ゆめの終わり
目をひらく。「おはよう」の声がない代わりに、私は泣いていた。
教室。いつもの朝だ。クラゲちゃんもいる。
足元がグラグラと揺れた。記憶がなだれ込む。鮮明になっていく。
確かに飛び降りた。強烈な痛みと、孤独感、疎外感。
いじめ、失恋、終わらせるには十分に足りる絶望だった。
別れの曲は飛び降りる前に弾いた曲。
あの人を想い奏でた曲。
いるのにいない、それが私だ。
席を立って教室を出た。
「____さん、どこ行くの!」
先生の大きな声で振り向くとクラゲちゃんがいた。
「____さん?席に戻って?」
「…お腹痛いのでトイレ行ってきます」
私の腕をひっぱって、クラゲちゃんが歩き出す。
どこへ行くかはわかっていた。きっと音楽室だ。
「他のクラスの子がつかってたらどうするの?」
「…別の場所に行くだけ」
音楽室は誰も使っていないようだった。
「クラゲちゃん…ううん、吉岡さん。だよね?」
悲しそうな顔でクラゲちゃんが振り返る。
「嘘つかせてごめんね。私、助かってないんでしょ?」
顔をあげられなくて自分のつま先をみた。
「自殺未遂じゃなくて、やっぱり自殺だった」
腕をつかむ吉岡さんの手に力が入る。
「現実は漫画や映画みたいなハッピーエンドじゃないんだね」
ちゃんとわかる。実感として染みこんでくる。
「お嬢、森崎さんは、いじめられてた。あたしは怖くて無関心でいた」
今度こそ明日は来ない。
「中学のときいじめられてたから、平和な高校生活が送りたくて」
私はどこかで目覚めることもない。
「森崎さんは朝早くから放課後遅くまでピアノを弾いてた。
学校にいく理由を作っているのかもしれないって思った。
森崎さんのピアノが一等好きだった。
あんなに透き通った音はない。」
真っ直ぐ、吉岡さんをみた。
夕陽があたってなくたって吉岡さんは綺麗だった。
伏せた目にかかる長いまつげが羨ましい。
「友達になりたかった、は本当?」
「うん、本当。約1年半、楽しかった。この先の時間を失うのはあたしへの罰だ」
「罰?」
「なにもしなかった、罰」
「おんなじだよ」
椅子に座る。ピアノに触れる。冷たい。大きなものを失った。
「この先の時間を失うのは、神様からの私を疎かにした私への罰だよ」
「森崎さんは悪くない」
「…ううん」
「悪くない」
吉岡さんのライブへ行ってみたかった。どんな歌をうたうんだろう。
頭がかすんでいく。瞼が重たくなってきた。
「私の鞄の中にね、黒いファイルがあるの。私が作った曲。
クラシックじゃないよ。ロックでもないけどね」
目を開けていられない。眠くて眠くてたまらない。
「吉岡さんにあげる。たくさんうたってね。私の分も」
「楽譜、読めないんだけど?」
声が震えてる。あの透き通った瞳から涙がポロポロこぼれているんだろうか。
鼻水は抑えてほしいな。綺麗な顔が台無しだから。
「勉強して。そんなんじゃバンド続けられないよ」
音が遠くなっていく。
「余計なお世話」
幻聴かな。それとも現実かな。遠くから吉岡さんのうたが聞こえる。
私も吉岡さんのうたごえが一等好きだよ。
「おやすみ、クラゲちゃん」
「おやすみ、」




