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海月とゆめの終わり  作者: ここやまいぬこ


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4/5

ほんとうのこと

「おはよう」


目を開く。私は覚えている。昨日のことだけ、確かに覚えている。

空に舞う楽譜。夕焼け。ピアノ。クラゲちゃん。


「…クラゲちゃん」


すごく驚いた顔をして、クラゲちゃんがこちらをみた。

大きな目も口も全部開いている。


「私、覚えてるよ。昨日しか覚えてないけど、覚えてる」


その日は上の空だった。

相変わらず授業はわからないし、ノートも読めない。

言いようのない不安だけが漠然と募る。


「思い出さなくていい。思い出すなよ」

クラゲちゃんが怒っている。

私は机の上に視線を落とすことしかできなかった。


「ねえ、___さん」


あ、派手な子。なんか苦手。

___さんは私?私に話しかけてる?


「___さん、おかしくなったの?1年生のときはそんなんじゃなかったじゃん」

「あ、私あの記憶が…」

「別クラの子から2年生にはいっておかしくなったって聞いたよ」

「え?去年から私こんななの?」

「見てらんないんだけど。カウンセリング受けたら?」

「…」

「…黙って」


クラゲちゃんのその一言でハァ…とため息をついて友達のもとへ戻っていった。


「ありがとう。ああいう子、雰囲気がなんか苦手で」

「うん。そうだね」

なぜか胸が重い。鈍痛がする。



楽譜を整理していたら懐かしいものをみつけた。

練習曲作品10第3番 フレデリック・ショパン作 別れの曲


久しぶりに弾いてみようかな。久しぶりじゃないかもしれないけど。


鍵盤の上を指がすべっていく。津波が押し寄せるように感情があふれ出す。

この感情はなに?どうして涙が止まらないんだろう。


()()()()をしたのはお嬢だよ」

音楽室の片隅にクラゲちゃんがいた。


「七不思議の主人公は、お嬢。全てを思い出したらスゥーって消えて…ICUで目が覚める」

「からかってる?」


クラゲちゃんは真剣な顔をしてる。


「全てを思い出したら、もう1度1年生の冬に戻るんだ」

「私が飛び降りたのは1年生の冬なのね?」

「そうしたら、この時間はきっと消える」

「この時間は、この瞬間は夢なの?」

「きっと別の時間枠なだけだよ。こっちの時間枠ではあたしたちはずっと一緒」

「じゃあ、1年生の冬に戻ったらクラゲちゃんとのこの時間を忘れちゃうの?」


返事はなかった。何も言わなくてもクラゲちゃんの表情でわかる。


「大丈夫だよ。忘れないよ」


こんな映画みたいなオチある?だってこんなにも生々しさを感じるのに?

でもそれなら腑に落ちる。私は地縛霊なんだ。学校から抜け出せない地縛霊なんだ。

ノートの文字が読めないのも、授業が頭に入らないのも、

私だけ出席確認されないのも、クラゲちゃん以外が話しかけてくれないのも、

私が存在していないから。___さんはきっとクラゲちゃんのことだ。

だってあの子に私は見えない。


「クラゲちゃんはどうして私が見えるの?」


「会いたいと思ったから」


「私たち、友達だった?」


「友達になりたかった」


また、瞼が重くなる。もうすぐ眠ってしまう。

起きたらICUにいるんだろうか。それとも普通の病室で

「先生!__さんが!___さんが目を覚ましました!」って

看護師さんがバタバタと先生を呼びに行き、家族がかけつけて私を抱きしめる。


もう少しクラゲちゃんの歌が聴きたい。

忘れちゃうかもしれない。忘れたくない。

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