第六話 ずっと一緒。 (後編)
放課後、人気の少ない図書館の一番奥の席に、俺は舞子と向き合う形で座った。
「国語は今のままで問題ないと思う。ただ、つまらないところでのミスが多い。問題をよく読んで、もっと簡潔に答えるようにしろ」
「うん」
神妙な面持ちの舞子に、A4の用紙を差し出す。
「それから社会。おまえ、日本史はいけてるけど、世界史がだめみたいだからな。冬期講習で教わった、今年出そうな箇所を流れに沿ってまとめてきた。それと地理も。とにかくこれを覚えろ。いいな」
「これ……舞子のために」
受け取った用紙を見つめる舞子の瞳が、みるみるうちに潤んできた。
「気にするな。自分の復習もかねてだから」
「ありがとう、優希君! このプリントを暗記すれば完璧だね。舞子頑張る!」
満面の笑みで、舞子は胸の高さで握り拳を作った。
「まだ算数があるだろう」
間髪入れずに告げた言葉に、舞子の身体が硬くなるのがはっきりとわかった。
「でも、今からやっても算数は……」
言葉を濁す舞子の目線の先に、答案用紙を滑り込ませる。
「舞子、問8やってみろ」
「無理だよ! 問7が解けなかったんだよ!」
顔を上げた舞子は、驚いた表情で否定の言葉を口にした。
「いいからやってみろ」
幾分低めのトーンに、舞子は今にも泣き出しそうな表情で、渋々問題にとりかかった。
待つこと数分。
「できた!」
歓喜の声と共に、晴れやかに舞子は顔を上げた。
得意げに差し出された答案用紙を受け取り、答えを確認する。
「正解」
「本当に?」
「これでわかっただろう」
「えっ?」
疑問符を浮かべる舞子に、俺は小さなため息をもらした。
「おまえ、順番通りに問題解いてるだろう」
「うっ、うん」
「そして問7でつまづいた」
「うん」
「だから問7から先の問題には手をつけていない。違うか」
「……うん」
「いいか、舞子。できなかったらとばせ。なにもばか正直に、順番通りに解く必要はないんだからな」
「わかった」
「算数と理科は、放課後と休日を使って俺が教える」
「理科だけっていうのは……だめかな」
「だめだ」
恐る恐る尋ねる舞子に、きっぱりと言い切る。
「もしこのままにしておいたら中学で困るだろう。そして三年後。今度は高校入試で同じ事態に陥る。そうならないための勉強だ」
「優希君……そんな先のことまで考えてくれてたんだ」
「あたりまえだろう。舞子とは、ずっと一緒にいるんだからな」
「ずっと……一緒」
「そうだ」
そのためなら、俺はどんな努力も苦労もいとわない。
「ずっと一緒だ」
「うん」
繰り返した言葉に、舞子は眦に涙を浮かべ嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みは、真夏の太陽に向かって咲く向日葵のように鮮やかで、そのまっすぐさに、心から大切にしたいと思った。




