和希
第一章 未来を紡ぐ者へ
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第10話 「新たなる転移者」

 冒険者ギルドに併設されている酒場で、士道と玄海は視線を交わす。

 異世界転移者を見るのは二人目だが、相手がどう出てくるのかは分からない。

 友好的な関係を築きたいが、あの嘲笑を見る限り無理そうだ。

 

 ギルドのカウンターでギルド嬢とやりとりをしているダリウス・マクドネル率いる6人の冒険者は、この街で最も優れていると言われるパーティであるようだ。


「あの黒髪の男が気になるのか?」


 再び喧騒を取り戻した酒場で、ガウスがビールを呷りながら士道に聞く。

 士道は頷き、視線で続きを促した。


「確か、名前はシュウ・ハヤマ。一月ほど前に冒険者になって、一気に第四級にまで登りつめた天才だ。その成長速度に第一級であるダリウスが目をつけてな。短期間で超エリートパーティの仲間入りだ」

「へぇ。どんな戦い方をするんだ?」

「確か、火魔法を得意とする魔術師だったと思う。若さからか、少々傲慢さが目立つそうだ。そういえばシドーも黒髪黒目だが、同郷だったりするのか?」

「いや、そういう訳じゃないんだがな」


 同郷ではあるのだが、変に関係を疑われても困るので士道は誤魔化した。

 まさか女神に呼び出された仲だと言うわけにもいかない。頭のおかしい人だと思われるのがオチである。

 士道は不自然にならない程度にシュウ・ハヤマ――葉山集を観察した。

 年は大学生あたりだと思われる、中肉中背の痩せ型の男だ。

 容姿は一般的な日本人顔だが、頬がこけていて少し目つきが鋭い。

 『鑑定』を行使しようとしたが、見えない壁に弾かれるような感覚があった。


 (やっぱりか……転移者にこそ使いたいスキルだがな)

 

 士道は顔をしかめる。

 『鑑定』の効果範囲から、異世界転移者は除かれているのである。

 異世界人は確実に固有スキルを持っているので、『鑑定』でスキルを知ることができない以上、迂闊に近づきたくはない。

 ひとまず士道はダリウスたち5人を『鑑定』した。


――――――――――――――


ダリウス・マクドネル:男:27歳 

 レベル:87

 種族:人族

 天職:魔術師

 スキル:高速演算


―――――――――――――


 スキルの高速演算は、魔法を使う際の術式構築速度が異常に速くなるものであるようだ。

 士道は魔法そのものをよく分かっていないから、知ったところであまり意味はないが。

 士道はダリウス以外の4人の『鑑定』に移る。結果は、レベル70前後が2人。レベル62が1人。最後の一人はレベル53だ。

 随分とレベル差が開いている。

 集がその中でも最後に加わったということは、高く見積もってもレベル60程度と推定できる。

 そうだとしたら、レベル34である士道の倍だ。よほど魔物を殺すことに専念していたのか。

 玄海でもレベルは50ほどだったはずだ。


(魔術師らしいしな……。広範囲の殲滅魔法とかあるのか?)


 士道は思考を巡らせるが、不確定事項が多すぎて判断できないと結論づける。

 

「どうした? 考え込んでるが」

「……いや、何でもない。ダリウスのパーティには獣人もいるんだなって思っただけだ」


 問いかけたガウスに、士道は当たり障りのなさそうな返答を返す。

 事実、それは少し気になっていたことだ。獣人を見るのは初めてなのである。

 流石ファンタジーと思いながら、改めて酒場をぐるりと見渡すと、気が付かなかっただけでそれなりの数の獣人がいた。

 探せば、エルフやドワーフなどの種族も見つかる。


「ああ、お前たちは遠方から来たのだったか。ライン王国は多種族国家だから、人間族だけの国から来た者はよく珍しがる」


 ガウスが良い感じに勘違いしてくれたところで、士道は疑問を尋ねた。


「獣人ってのは、人族とどんな違いがあるんだ?」

「そうだな。まあ、身体的な特徴は獣耳があったり尻尾があったりと見れば分かるだろう。それ以外で異なる点は、身体能力が生まれつき人族よりかなり高く、魔力量が人族よりかなり少ないことぐらいか」

「なるほど……。そういうことか」

「士道」

 

