力と経験は努力のみ。
自分が何者かを忘れそうな程に深い眠りだった。
その眠りの中では、彼は暗闇の中で一人存在していた。
彼がここは何処だと考えて、自分の体を確認している時だった、遠く闇の先に、弓道場とかで見かけた的が発光して現れた。
『アレを穿て。』
何処からか、声がして自分はその声の通りに行動しようとポーチに手を掛けてバハールを呼び出していた。
夢の中なのに確りとした重さが、ポーチからバハールを召還した際に腕に伝わった。
そして、自分は通常弾を取り装填し、発射したがマシンガンの様な連射は的に当たる事無く、暗闇に微かな光の余韻をしばらく残し消えた。
『違う、あの的を弓で穿て!』
さっきよりも幾ばくか強い口調で声が命令してきた。
自分はその声に対して、少しだけイラつきながらもバハールを元に度し、新たに弓を召還した。
【雲穿弓】
ゲーム上では、単純な攻撃力に加え特殊なギミックでゲーマーを興奮さしたが、今は特にその機能に用があるわけではなく、
自分は矢筒から矢を取り出して、弓で射る体勢をとった。
『まだか。』
また、知らぬ知識が自分の動きを補助して素人の自分を助ける。
一体なんだろうかこの知識は、銃もそうだが弓も撃った事が無い自分は構えることが出来る。
普通は初めて触った物は旨く扱う事は出来ないが、自分はその武器に対して必要な知識と構えを知っている。
しかし、知っていても足りないものがある。
『もう少し、力が足りない。』
それは経験や身体的な力が足りない事だった。
どれだけ体が知っていても、知識を知っていても、それに見合う経験や力がないと武器に振り回される破目になる。
『もう少し、力を入れろ。』
そう言われても、限界まで弓の弦を引っ張っている。
しかし、弦は少しだけ引っ張れるだけで矢を飛ばすには到底足りない。
たぶん、このまま矢を飛ばしたとしても途中で落ちるかあらぬ方向に飛ぶのが目に見えていた。
『今は無理なのか・・・。』
『強くなれ・・・。』
少し落胆したかのように声は言って、今まで気が付かなかったが闇の中にあった気配と共に消えていった。
「せめて・・・せめて、傷が癒えるまでユグシルに置いていけないのですか!?」
「良いだろう!だがしかし、傷が癒えしだい速攻で出て行ってもらう!」
「ありがとございます。」
「ふん!もう、これ以上その件での話は無しだ!」
目が覚めると野太い声の男性とソプラノが効いた女性が言い争っている声が聞こえ、起きたばかりの頭が段々と覚醒してきて見ると自分はどこか知らないベットで寝ていた。
体中が痛く、特に怪我した肩とわき腹が痛むが、何とか上半身を起こして音のした方向を見た。
「あっ、あの・・・?」
「目覚めましたか、人間さん?」
ソプラノボイスの声の主であろう金髪の女性が自分に優しく声を掛けると、野太い声の主であろう体格の良い男性はドアの方向に向かっていった。
「・・・また来る。」
「兄さん、気をつけて。」
「ふん!」
そう言って、彼はドアの外に行ってしまった。
自分は状況が掴めず、周りを見渡して情報を集めたが、昔見た壮大な映画のロケ地みたいな、洋風の古めかしい家の中だと言う位しか解らなかった。
「此処は?」
「ユグシル村よ、人間さん。」
せっかく目の前の綺麗な女性に答えて貰ったが、自分はそれよりも気になった事があり聞き返してしまった。
「えっ?」
「だから、ユグシル村よ。」
場所は分かったけど、そんな事より驚きの方が大きかった。
彼女の耳はどう見ても、エルフの耳でした。