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海月とゆめの終わり  作者: ここやまいぬこ


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5/5

ゆめの終わり

目をひらく。「おはよう」の声がない代わりに、私は泣いていた。

教室。いつもの朝だ。クラゲちゃんもいる。


足元がグラグラと揺れた。記憶がなだれ込む。鮮明になっていく。

確かに飛び降りた。強烈な痛みと、孤独感、疎外感。

いじめ、失恋、終わらせるには十分に足りる絶望だった。

別れの曲は飛び降りる前に弾いた曲。

あの人を想い奏でた曲。


いるのにいない、それが私だ。


席を立って教室を出た。


「____さん、どこ行くの!」

先生の大きな声で振り向くとクラゲちゃんがいた。


「____さん?席に戻って?」


「…お腹痛いのでトイレ行ってきます」


私の腕をひっぱって、クラゲちゃんが歩き出す。

どこへ行くかはわかっていた。きっと音楽室だ。


「他のクラスの子がつかってたらどうするの?」

「…別の場所に行くだけ」


音楽室は誰も使っていないようだった。


「クラゲちゃん…ううん、吉岡さん。だよね?」


悲しそうな顔でクラゲちゃんが振り返る。


「嘘つかせてごめんね。私、助かってないんでしょ?」


顔をあげられなくて自分のつま先をみた。


「自殺未遂じゃなくて、やっぱり自殺だった」


腕をつかむ吉岡さんの手に力が入る。


「現実は漫画や映画みたいなハッピーエンドじゃないんだね」


ちゃんとわかる。実感として染みこんでくる。


「お嬢、森崎さんは、いじめられてた。あたしは怖くて無関心でいた」


今度こそ明日は来ない。


「中学のときいじめられてたから、平和な高校生活が送りたくて」


私はどこかで目覚めることもない。


「森崎さんは朝早くから放課後遅くまでピアノを弾いてた。

 学校にいく理由を作っているのかもしれないって思った。

 森崎さんのピアノが一等好きだった。

 あんなに透き通った音はない。」


真っ直ぐ、吉岡さんをみた。

夕陽があたってなくたって吉岡さんは綺麗だった。

伏せた目にかかる長いまつげが羨ましい。


「友達になりたかった、は本当?」


「うん、本当。約1年半、楽しかった。この先の時間を失うのはあたしへの罰だ」


「罰?」


()()()()()()()()、罰」


「おんなじだよ」


椅子に座る。ピアノに触れる。冷たい。大きなものを失った。


「この先の時間を失うのは、神様からの私を疎かにした私への罰だよ」

「森崎さんは悪くない」

「…ううん」

「悪くない」


吉岡さんのライブへ行ってみたかった。どんな歌をうたうんだろう。

頭がかすんでいく。瞼が重たくなってきた。


「私の鞄の中にね、黒いファイルがあるの。私が作った曲。

 クラシックじゃないよ。ロックでもないけどね」


目を開けていられない。眠くて眠くてたまらない。


「吉岡さんにあげる。たくさんうたってね。私の分も」


「楽譜、読めないんだけど?」


声が震えてる。あの透き通った瞳から涙がポロポロこぼれているんだろうか。

鼻水は抑えてほしいな。綺麗な顔が台無しだから。


「勉強して。そんなんじゃバンド続けられないよ」


音が遠くなっていく。


「余計なお世話」


幻聴かな。それとも現実かな。遠くから吉岡さんのうたが聞こえる。

私も吉岡さんのうたごえが一等好きだよ。


「おやすみ、クラゲちゃん」





「おやすみ、」

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