撃てない者と撃てる者。
生物を殺すという事を、一般人は何処までやっているだろうか?
例えば、指先以下の蝿や蚊といった生物を人間は躊躇無く殺す事が出来るが、それ以上のカブトムシや小鳥といった生物は殺したことがあるだろうか?
不注意や事故で殺してしまう事はあるが、嫌悪感を持つ生物はせいぜい殺しても、ゴキブリサイズ位までしかない。
それ以上の生物は例え魚だとしても、現代人には殺すことは無い。
パックでの魚は買ったとしても、生きている魚を捌く事は現代人だとまず10分の1位の人数しかいない。
『殺すのかぁ・・・。』
彼は其れを考えて、一瞬位だろうが躊躇してしまった。
それは、人としては正しい判断だっただろうが、野生の生物に対しては間違いだった。
今まで翔平を無視して咀嚼していた、熊型の獣は不穏な空気を感じたのだろうか食べるのを止めてこちらを見た。
そして、翔平を睨み力の限り強く吼えるとこちらに向かって走ってきた。
『おい!おい!糞っ!』
常に引き金を引ける状態にしていたのだが、彼の手は硬直し引くものが引けない。
それは、睨まれた瞬間に彼の体全体が凍ったように硬直し、吼えられた瞬間には動揺し混乱していたからだ。
『逃げる?動かない!』
『撃てる?指が動かない!』
思考が混乱し錯綜する。
今、此方に向かってきている死に対して、冷静に対処することが出来ない。
そうこうしている間に、熊型の獣はもう眼前まで迫ってきている。
『撃てよ!臆病者!』
自分に対しての叱責を行うが、指は動かない。
そして、彼は熊型の獣の殴りを喰らい横に3メートル位は吹っ飛んだ。
『うっぶ・・・。』
幸いな事に、バハール銃が盾になったので爪で引き裂かれて、バラバラになる事は防げたのだが、
バハールで遮れなかった所からは包丁で切られたかのように深い傷が出来ていた。
肩とわき腹から、絶え間なく痛さによる熱さと激痛が走る。
『糞っ!血が!血が!』
混乱する思考の中、命の危機を感じて銃を撃とうと彼はしたが既に時は遅かった。
肩とわき腹から流れ出る血のせいで、入るはずの力が入らず引き金が引けない。
『糞っ!死ぬのか・・・。』
もう思考も何もかも追いつかなく、絶望が半分支配していた。
しかし、もう半分の意識は生きるために必死だった。
『嫌だ!死ぬのはご免だ!』
そう考えたときだった、空気を裂く音とともに、獣の目に矢が刺さった。
獣は突然の事に混乱し、周りを見ようと周りを見渡した瞬間に次の矢が残った目に刺さった。
「えっ?」
「逃げて!」
誰かから声を掛けられて彼は混乱する思考の中で、取りあえずは逃げるという行動が出来た。
そして、段々と意識が薄れる中で体を無理やり動かして、獣の近くから離れようとしたが、獣は今度は嗅覚と聴覚を使い、取りあえず一番近い獲物を狩ることにした。
しかし、それは出来なかった。
何故なら、獣の眉間に深く今度は大きい矢が刺さり思考が停止したからだ。
『助かったのか・・・。』
彼は血の流れすぎや極度の緊張から開放された安堵の為か、段々と意識が薄れてきた。
しかし、何とか助けてくれた人に礼を言おうと頑張って意識を保たせていた。
「大丈夫ですか?」
『死にかけです・・・。』
既に彼は思うことは出来たが、言葉を発せずの状態だった。
薄れいく意識の中、彼が最後に見た風景は蒼い目と綺麗な黒髪の女性が見下ろしておる風景だった。