第十四話 合格発表。
合格発表当日、六年生は自宅待機となる。
プライバシーを考慮して、担任から直接、合否の電話が自宅にかかってくるのだ。
そんなまどろっこしいことをせずに、サクサクと掲示板に番号を張り出して、チャッチャと終わりにしてくれればいいのに。
もっとも私の場合、チャッチャと終わるかどうかが問題だ。
優希君のおかげで答案用紙は全て埋めることができた。
だからといって、正解というわけではない。
もちろん普段から比べたら格段にできたと思う。
でも皆も同じようにできていたとしたら意味がない。
「早く電話かかってこないかな」
出席番号順だから「夢野」の姓を持つ私は、かなり後ろの方。
何で相川とか相田とかいう苗字じゃなかったんだろう。
恨みがましい思いで電話を見つめていると、インターフォンが鳴った。
取り次ぎに出たママの悲鳴に近い声が消え終わらないうちに、居間のドアが開いた。
「優希君!?」
なんのきなしに振り返った私は、戸口に立つ優希君の姿に驚き、ソファから立ち上がった。
「どうしたの!」
「気になって」
「優希君だって連絡まだなんでしょう」
優希君の出席番号は私の二つ前だ。
「母さんに携帯に電話くれるよう頼んできた」
「心配して……来てくれたの」
「別に……心配はしてないけど」
頬を染め俯く優希君の姿に焦りは消え、穏やかな気持ちが心を満たしていった。
入試の時もそうだった。
塞ぎ込む私をさりげない優しさで救ってくれた。
そのおかげで私は自信を持って試験に臨むことができたのだ。
「ありがとう」
心の底から零れた感謝の言葉に、優希君は柔らかく微笑んだ。
その時、優希君の携帯が着信を知らせた。
「母さん? 俺。うん。今、舞子の家。わかった。ありがとう」
「どうだった!?」
電源を切った優希君にすかさず問いかける。
「合格だって」
「おめでとう!」
「ありがとう」
「まあ、優希君なら受かって当然だよね。問題は――」
舞子と言う前に、自宅の電話が鳴った。
思わず身体がビクリと跳ねた。
怖くて電話に出るどころか、会話するママの顔すら見られなかった。
現実逃避に固く目をつぶり両耳を塞ぐ。
小さく肩を叩かれ、ゆっくりと顔を上げた。
優希君の手が両耳から私の手をそっと外す。
「おめでとう。合格だって」
音楽を奏でるかのように心地よく響く声に心が震えた。
「本当……に?」
「ああ。また一緒に通えるな」
一緒という言葉が、とても素敵な言葉に聞こえた。
頬を伝い落ちる温かなものが涙の雫だと理解する前に、優希君の真っ白なハンカチが優しく拭ってくれた。
「これからもよろしくな、舞子」
「うん」
合格できたら感謝の言葉をたくさん言うつもりだった。
けど言葉なんてなに一つ思い浮かばず、ただ涙が溢れるだけだった。
そんな私を、優希君は微笑みで優しく受け止めてくれた。