 ガウスと会話していた士道に、玄海が注意を呼びかけた。

 グランドと馬が合ったらしく、楽しそうに酒を酌み交わしていた玄海だが、今は少し警戒心を高めた表情をしている。

 士道は彼の視線の方向を見た。

 ダリウス率いるパーティが士道たちに近づいてくる。

 つまり、当然だが集もついてくる。

 ダリウスの目的は同じ第一級であるグランドだったようで、笑顔を浮かべて彼に声をかけた。

 ダリウスは温厚そうな顔立ちのイケメンである。魔術師なのでグランドと異なり、あまり筋肉が付いている様子はない。


「こんばんは。グランドさん」

「おう、ダリウスくんか! まぁ座れ! アンデットドラゴンはどうだった?」

「大分苦戦しましたよ。森の中で炎のブレスは反則ですって」


 ダリウスはそう言って苦笑する。グランドは大きな笑い声を上げながら、


「そうかそうか! 森はまさか黒焦げか!?」

「いえ、シュウにも協力してもらって、水魔法をバンバン使って何とかしました。流石に戦った周辺はあれですが、他は無事かと」

「ほう! 何だ、森を守る余裕があったんじゃないか」

「まぁ、自信がなければ依頼は受けませんよ。……ところで、そちらの方々は? 見ない顔ですが」


 ダリウスが士道と玄海に目を向ける。

 人の奥底まで覗き見る瞳だった。

 見定められているような視線に、士道は居心地の悪さを感じる。

 グランドは玄海の肩に手をかけると、


「おう! この二人は今日冒険者になった期待の新人だ! 何せ、こっちの爺さんは俺と渡り合ったし、そっちの少年だって第四級ぐらいの実力はあるぞ!」

「ほう……。グランドさんと、渡り合ったのですか。名前を聞いても?」


 ダリウスの瞳が驚愕に彩られる。

 それまで我関せずといった調子で、食事を食べ進めていた玄海が顔を上げた。

 

「ゲンカイ・コガ。こっちでは馴染みがない名前かもしれんが、気にせんでくれ」

「ゲンカイさんですか……。おっと、私はダリウス・マクドネルと言います。一応、第一級冒険者の端くれです」


 ダリウスが名乗り終え、彼の視線が士道に向かう。

 士道は集の動向を気にかけながら、


「シドー・カミヤ。今日、第八級冒険者になった」

「シドーさんですか。失礼ながら……ここらでは珍しい髪と瞳の色ですが」


 ダリウスはそう言って、士道と集を見比べる。

 玄海の場合は黒目とはいえ白髪なので珍しくはないのだ。

 最後尾にいた集は一歩前に出て、士道に近づいた。

 知り合いか? と視線で問うダリウスに集は苦笑する。


「確かに僕と一緒だけど、知り合いじゃないさ」


 集は近くで見ると、士道が思っていたより目つきが悪い印象を受ける。

 笑みを浮かべた彼は、どこか蛇のようだった。


「初めまして、僕はシュウ・ハヤマ。君たちの少し前に冒険者になった者だよ」

「……ああ。よろしく頼む」

「うむ」


 完璧な挨拶から敵対の意思は感じ取れないが、士道は先ほどの嘲笑を思い返す。


 笑顔の裏に、見下すような瞳が隠されていた。


 なめられているのは気に食わない。

 士道は挑発的に笑う。

 視線が交差するが、集は士道を無視して玄海に話しかけた。

 少しばかり小声だ。

 グランドと会話しているダリウスたちには聞こえないように、気を遣っているのだろう。

 

「ここに来るまではどこに?」

「……転移した先が孤島でな。士道と出会って、魔物を狩ったりしながら適当に生活していた。一月ほど経ったら、たまたま船が来てな。乗せてもらったんじゃ」

「なるほど……。大変だったようだね」

「お主は?」

「この辺りに転移して、冒険者としてそれなりにやってきたよ。後、少し大事な話が――――」

「シュウ」

「うん?」


 会話している集に、ダリウスが声をかけた。

 酒場の各地に散っていたダリウスのパーティメンバーに召集がかかる。


「そろそろ行きますよ。竜殺しの仕事ですし、今回は騎士団にも報告しなければなりません」

「あー、そっか」

「それでは。グランドさん、ご馳走さまでした。失礼します」

「何のなんの! 酒の一杯ぐらいいつでも奢ってやるわい!」

「では、儂にもう一杯じゃ。ツマミは儂が頼んでやるからの」


 上機嫌に笑うグランドに玄海。集は彼らの横を通り、士道とのすれ違いざま。



「――図に乗るなよ、ハズレ術師が」



 吐き捨てるような一言だった。






  

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